編集長が語る!講義の見どころ
田沼意次の革新力~江戸時代の「新常識」/養田功一郎先生&特集【テンミニッツTV】
2025/05/30
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
江戸時代はどのような時代だったのか。そのイメージが、いま大きく変わっています。
30年~40年前くらいまでは、「貧農史観(農民は貧窮にあえいでいた)」が、ごく当たり前に語られていました。しかし、階級闘争史観に立脚したそのような見方は大きく覆っています。
さらに、江戸時代の経済政策や文化のあり方についても、かつての常識は否定されています。いま大河ドラマ『べらぼう』で取りあげられている吉原のあり方にしても、少し前までは「苦界」としての側面ばかりが強調されていましたが、当時の江戸文化に大きな影響を与えていて、ある意味では江戸の憧れの存在でもあったことに光が当てられつつあります。
また、とりわけ今年に入ってイメージが大きく変わっているのが、大河ドラマ『べらぼう』で渡辺謙さんが演じている「田沼意次(たぬま・おきつぐ)」(享保4年=1719年~天命8年=1788年)でしょう。
これまで、田沼意次といえば「賄賂政治」というのが通り相場でした。しかし、彼の政策はとても先見性に富んでいたことが注目されつつあります。なるほど、渡辺謙さんが演じるにふさわしい人物であったことは確かなのです。
本日は、そのような田沼政治の実際について、その真実を明らかにしてくださった養田功一郎先生の講義と、江戸のイメージを大きく変える話が満載の講義を集めた特集《心が豊かになる「江戸時代」の新常識》を紹介いたします。
■講義のみどころ:田沼意次の革新力~産業・流通・貨幣経済(養田功一郎先生)
養田功一郎先生の「田沼意次の革新力」講義で特徴的なのは、江戸時代の経済とそれを切り拓こうとした田沼政治について、統計グラフなども駆使しつつ、その実態をとてもわかりやすくお示しくださることです。
実は1700年から1800年くらいのあいだは、経済的に大きな転換期を迎えていました。そのようななかでの江戸幕府の対応を見ていくと、優秀な経済官僚が、まことに的確に「自分たちの頭で考えた政策」を行ない、経済成長を導いていたことがわかります。
教科書で習う「江戸時代の経済改革」といえば、「倹約」が真っ先に強調されがちです。
もちろん、江戸時代は一面では「武士がお金を扱うのは不浄である」などという観念もありましたし、「倹約」が強調されていたこともまぎれもない事実です。しかし、そればかりを見ていると、江戸時代の経済について、大きな思い違いをしかねません。
では、実際には、どのような「経済政策」が行なわれていたのでしょうか。
◆養田功一郎:田沼意次の革新力~産業・流通・貨幣経済(全6話)
(1)田沼意次の生い立ちとその時代
田沼意次とは?再評価で注目の人物像と時代背景に迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5812&referer=push_mm_rcm1
講義の第1話は、江戸時代の人口や耕作面積、生産性の推移をグラフで見て、経済の状況を概観しつつ、田沼意次の生涯を概説していきます。
田沼の同時代の人々からは、田沼意次は「またうど(全人)のもの=正直な人、律義者」「はつめいの人=賢い人」と評されていたとのこと。忠義芯が篤く、気配り上手でアイデア豊富な人物として浮かび上がってきます。
まさにこのパートは、田沼政治の根幹を理解するために、まず知っておくべき部分といえましょう。
さらに養田先生は、次のような田沼政治の諸政策に注目していきます。
●株仲間再編・推奨=商業経済が発展していくなか、これまでの米中心の税制のみならず、商業税収も確保すべく改革。また大阪に物流を集中させて、既存の大阪商人の利益を守ると同時に、全国の農産物・工産物の生産状況の把握をめざす。
●御用金令、貸金会所政策=いわば「政府系金融機関」の設立。米経済に立脚した大名たちが借金を重ねるなか、商人の大名貸しよりも低利で融資し、幕府も利ザヤを得ることをめざす。
●貨幣改革=貨幣の改鋳により、市中の貨幣流通量を増加させ、景気拡大を実現(=リフレ政策の成功例)。同時に幕府として通貨発行益の確保をめざす。
さらに、印旛沼・手賀沼の開拓や、蝦夷時開拓など、国土開発・貿易政策にも着手しています。蝦夷地開拓はロシアとの交易も切り拓こうとする野心的なものでした(しかし、これらは浅間山の噴火や田沼の失脚によって、残念ながら頓挫することとなります)。
養田先生は、このような田沼意次の重商主義的政策は、「単なる金儲け主義というのではなく、これまでにないビジネスモデルの発展とそれに対する課税の導入、国家の歳入改革であった」と指摘します。そう考えると、田沼のアイデアや行動のつながりが理解できるというのです。
とても重要な視点といえましょう。具体的にはどのようなもので、どのようなことが行なわれたのかは、ぜひ講義本編でご覧ください。
このような田沼政治が、まさに蔦屋重三郎、喜多川歌麿、鈴木春信や、与謝蕪村、小林一茶、さらに本居宣長などの国学、さらに杉田玄白、前野良沢、平賀源内などが活躍する江戸文化興隆の大きな基盤になっていくのです。
しかも、実は田沼政治の功績は、連続性があったともいいます。田沼政治は続く松平定信の「寛政の改革」で否定されるわけですが、しかしその寛政の改革期、さらにその後にわたって田沼意次が切り拓いた政策は続けられていたというのです。
このあたり、江戸時代の創意工夫は本当に興味深いものです。さらに、政治の良し悪しが、いかに庶民の暮らしや文化興隆に直結するかも見て取れます。いま、このような時代だからこそ、ぜひ見ておくべき講義です。
■特集:心が豊かになる「江戸時代」の新常識
いままで述べてきたように、江戸時代について、教科書で学んだことが大きく変わってきています。当時、庶民の文化水準の高さが圧倒的に世界一だともいわれる「江戸」。なぜ、そのような豊かな文化が花開いたのでしょうか。いかなる経済政策を展開されていたのか。また、徳川幕府の政治のあり方の真髄とは……。
もしかすると、現在の日本よりもはるかに創意工夫に満ちていた社会だったかもしれません。そんな江戸時代の新常識を知れば、現代日本人の心も豊かになること、うけあいです。
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=262&referer=push_mm_feat
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(※アドレス再掲)
◆養田功一郎:田沼意次の革新力~産業・流通・貨幣経済(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5812&referer=push_mm_rcm2
■特集:心が豊かになる「江戸時代」の新常識
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=262&referer=push_mm_feat
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