編集長が語る!講義の見どころ
大規模研究が明かす「今どきの若者たちのからだ、心、社会」/長谷川眞理子先生【テンミニッツTV】

2025/07/08

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

人間にとって「思春期」とはいかなる意味を持つ時期なのか。そして、今どきの若者たちの「思春期」はどのような実情なのか。

思春期は誰しもが通り過ぎるものです。だからこそ、いろいろな感慨を覚えますが、一方で、誰もが経験するものだけに「時代によって変わるもの、変わらないもの」を正しく認識するのが難しいかもしれません。

今回は、長谷川眞理子先生(総合研究大学院大学名誉教授)の《今どきの若者たちのからだ、心、社会》講義を紹介します。この講義は、長谷川先生が取り組まれたアジア最大規模の思春期コホート研究「東京ティーンコホート」をベースにしたものです。

コホート研究とは、「ユーザーを属性でグループ分けし、時間の経過に伴う行動変化を追跡・分析する」もの。なんとこの研究では、10年前(2012年~2014年)に10歳だった子供たちを10年間追跡調査したのです。世田谷区、三鷹市、調布市の10歳の子供たち6000人から抽出して、最終的には10年間にわたって「3171人」のデータを取得したといいますから、いかに大規模な研究であったかがわかります。

はたして、そこから見えてきたものとは?

◆長谷川眞理子:今どきの若者たちのからだ、心、社会(全4話)
(1)ライフヒストリーからみた思春期
なぜ思春期は大事なのか?コホート研究10年の成果に迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5851&referer=push_mm_rcm1

この講義の最初に、長谷川先生は生物としての「ヒト」の子供の成長の特徴をご解説くださいます。何より特徴的なのは、成長速度の違いです。

たとえばイヌは、生後3か月で「離乳」し、2歳ぐらいまでに「性成熟(=子供が産める)」をし、13歳前後ぐらいまで生きます。一方、ヒトは2~3歳まで「授乳」し、離乳してから7歳ぐらいまでが「幼児期」、12~13歳ぐらいまで「子ども期」、12~14歳ぐらいから「性成熟」して、14歳ぐらいから「思春期」となります。

では、人が「大人」になるのは、いつか?

実は最近の研究で「ほんとうの大人の脳みそが完成するのが25歳」ということが判明したとのこと。なるほど、ヒトは本当に成熟に時間のかかる生き物です。

よく、「思春期は波瀾万丈」といわれますが、それもそのはず。思春期という時期は、からだを(脳に)追いつかせること、性成熟させること、脳みその配線を変えることを一挙にやらなければいけない時期なのです。

「だから、青春期の脳みそがどうなっているかを知りたい」。長谷川先生はそうおっしゃいますが、しかし、これまであまりまとまった研究がありませんでした。

そこで長谷川先生が研究代表者となって、「ティーンコホート」研究が行なわれることになりました。これは諸外国でも進んでいる研究ですが、日本でも実施する運びになったのです。

では、その「ティーンコホート研究」から見えてきたものは何か。

詳細はぜひ講義本編でご覧いただければと思いますが、いくつかを紹介いたしましょう。

◆「握力」が悪いと(=筋力が低いということ)、メンタルヘルスもよくない⇒子供から思春期は、なるべく多く運動したほうがいい。

◆アメリカのデータでは、2009年からの15年で睡眠時間が7時間に足りない若者の割合がどんどん増えた(特に 2013年から激増)⇒悲観・絶望感を感じている若者の割合も、2009年から激増している⇒十分な睡眠時間が思春期の健康な生活に絶対基本的に必要だが、睡眠が削られたのはデジタルデバイス(=スマホ、タブレット)の影響。

◆「東京ティーンコホート」でも、思春期女子でSNSの利用頻度が高いと、やせ願望が強い。摂食障害になりやすい。

◆インターネットを濫用すると、多動・不注意が強まり、抑うつも強まる。多動・不注意、抑うつが強まると、インターネットの濫用がさらに増える悪循環になりやすい。

◆ヒトは「思春期の記憶」をすごく覚えている。いくら歳をとっても10歳から20歳あたりの記憶はよく思い出される。イギリスとの共同研究では、思春期に「興味や好奇心を大切にしたい」という価値意識を強く持つことができた人が、高齢期(60代前半)の高い幸福感につながっている。

◆10歳児調査では、子どもの幸福感は母親との関係に限定され、父親の影が薄い⇒ところが、12歳、14歳になると、父親との良い関係が子どもの幸福感に非常に強い影響を与えるようになる⇒父親との良い関係は思春期の子どもの幸福感を支える。父親が母親を具体的に支え、母親から信頼を得ていること非常に重要。

多くのデータで、次々と研究結果が明かされていく本講義。現代社会の問題点の縮図を見るようでもあり、また子供の成長の社会環境が与える影響の大きさにも、あらためて目を見張らされます。その意味で、誰にとっても必見の講義といえましょう。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆長谷川眞理子:今どきの若者たちのからだ、心、社会(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5851&referer=push_mm_rcm2


----------------------------------------
今週の人気講義
----------------------------------------

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは
小原雅博(東京大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5805&referer=push_mm_rank

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは
木下康司(元財務事務次官)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5837&referer=push_mm_rank

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」
與那覇潤(評論家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5843&referer=push_mm_rank

シフトワークによる脱同調に要注意…時差ボケへの対策は?
西野精治(スタンフォード大学医学部精神科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5827&referer=push_mm_rank

豊かな江戸文化の礎は?…「享保の改革」以降の政策を比較
養田功一郎(元三井住友DSアセットマネジメント執行役員)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5817&referer=push_mm_rank