編集長が語る!講義の見どころ
〔特集〕選挙の前に「民主主義」を真剣に考える/橋爪大三郎先生ほか【テンミニッツTV】
2025/07/18
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
いよいよ参院選の選挙日が目前です。「事実上の政権選択選挙」という論評も盛んに挙がるなか、しかし色々な方々にお話しをうかがうと「今回の選挙は、どこに投票すればいいのか本当に難しい」という声が多く聞かれます。それだけ、政治や政党の現状が、国民の願いから乖離してしまっているということかもしれません。
このような選挙になると「こんな民主主義で大丈夫なのか」という疑念も心のどこかにもたげてきかねません。とはいえ「民主主義は最悪の政治形態である。ただし、過去の他のすべての政治形態を除いては」というチャーチルの皮肉の利いた名言もあります。
こういうタイミングにこそ、民主主義について、あらためて深く考えてみてはいかがでしょうか。
いま世界中でデモクラシーが危機に瀕していますが、それはなぜなのか。そもそも、なぜ民主主義が「最善」なのか。民主主義をうまく運営するために大切なこと、考えておくべきこととは何か……。多くのヒントに満ちた講義群です。
■特集:選挙の前に「民主主義」を真剣に考える
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=266&referer=push_mm_feat
橋爪大三郎:なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
曽根泰教:選挙と政治権力…「選挙に勝つ」とはどういうことか?
日野愛郎/島田光喜:世襲、官僚、叩き上げ…3つの国会議員の是非を議論する
齊藤純一:デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
川出良枝:モンテスキューとルソー…二人の思想家の共通の敵とは?
■講座のみどころ:なぜ民主主義が「最善」か(橋爪大三郎先生)
本日は、橋爪大三郎先生(社会学者/東京工業大学名誉教授)に、「民主主義の本質」についてお話しいただいた講義を紹介します。
橋爪先生は、「民主主義は、これまでに考えられた制度のうち、最善のものである」という問題提起をされます。
このような言葉を聞いたことがある方は多いと思います。では、なぜ最善なのでしょうか。そして、そもそも「民主主義の本質」とはどのようなものなのでしょうか。
民主主義についてのイメージが一新し、目が開かれる講義です。
◆橋爪大三郎:民主主義の本質(全5話)
(1)近代民主主義とキリスト教
なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5289&referer=push_mm_rcm1
なぜ、民主主義が「これまでに考えられた制度のうち、最善のもの」なのか。それについて橋爪先生は、「民主主義は仕組みであり、ひと言でいえば『法の支配』である」と喝破したうえで、下記のように明快に指摘されます。
《法が上で、その下に人がいる。法が上で、その下に権力がある。人間が権力を持つと、間違える場合がある。間違えた場合に、これを正す方法があるのか。法があれば、法に従って、その誤りを正すことができる。その仕組みを持っているのが民主主義で、民主主義以外のものはそういう仕組みがない。ゆえに、いちばん優れているといえると思います》
一般には、「みんなで物事を相談して決めるのが民主主義」などと考えられがちでもありますが、「人間の間違いを正す方法」という部分に着目すると色々なことが見えてきます。
一方、ソ連共産党も、ヒトラーが率いるナチスドイツも、それぞれ法律に基づいて独裁権力を打ち立てました。それらはなぜ上記のような意味での「法の支配」とはいえないのか。そこについても、橋爪先生は明確にお答えくださいます。
次に橋爪先生が指摘されるのは、近代民主制の基礎となったキリスト教(とりわけプロテスタント)の教会社会のあり方です。
キリスト教の原則からすると、神(God)が人間を支配するのが無条件で正しく、人が人を支配するのは「条件付き」で正しい。どのような条件かというと、その支配が神に認めらえた場合です。
カトリックでは、神を地上で代理するのはカトリック教会だとされました。しかし、それに異議を唱えたのがプロテスタントです。しかも、プロテスタントは諸派に分かれていきます。
すると、どうなったか。
それぞれが「神ならば、こう考える」と信念を持っています。良心や信仰ということでいえば、バラバラであることが正しいのです。だから少数派になっても、その信念をもって活動をしつづける。
しかし実生活では決めなければならないことがあります。だから、議論をして、最終的には多数決で決めることになります。
多数決で集団の意志は決める。地上には地上の権威が必要なので、皆で議論をし、皆が納得できる法律をつくって、その権威に従う。けれども、少数者は少数者として尊重される。
しかも、「人権」は神が与えたものなので、「法律」より上だとされます。「人権が先にあり、それを守るために、契約(憲法)を結ぶ」という順番なのです。
このような考え方に立脚しつつ、まずはアメリカなどプロテスタント社会で近代的な民主主義が形づくられていきました。このことを理解しておくと、民主主義の本質がだんだんと見えてきます。
しかし、そのような論理は世界で共通しているわけではありません。橋爪先生は、カトリック社会や正教会、さらにヨーロッパ以外の諸地域ではどうなのかをお話しくださいます。イスラム教における民主主義の捉え方など興味深い論点も提出されますので、ぜひ講義第3話をご覧ください。
そのうえで考えるべきなのが、日本についてのことです。
日本にはもともと、専制的な権力者が嫌悪され、皆で決めることを重んじる「民主的な風土」がありました。これをどう考えるべきなのでしょうか。
橋爪先生は歴史を総覧しつつ、検討を進めていきます。たとえば、日本がきわめて速やかに近代化できた1つの理由は「尊王思想」であり、これは少しだけイスラム教のジハードに似ている……などの喝破は、まことに興味深いものです。
さらに明治時代の憲法と議会、さらに官僚の関係が、現代にまで続いているというご分析も重要なものでしょう。そのうえで橋爪先生は、こうおっしゃいます。
《法律はほとんど中央省庁がつくっている。こういう状態のものを、今、「民主主義」と呼んでいるわけです。ですから、日本人は民主主義をよく理解し、それを運用する能力が高いのかといえば、決してそうではありません。ただ、実際の労働の現場とか、村や町の共同体では中央省庁と関係なく、私たちが相談して、現場のことは全部決めるのがいちばん正しいという精神は生きている》
このような日本が民主主義を強化するために、どうすればいいのか。
もちろん、プロテスタントを真似するということではありません。橋爪先生は「議論の重要性」を強調されます。そして、選挙における「予備選挙」の導入などの手立てをご提案くださいます。
非常に印象深いのは、そのようなお話のなかで、橋爪先生が「議論というのは負ける覚悟をしないとできない」と指摘される部分です。言論を育てるためには、「負ける経験」が必要なのだと。
それぞれ具体的にどのようなことかは、ぜひ講義第4話と第5話をご覧ください。
そのうえで、20世紀前半の民主主義が全体主義に押しつぶされそうになった歴史を振り返りつつ、民主主義の発展には、自国の歴史と文化を理解することが不可欠だとおっしゃいます。そして、民主主義の共通の価値観を持った国々が連携して、権威主義的な国に人類が呑み込まれないようにしなければいけないと強調するのです。
下記の橋爪先生の「まとめの言葉」は、本講義を学んでくると、ますます深く心に響いてきます。
《民主主義は、自分のためのものであり、みんなのためのものです。そして、これまで考えられた、いろいろな制度の中で、最善のものであると私は思います。皆さんもそう思うならば、この民主主義を守り育てるために、何ができるかということを考えていただければと思います》
原理原則から、具体的なあり方を説き起こしていく。その議論の流れのなかで、自分自身の「民主主義観」をしっかりと検討していくことができる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆特集:選挙の前に「民主主義」を真剣に考える
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=266&referer=push_mm_feat
◆橋爪大三郎:民主主義の本質(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5289&referer=push_mm_rcm2
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