編集長が語る!講義の見どころ
必読の古典「ホメロス叙事詩」を知る/納富信留先生(テンミニッツTVメルマガ)

2020/12/11

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
古典を知ることは、「文明の本質」を理解するうえで、とても重要なことでしょう。では、西洋文明を知るうえで欠かすことのできない古典は何か――その重要な作品がホメロスの叙事詩であることは、誰もが認めるところでしょう。

本日は、そのホメロスの叙事詩『イリアス』と『オデュッセイア』について、納富信留先生(東京大学大学院人文社会系研究科教授)が解説くださった講義を紹介いたします。

特筆すべきは、本講義中で納富先生が「古代ギリシア語」でホメロス『イリアス』の冒頭の7行を朗読してくださっていることです。このホメロスの叙事詩は、1行ずつが6脚からなっている「六脚韻(hexametros)」になっていますが、「古代ギリシア語」でそのリズムや抑揚を直に体験できる、まさに動画ならではの珠玉の時間です。

納富先生の講義は、作品の精神性、芸術性までみごとにご紹介くださった絶品です。

◆納富信留:「ホメロス叙事詩」を読むために(全9話)
(1)ホメロスを読む
2700年前の詩人ホメロスが時代を超えて感動を与え続ける理由
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3564&referer=push_mm_rcm1

納富先生がまず強調されるのは、ホメロス叙事詩は大河ドラマのように最初の出だしから最後までが1つの大きな物語をなしているので、ぜひ通読すべきこと。また、ホメロスの詩自体が音読されたものであるので、ぜひ自分一人でも、友達と一緒にでも、音読すべきであることです。

さらに納富先生は、『イリアス』の冒頭部分について、土井晩翠、呉茂一、松平千秋の訳をそれぞれ紹介してくださいます。ホメロスの「詩」としての魅力を、いかに日本語に訳出するのか。その翻訳者の苦労と工夫を比較してご紹介いただけるのも、受講者として、まことにありがたいことです。

『イリアス』と『オデュッセイア』がいかなる作品か。まずは『イリアス』についての納富先生の解説を紹介しましょう。

《『イリアス』は、一言でいうと「戦争叙事詩」で、トロイア戦争の攻防を非常にドラマチックに描く、大河ドラマのような作品です。単に戦争というものを描くだけでなく、エンターテインメントの要素もあり、学びの要素もあり、人類の知恵が凝縮されたような作品です》

一方、『オデュッセイア』については、次のようにおっしゃいます。

《トロイア戦争後、トロイアの木馬の計略を考え出した英雄オデュッセウスが、戦後10年にわたって経験せねばならなかった冒険物語。前半は未知の国を経めぐって、怪物や魔女などと渡り合うというおとぎ話のようなお話。後半は自分を裏切った連中を一挙に殺してしまうという復讐劇で、どちらかというとサスペンスもののような感じです》

納富先生は、それぞれの作品について、名場面を紹介しつつ、物語の構造や背景、読みどころを次々と教えてくださいます。たとえば、物語の背景として理解しておくべき「ギリシア神話」について、次のように指摘されます。

《重要な点は、ギリシア神話というと、つい「物語」であるとわれわれは捉えがちですが、古代のギリシア人にとっては当然生きた信仰の対象だったところです。彼らは常に神殿に行って、お供えをして祈り、何か悪いことがおこると神々による罰ではないかとリアルにおびえていたのです。ですから、決して文学のなかの物語だとは思われないようにしていただければ、と思います》

《神は誕生すると、それ以降は決して死ぬことがない。それに比べて人間は、生まれ落ちて以来、病気やけがが絶えることなく、やがて死んでいく。そういう、はかない人間と永遠の神という大きな対比があります。(中略)戦場で向き合って戦うお互いのものたちというのは、はかない存在である。こういう世界観に貫かれたところで展開されているのが、二つの叙事詩ということになります》

神々の思惑に翻弄されつつ活躍し、苦闘し、死んでゆく英雄たち。一方で、人々の悲劇的な様子を見ながら、ときには哄笑(こうしょう)さえする神々。永遠の神々と、はかなき英雄たちが織りなす運命の物語が、あふれる情感をもって克明に描かれていくのです。

それぞれのホメロスの叙事詩はどのような話なのか。読みどころはどこか。そこに込められているものとは……。それらについては、ぜひ講義本編をご覧ください。講義そのものも、まさに古典を読む楽しさと智恵とヒントに満ちた「みごとな作品」になっています。

(※アドレス再掲)
◆納富信留:「ホメロス叙事詩」を読むために(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3564&referer=push_mm_rcm2


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今週の「エピソードで読む○○」Vol.15
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今週はこれまで趣向を少し変えまして、人ではなく、言葉に着目しました。
今回の○○は、明治憲法の草案にあった「シラス」という言葉です。

シラスとは、「しろしめす」「しらしめす」ともいう、天皇による統治を意味する言葉です。「日本の国は天皇陛下がしろしめす」等といった形で使われます。シラスとは、現代語で言えば「治める」「統治する」という意味です。

これがなぜ古語においては「シラス」になるのかについては、いろいろな解釈があります。特にこの言葉を巡っては、井上毅という人物が大日本帝国憲法を作る時に、いろいろと考証をしました。その中で井上は、「シラス」、つまり天皇が政治を治めるという点に日本の政治の本分があるということを喝破し、大日本帝国憲法の第1条を、この言葉を使って書こうとしました。

明治憲法の草案にあった「シラス」に日本政治の本分がある
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3422&referer=push_mm_episode


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レッツトライ! 10秒クイズ
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「歴史・民族(西洋史)」ジャンルのクイズです。

『ロビンソン・クルーソー』を書いたダニエル・デフォーはその3年後に刊行したのが、コロナ禍の今年、注目された『○○○の記憶』です。
さて、○○○にはどんな言葉が入るでしょう?

答えは以下にてご確認ください
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3675&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。

さて、今年はコロナによって仕事の仕方も生活のスタイルも大きな転換が迫らせた年でしたが、皆さんはどんな一年だったでしょうか。
今年も残すところあと20日ほどですので、このあたりで一度振り返ってみてもいいかもしれません。
個人的にはテレワークを進めながら、収録、編集などを行うということで、気が付くとあっという間に師走になっていたという感じです。
年末に向けてもうひと踏ん張りですが、今年の年末年始に読んでみたいと思う本がありますので、ご紹介いたします。

『たのしい不便―大量消費社会を超える』(福岡賢正著、南方新社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4931376371

不便なのにたのしいとはこれ如何に。20年ほど前に発刊された本で、アマゾンの紹介文にはこうありました。

「買って使って捨てるだけ。そんな暮らしにはウンザリ。毎日新聞記者が試みた、消費中毒からの離脱を目指す人体実験。大反響を呼んだ毎日新聞(西部版)連載企画を完全収録。」

なぜこの本を読んでみたいと思ったのかというと、著者が自分で「不便」を実践・体験しているというところに惹かれたからです。
もしかしたら、いまの「不便」を乗り越える術、そのヒントが詰まっているかも。そう考えるだけで「たのしく」なってきたこともその理由の一つです。
そして、そのヒントをこれからのテンミニッツTVにも生かしていきたい。そう考えている今日この頃です。