編集長が語る!講義の見どころ
(特集)「中国の本質」と日本の未来/垂秀夫先生【テンミニッツ・アカデミー】
2025/09/26
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
10月1日は中華人民共和国では「国慶節」。1949年10月1日に、中国の天安門で毛沢東が中華人民共和国の建国を宣言したことを記念した中国の祝日です。
いうまでもなく、日本にとっても世界にとっても「大きな存在」になった中国。しかし、中国の「表層」を眺めるだけでは、何が真の問題かが見えてきません。
そして、中国の本質とはいかなるものなのかが見えてこなければ、近未来の日本の戦略も描けません。自民党の総裁選≒総理の交代期を迎えるなか、非常に重大な課題であることはいうまでもありません。
いま、われわれが直面しているのは、はたしていかなる事態なのか。これから何が起きようとしているのか。そのようなことにも想いを巡らすことができる講義群です。
■特集:「中国の本質」と日本の未来
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=271&referer=push_mm_feat
垂秀夫:一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
橋爪大三郎:深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
中島隆博:習近平政権が語る世界構想は、西欧社会を超えられるか
島田晴雄:習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
小原雅博:習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
島田晴雄:「エリート官僚・科挙」と「低い識字率の庶民」という矛盾
中島隆博:20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
■講義のみどころ:習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(垂秀夫先生)
本日は、特集のなかから、垂秀夫先生(元日本国駐中華人民共和国特命全権大使)の講義を紹介いたします。
垂先生は、2025年6月に『日中外交秘録――垂秀夫駐中国大使の闘い』(文藝春秋)という回顧録も発刊されましたが、その本の帯に書かれたキャッチコピーは「中国が最も恐れる男」。 2023年に退官されましたが、中国と常にタフに向きあい、改革派も含め多様な人脈を構築し、中国側から名指しで批判されてもいます。
その垂先生が、現在の中国をどのように分析しておられるのか。また、中国をめぐる国際情勢をどう見るべきなのか。まさに必見の講義です。
◆垂秀夫:習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(全7話)
(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5961&referer=push_mm_rcm1
まず垂先生は、「習近平氏の登場によって、それまでの中国と比べると非常に大きな変化がある」と指摘します。そしてポイントを3つ挙げます。
1つめは「強い中国」。これは、中国共産党自身が「中国は、毛沢東により立ち上がり、トウ小平により豊かになり、そして習近平氏により強くなる」と言及してきたとおりです。
2つめは「一党独裁から一強独裁(=1人独裁)へ」。トウ小平は毛沢東の個人崇拝への反省から集団指導体制をつくりました。垂先生は「毛沢東やトウ小平のようなカリスマを持たないといけないということではまったくなく、普通の人でもなれる」体制だったとおっしゃいます(垂先生ならではの、「実際に会って感じた、中国の指導者分析」も必見です)。
ところが、習近平時代にそれは大きく変わった。つまり、1人独裁=一強独裁になったのです。重要なあらゆることを習近平氏が決めることになった。しかし、当然、1人で決められる能力や時間には制限がある。それによって、事なかれ主義や忖度がはびこることになったといいます。
3つめは「国家戦略目標の転換」です。ここがいちばん重要だと垂先生は強調します。つまり、「経済発展」から「国家の安全」へと舵が切られたのです。
ここでいう「国家の安全」は国防だけではなく、体制の安定、社会の安定を含むとても広い概念です。
その背景として垂先生が挙げるエピソードはやはり衝撃的です。
《胡錦濤時代の最後のほうになると、彼らの発表した数字によると、2005年には1日あたり200~300件の暴動やデモが起きています。こうした状況の中、胡錦濤自身も2008年12月18日に「中国共産党の政権与党としての地位は永遠でも不変でもない」と対外的に発表することがありました。要は、政権党としての中国共産党の立場は変わってしまうかもしれないという危機意識を発表したことがある。そういう状況の中で、習近平時代が始まったわけです》
このような状況のなかで、習近平氏が何を行なったのか。その点については、ぜひ講義本編をご覧ください。
この「国家の安全」という観点を理解すると、今の中国の問題、特に内政問題はほとんど全部理解できるのだといいます。たとえば、福島第一原発の処理水放出の折に、北京の日本大使館に「1日」に「4万件」以上の嫌がらせ電話がかかってきたことなども……。
このような分析も、しっかりと押さえておかねばならぬところでしょう。
さて、では中国はどのような外交を展開しつつあるのか。第3話からその話が展開されますが、ここもまさに必見です。
中国の外交方針は「韜光養晦(とうこうようかい=自分の実力を隠し、力を蓄えて好機を待つこと)」から「戦狼外交」へと転換したといわれます。
今や中国は、「現在の国際政治経済秩序はフェアでも、公平でも、合理的でもない」と唱え、新たな秩序を再構築していく必要があると主張しています。垂先生はこれは実はとても大きなことで、「現在の国際秩序に対する戦略的なチャレンジということだ」と指摘したうえで、次のようにおっしゃいます。
《だからアメリカこそが中国にとっての、毛沢東的な言葉でいえば「主要矛盾」「敵対矛盾」になるわけです。そこから、アメリカとの長期的戦略的闘争という認識が起きる》
このような中国の思惑に、アメリカは対抗しているように見えます。しかし、実はトランプ政権は、中国にとっては「与しやすい相手」なのだと垂先生はおっしゃいます。
中国から見えているのは、「民主主義体制の疲労骨折」です。各国で政治がポピュリズム的な面も含め、大きく混乱しています。しかもトランプ大統領は、「国際責任を果たさない独善的利己的な指導者」であるように映る。
たしかに、トランプ大統領が提起する関税問題は、経済が絶不調の中国からすればとても痛い問題です。しかし逆にいえば、そこに絞って「ディール」を仕掛けてきて、体制批判、民主化、人権にあまり言及しないトランプ外交はむしろ好都合なのだと。
しかも、アメリカも対中強硬で一枚岩ではありません。そのようななかで、台湾有事はどうなるのか? 日本はどうすべきなのか?
現在の中国の実像と、世界の大きな構図が見えてきます。まさに日本の針路が問われる今だからこそ見ておかねばならない講義といえましょう。
(※アドレス再掲)
■特集:「中国の本質」と日本の未来
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=271&referer=push_mm_feat
◆垂秀夫:習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5961&referer=push_mm_rcm2
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テンミニッツ・アカデミー編集部