編集長が語る!講義の見どころ
困難な状況下の生き方を『太平記』に学ぶ/兵藤裕己先生(テンミニッツTVメルマガ)
2020/12/22
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
新型コロナ第三波の厳しい状況が続くなか、菅政権の支持率も急落しました。アメリカでも大統領選挙での国内分断がまだ続いていますし、中国をめぐる国際情勢もますます厳しさを増しています。まさに乱世という状況が眼前に広がりつつあります。
このような困難な状況における人間の生き方を考えるために、何を学ぶべきか。実は国際政治学の泰斗でいらっしゃった高坂正堯先生(京都大学教授)は『太平記』を挙げたといいます。その理由は、「『太平記』にはいろいろな人が出てくるが、成功した人だけでもなく、失敗した人だけでもない。みんないろいろな生き方をしているので、学ぶところが多い」から。
これは、とても印象深い話です。『太平記』は江戸時代に大人気でしたし、明治から昭和初期にかけても「国民の常識」でしたが、現在では、その内容を知らない人も増えています。はたして『太平記』とはいかなる書物で、どのような意義があるのか。それについて、岩波文庫版の『太平記』(全6巻)の校閲も務められた第一人者・兵藤裕己先生(学習院大学文学部教授)に教えていただいた講義を、本日は紹介いたします。
◆兵藤裕己:『太平記』に学ぶ激動期の生き方(全6話)
(1)なぜ今『太平記』を読むべきなのか
『太平記』は乱世における人間の処し方が学べる古典文学
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3732&referer=push_mm_rcm1
世の中が乱れたときに『太平記』を読むことの意味を、兵藤先生は次のように語っておられます。
《『平家物語』は、わりと人間が一面的に描かれていて、「いい奴か悪い奴か」に分かれます。ですが『太平記』は、成立過程にも由来するのですが、いろいろな要素を抱え込んでいる人間が出てきます。その意味では、乱世という時代において、いろいろなタイプの人間の処し方を見るうえでは参考になる本ではないかと思います》
『平家物語』は、新しい武士階級が王朝的世界を打倒していくという、わりと明快な歴史の図式で書かれていますが、『太平記』は、どこまでいっても戦争は終わりません。しかも、『太平記』は複雑な成立過程を経たため、後醍醐天皇にせよ、足利尊氏にせよ、さまざまな人物たちについてのさまざまな評価が入り交じることになりました。危機の時代に人びとが織りなす興亡劇が、多くの教訓を読者に与えてくれるのです。
たとえば兵藤先生は、日本において能力主義が根づかない要因についても語ってくださいます。後醍醐天皇の政治がいかにひどかったかの証拠として歴史の教科書にも載っている「二条河原の落書」についても、「あれは嘘でしょう」と一刀両断されます。
では、どのような思惑が渦巻いていたのか。それはぜひ講義をご覧ください。
一方で、後醍醐天皇が「民と直結した政治」をめざし、それに「在野草莽」の楠木正成らが応える、という『太平記』の構図は、歴史的にも深い意味をもったと兵藤先生は指摘されます。「偉いのは天皇であり、あとは軍人であろうと公務員であろうと、みんな『民』だ」という「一君万民」的な姿が描かれたことが、日本が国民国家になるにあたって、とても大きな役割を果たしたというのです。
さらに『太平記』の物語が、どのように江戸期の文化、さらに明治維新にも大きな影響を与えたかという分析は、とても興味深いものです。
『太平記』が日本の歴史を大きく動かした「国民的物語」であることが、よく理解できます。『太平記』の意義や内容を知っておくことは、歴史観や人間観を磨くためにも、また、これからの日本の行方を考えるためにも、まことに重要なことといえましょう。
『太平記』の成立背景や枠組みについて知ることのできる本講義は、まさに入門編として、うってつけです。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆兵藤裕己:『太平記』に学ぶ激動期の生き方(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3732&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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「学びの種は未知ではなく、むしろ既知の分野を探しなさい」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3385&referer=push_mm_hitokoto
50歳までの人生の負の要素も幸福の調味料になる
童門冬二(作家)
50歳までの生き方を大事にしましょうという意味です、半面は。それまでも大事にするような生き方をしてきたのなら、その後もそれを大事にしないというのは、自分で自分に愛想を尽かすことであって、自分を大切にしていない。そういう人は50歳から学んでも無駄ですよということです。やっぱり学ぶ資源というか教材は全部、今までの人生の中にあるということです。
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今週の人気講義
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コロナ発生から半年以上、良いニュースと悪いニュースとは
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3781&referer=push_mm_rank
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3052&referer=push_mm_rank
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3786&referer=push_mm_rank
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3553&referer=push_mm_rank
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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて、不定期ですが、今回より「温故知新・〇年前の今日の講義に学ぶ」と題して、昔の注目講義をご紹介するコーナーを始めたいと思います。
今日ご紹介するのは2年前の今日(2018年12月22日)に配信となった廣瀬通孝先生(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授)の講義です(「VRがつくりだす未来」シリーズ第4話目)です。
教育に果たすVRの役割について、体験、遠隔、可視化という三つのキーワードで解説されているのですが、そのなかで私が個人的に興味深いと感じたのは次の話です。
"僕の経験でいうと、一番の学習は先生の立場に立って教えるということです。「君たち、教えてみなさい」と言われると、今までと違い、真面目にさまざまなものを勉強するようになります。自分が先生になってから、初めて一番勉強したという感じもするのです。"
これはVR体験についての解説のなかに出てくる話ですが、私が特に重要だと感じたのは「先生の立場に立って教える」という“体験”が「一番の学習」だというところです。
この“体験”は、先生から学生へ教える場合だけでなく、知り合いや友人に教える場合でもいいかもしれません。例えば、テンミニッツTVを視聴して面白かった講義をどなたかに教える。ということをやってみると、自分の理解がより深まり、さらに新たな学びにもつながるのではないでしょうか。
<今回ご紹介した講義はこちら>
教育分野でVRが果たす役割とその応用例
廣瀬通孝(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2441&referer=push_mm_edt
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