編集長が語る!講義の見どころ
(特集)経営力の真髄をつかみとる/水野道訓氏ほか【テンミニッツ・アカデミー】
2025/10/24
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
「経営力」――。もちろん、ビジネスにおいて必須の「力」です。そして「ビジネスだけのものか」といえば、けっしてそうでもありません。むしろ、人生のあらゆる局面において「経営力」的な視点の有無が、成否を大きく分けることもしばしばです。
とはいえ「経営力」は、そもそもどう身につけるのか、とても難しいものです。いってみれば「人間力」と同じで、あらゆるものが「力」になりうる反面、逆に何が「力」になるのかがわかりづらいものです。
それは、自社の置かれた環境によっても違ってくるでしょうし、個々人のパーソナリティーのあり方によっても変わってきます。誰かにとっての正解は、必ずしも自分にとっての正解ともかぎりません。
結局のところ、自分ならではの、自社ならではの姿を確立していくほかないのでしょう。
しかし、「経営力」を磨けぬかといえば、そうでもありません。
やはり、いちばんの近道は、実際に経営の「現場」に直面し、そこで戦い抜いてこられた方々の話に耳を傾けることでしょう。経営の機微は、けっして理論からは学びきれないものだからです。実戦・実践のなかで培われてきた言葉には、とてつもない力が込められています。
さらに、そのような実戦知・実践知を的確に分析して、少し客観的な視点からいかに見るべきかを提示する視点も欠かせません。その両面に触れることで、気づきやヒントは幾倍、幾十倍になるのです。
今回は、そのような「経営力」の真髄を学べる講義をピックアップしました。
■特集:「経営力」の真髄
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=273&referer=push_mm_feat
◆水野道訓:ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
◆田村潤:ブランド力を高めるために「自社の強み」を徹底的に聞け
◆楠木建:「逆・タイムマシン経営論」は本質を見抜くための方法論
◆西山圭太:日本経済の行き詰まりをもたらした2つの大きな理由とは
◆佐久間昇二(※):松下幸之助は聞き上手ではなく言わせ上手…素直な心で即断
◆田口佳史:経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」
◆澤田秀雄:運が悪いときは「時間」と「距離」が解決してくれる!
■講義のみどころ:ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?(水野道訓氏)
本日は特集のなかから、水野道訓氏(元ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役CEO)の講義を紹介します。ソニー・ミュージックエンタテインメントといえば、どなたであれ、まったくそこから生みだされた音楽やエンタテインメントに触れていない人はいないのではないでしょうか。
ソニー・ミュージックエンタテインメント(ジャパン)の中核は、もちろん「音楽」ですが、しかし現在、音楽事業の売上利益の割合は3割ぐらいだといいます。残りでいちばん大きいのがアニメやゲーム。さらに様々な事業も展開しているのです。
ソニー・ミュージックエンタテインメントは、参考にするにはちょっと特殊すぎるのでは……。そのように思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは大間違いです。
逆にいえば、もっとも先鋭的に「新しい価値の創造」に取り組み、さらに新規事業領域への挑戦・多角化に取り組んでこられた会社だからこそ、そこには大きなヒントがいくつも潜んでいるのです。
しかも、今回の講義では、水野氏にエンタテインメント業界を切り拓いていける「人的資本経営」についてもお話しいただいています。
いうまでもなく、エンタテインメント業界では、素晴らしい尖った才能をもつクリエーターの力をいかに最大限に活かし、しかもそれをプロデュースし、経営していくかという力が問われます。しかも、流行盛衰のスピードは、まさに生き馬の目を抜くがごとしです。
様々な会社や組織で「開発」「製造」「営業」などの役割分担の違いはあるでしょうが、ある意味では、ソニー・ミュージックエンタテインメントはそこが限りなく先鋭的だからこそ、様々な課題がより明確に理解できるのです。
では、ソニー・ミュージックエンタテインメントとはいかなる会社で、その教訓とはいかなるものなのでしょうか。
◆水野道訓:エンタテインメントビジネスと人的資本経営(全6話)
(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5978&referer=push_mm_rcm1
ソニー・ミュージックエンタテインメントは、1968年にCBSソニーとして設立された会社です。アメリカのCBS(コロムビアレコード)とソニーの、日本での外資第1号のジョイントベンチャー会社でした。現在は100パーセント、ソニーの子会社になっています。
実は日本のソニー・ミュージックエンタテインメント(ジャパン)と、ニューヨークに本社があるソニー・ミュージックエンタテインメント(グローバル)の二本立てになっているそう。そして、その経営のあり方がまったく違うのです。
グローバルでは、ソニーのみならずユニバーサルミュージックもワーナーミュージックも、いわば音楽という専門領域に特化して、それをグローバル展開することで巨大産業になっています。
一方、日本のソニー・ミュージックエンタテインメントは、どんどん水平展開し、多角化経営を行なっているのです。それはCBSソニーとして創業したときから営々と続けられてきた伝統でした。
つまり設立当初から、当時のレコードビジネスだけを手掛けていたわけではなかったのです。レコード盤の製造工場をつくり、プロダクション事業を立ち上げ(当時、レコードレーベルがプロダクションも手掛けるのは大手の芸能事務所の手前、タブーだったにもかかわらず)、通販事業も行ない、出版事業や放送事業も手掛けていきます。キャラクタービジネスとして、「スヌーピー(ピーナッツ)」「セサミストリート」「きかんしゃトーマス」「ピーターラビット」などの日本での版権管理も行なっています。ライブホール(Zepp)事業にも乗り出していきます。そして1994年頃にアニメ事業も立ち上げているのです。
このアニメ事業が、『るろうに剣心』『鋼の錬金術師』『魔法少女まどか☆マギカ』『鬼滅の刃』のヒットにより、現在では大きな柱になっています。
エンタテインメントは、欧米型の専門特化のグローバルビジネスと、日本型の水平展開の多角化とで、どちらが良いのか。ここについての水野氏の見方も大いに学ぶべきところですが、ぜひそれは講義本編でご覧ください。
さらに水野氏が指摘するのが、日本社会の「エンタテインメント」への認識の弱さです。水野氏は、とても象徴的な問題提起をされます。
《これだけ今、世の中でエンタテインメントビジネスといわれているのに、株式欄に「エンタテインメント」という欄がありますか。あるいは、それを噛み砕いて「ゲーム」という欄がありますか。「アニメ」という欄がありますか。「音楽」という欄もありません》
まさにご指摘のとおりでしょう。
実は、世界のコンテンツ市場は、2024年の統計で150兆円。内訳は、アメリカが57兆円。中国が27兆円。日本が13兆円。さらにイギリス、ドイツ、フランス、韓国と続きます。ちなみに韓国の市場規模は4.5兆円です。
このうち現在、急追しているのが中国や韓国です。それぞれの特徴と秘密はどこにあるのか。
にもかかわらず、実は日本のキャラクター・コンテンツの力は、世界でもまことに強いものがあります。実は、コンテンツ世界総収益ランキング(2023年)で、トップ10のなかに、日本のキャラクターが5つも入っているのですが、はたしてそれは何か?
そのあたりも、ぜひ講義本編でご確認ください。
では、このようなエンタテインメント市場で、日本のソニー・ミュージックエンタテインメントはいかに「多角化」を実現し、いかに「価値の創造」と「経営」の両立を進めてきたのでしょうか?
水野氏が先輩から教わった新規ビジネスのポイントは「土地勘のあるところ、自分たちの武器を持っていく」だといいます。つまり、まったく離れた飛び地に無手勝流で出ていって成功する確率は非常に低いということです。
音楽事業からは離れますが、たとえば、プレイステーションの事業に飛び込んだのは、ソニーに光ディスクの技術があったからだといいます。それまで、たとえば任天堂のファミリーコンピュータ(初代)などはゲームソフトはカセット式でした。しかしデータ容量の関係で、それでは不十分になり、CD-Rなどの光ディスクへの転換時期に当たっていた。その点、ソニーはその優れた技術がありました。
加えてゲームビジネスの場合、サードパーティーのゲーム会社にゲームを作ってもらって、それを自分たちの光ディスクに載せて、一緒に共同販売をしていくビジネススキームですが、これは実は、レコードのビジネスのスキームと同じだったのだといいます。
つまり、様々な面で、これまでの事業で培ってきた経験値が活かせたのです。
では、多角化のポイントは、どういう点なのでしょうか。
まず水野氏は「遠心力と求心力」というポイントを挙げます。
ここでいう「遠心力」とは、「企画、開発、営業マーケティングなど、攻めの部分は、極力、現場に任せるべきで、あまり経営者が口出しをするものではない」ということです。
一方の「求心力」は、「いわゆる財務、人事、法務などの管理系は、経営側がちゃんと手綱を握り、情報が絶えず入るようにしておく」ということです。
この遠心力と求心力のバランスを間違えてはいけないといいます。
続いて人材論でいうと、「クリエイティブな人材と、マネジメント型の人材のそれぞれの活かし方」が大きなポイントになります。
ご想像のとおり、クリエイティブ人材は、とかく組織のルールなどから逸脱しがちな人材でもあります。一方で、そのような人たちをうまくマネジメントし、経営していく人材も必要になる。このまったく違う属性の人たちを、いかに調和させ、一つの会社として練り上げていくのか。
ここも、まさにこれまでその現場でやってこられた水野氏ならではのエピソードが満載です。
まさしく、経営の一つの「重点ポイント」について、とても多くの気づきを得られる講義です。
さらに本講義の続編として、水野氏へのインタビュー深掘り講義も収録しています。その講義は、今後、あらためて配信していきますが、こちらも現場エピソードがさらに満載です。ぜひお楽しみに。
(※アドレス再掲)
■特集:経営力の真髄
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=273&referer=push_mm_feat
◆水野道訓:エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5978&referer=push_mm_rcm2
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