編集長が語る!講義の見どころ
(特集)誤解?バイアス?「理解する」の不思議に迫る/今井むつみ先生ほか【テンミニッツ・アカデミー】
2025/11/07
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
私は本当に「理解」できているか? 「間違えた理解」をしていないか?――考えれば考えるほど、人間はどうやって理解するのか不思議に思えてきます。しかも「わかっているつもり」になっていたり、何らかの誤解やバイアスが働いてしまっていたりすることも多いので、なかなか難儀です。
今回の特集では、理解することの奥の奥を教えてくれる講義をピックアップしましたが、その紹介の前に……。
■PCのサイトデザイン変更についてのご説明と使い方■
皆さまにサイト上でお報せしましたように、先週、PC版のサイトデザインを一新いたしました。
https://10mtv.jp?referer=push_mm_new_function
あらためまして、その趣意と、便利な使い方をご紹介します。
【サイト上部の「体系」】
すでにスマートフォンのサイトデザインでは先行して導入していましたが、今回のデザイン改変の1つのポイントは「体系」ごとの紹介を、よりわかりやすくすることにあります。
現デザインのサイト上部に「哲学と生き方」「歴史と社会」「芸術と文化」などの体系のボタンが並んでいます。それぞれを押していただくと、その体系のに沿った内容のおススメの講義が並んでいます。また、各体系のいちばん上には、「最近見始めた講義」が表示されますので、続きなどをご覧いただく折にご活用いただけます。
「ホーム画面」では、皆さまのご視聴に応じた「あなたにおすすめの講義シリーズ」を表示しています。何が出てくるかはお楽しみ。ぜひお目に留まったものをご覧ください。
【左側の「メニュー」】
また、左側には「メニュー」を設けました。こちらからも、行きたいページに便利に飛ぶことができます。
たとえば、これまでのサイトトップの一番上の部分では当日に新規配信した講義を紹介していました。今後、新着講義を確認したいときは、左にあるメニューの上から3番目にある「新着」から探すことができます。
これまでの「特集」(サイト上部にボタンを置いていました)は、「今を知る講義まとめ」に名称を変更しました。また、同じくこれまではサイト上部にボタンがあった「講師一覧」や「マイデータ」も左横のメニューに並べています。
【画面の右側が切れてしまう場合】
なお今回、昨今のPC画面の状況に合わせて、これまでよりも画面の横幅を少し広げております。そのため、たとえば画面での文字サイズなどを大きめに設定されている方は、右端が切れているように見えるかもしれません。
その場合、ブラウザで「Microsoft Edge」や「Google Chrome」をお使いのかたは、ブラウザの右上にある「点が3つ」のメニューボタン(Edgeは横に3つ、Chromeは縦に3つ、点が並んでいます)から、「ズーム」で倍率を変更すると切れていた右の部分も表示されるようになります。
あるいは、Windowsの場合、デスクトップ画面で右クリックをして出てくる「ディスプレイ設定」から「拡大縮小とレイアウト」に進んでいただき、ここの「拡大/縮小」のパーセントを変更することなどでも調整することができるかと存じます。
より、様々な講義に出会いやすくなっているかと存じます。ぜひ引き続きご愛用いただければ幸いです。
■特集:誤解?バイアス?「理解する」の不思議
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=274&referer=push_mm_feat
◆今井むつみ:なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
◆鈴木宏昭:誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
◆鈴木宏昭:非合理なのに誰もがハマる「概念のバイアス」とは
◆川合伸幸:認知機能を高めるのに必要なのは脳トレではなく有酸素運動
◆今井むつみ:なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
◆長谷川眞理子:「心と感情」とは何か、行動生態学から考える大事な問題
◆西垣通:ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
■講義のみどころ:「何回説明しても伝わらない問題」から認知科学を考える(今井むつみ先生)
本日は特集から、今井むつみ先生(一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事/慶應義塾大学名誉教授)の「何回説明しても伝わらない問題と認知科学」講義を紹介します。
この講義は、今井先生が発刊された話題の書『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)をもとにお話しいただいています。
何回説明しても伝わらないというと、コミュニケ―ション技術の本であると思う方もいらっしゃると思いますが、実はこの本について今井先生は《「この本はコミュニケーションの本か」と言われると、なにか少し違和感を持つ読者の方もいらっしゃるのかなと思います》とおっしゃいます。
なぜなら、ここで考えていくのは「コミュニケーションの奥の話」だからです。さて、どういうことなのでしょうか?
◆今井むつみ:何回説明しても伝わらない問題と認知科学(全3話)
(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5996&referer=push_mm_rcm1
「コミュニケーションの奥の話」が何かといえば、つまり「認知心理学」です。端的に今井先生はこうおっしゃいます。
《受け手は、(何かを)言った人がそのまま言語で表せば、そのままを解釈できるか、受け止められるかというと、全然そうではない》
要は、なにがしかの言葉を投げ換えられたとして、その言葉を発した人の意図やイメージどおりに「受け手」が理解できているかというと、全然そうではないということです。
なぜ、そういうことが起きるのか。今井先生は印象深い事実をおっしゃいます。「人間の記憶容量には限界があって、1ギガバイトしかない」というのです。
この「1ギガバイト」という数字は、たとえばお手持ちの現在のスマートフォンの記憶容量や、PCの記憶装置などと比べても、まことに心許ないものです。もちろん、人間の能力をどのように評価するかによって記憶容量の評価は諸々の結果となりますし、個人差もありますから、この「1ギガバイト」というのは一例ということではありますが、しかし、人間の記憶容量に限界があることは誰しも認めるところでしょう。
つまり、人間は自分自身の情報処理能力や記憶容量の範囲のなかで、さまざまな物事を理解していかなくてはならないのです。
では、それをどのようにして成し遂げているのか。その一助となっているものこそ、「スキーマ」です。
「スキーマ」とは、「私たちが全然持っていることを理解しない、バックヤードで働いている知識の塊、枠組み」のこと。今井先生はさらにわかりやすく、「いろいろなことを経験して、その経験を抽象化して、暗黙の知識として身体の一部になったものがスキーマなのです」とおっしゃいます。
このスキーマの働きについて、今井先生は次のようにおっしゃいます。
《私たちは結局、スキーマというものを使って外界の情報を取捨選択しているのです。だからスキーマに合ったものしか注目しない。だから、相手が言ったことも、自分が「相手はこういうことを話しているのだろうな」というスキーマによる期待、それに合わないものはいくら相手が一生懸命話しても、全部スルーしてしまう。そういうことをしているのです》
そのようにするのは、先述のように、人間の情報処理能力や記憶容量が限られているからです。
《今のAIはものすごく大量の情報を瞬時に全部入れて、それをものすごく高速で分析することができるわけです。でも、人間はほんの少しの情報しかいっぺんに入れられないのです。だから、相手が話すことも、その全部に注目して、全部を入れて理解して記憶するということはとてもできないのです》
「ほんの少しの情報だけを入れる」というのは、情報処理をこなすという意味では、まことに有効なものではありますが、しかし反面、さまざまな「認知バイアス」の基にもなります。
たとえば、その一つが「確証バイアス」です。今井先生は「マイワールドバイアス」ともおっしゃいます。
つまり、世界には常にものすごくたくさんの情報があります。たとえば街のなかを散歩しているようなときでも、目の前にあるものを全部を見ようとしたら大変なことです。物音も、本当に様々な音に満ちています。
だからむしろ人間にとっては、「どの情報を無視しなくてはいけないか」という情報の抑制が大切になる。それをしているのが「確証バイアス」と呼ばれるものなのです。
ここで、今井先生はとても興味深い本を紹介くださいます。
『100万回死んだねこ――覚え違いタイトル集』(福井県立図書館編、講談社)です。この本は、福井県立図書館 に寄せられた図書希望のうち、間違って書名を覚えてしまっていたものをピックアップして紹介した一冊です。
ご存じの方は、すぐにおわかりのとおり、この書名はある絵本の「タイトル記憶違い」から採られたものです。正しい書名は『100万回生きたねこ』(佐野洋子著、講談社)。つまり、「死んだのか、生きたのか」がもう覚えていられなかった。パッとタイトルを見たときに、自分自身のなかのスキーマで、「生きた」を「死んだ」に置き換えてしまったのでしょう。
このことについて、今井先生は次のようにおっしゃいます。
《相手が言ったことを逐語的に覚えるなどということは、人間の認知の仕組みからいうと不可能なのです。だから結局スキーマを通じて、解釈をして、その意味を覚えるしかないということです》
また、「後知恵バイアス」というものもあるそう。これは、予測に反することが実際に起きたときに、正確に自分が予測できたかについては、ほぼまったく覚えておらず、事後に「自分は予想できていた」と思い込んでしまっている例です。しかも、全然悪気がなく。
これも認知の仕組み上、逃れられないことだと今井先生はおっしゃいます。
結局、どのような人であれ、完全にバイアスから逃れられないということでしょう。
そこで今井先生は、ご著書の『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』では、「バイアスは、もう仕方ない」という前提で、コミュニケーションとしてどういうやり方があるかを、「コミュニケーションの達人」の方々に取材して解き明かしています。
基本の「き」は、自分がバイアスを持っていることを、きちんと意識しておくことだといいます。
たとえば、どうしても人間は、自分のやっていることは過大評価してしまうものだといいます。ですから、たとえば会社の仕事などでも、自分の部下や周りの部署がどれだけの苦労をしているかに目がいかず、あたかも「自分が全部やった」かのように思ってしまう。そうすると、ハラスメントにもつながりかねないのです。
今井先生は、こうおっしゃいます。
《だから、なるべく100パーセントの主観から離れて、他者を考慮した主観に近づこうとする。人間ができるのはそのぐらいなのですけれど、でも近づこうとする姿勢というものはすごく大事です。それが謙虚であるということではないかと、私の解釈では思います》
ぜひとも「心すべきこと」だといえましょう。
自分の理解と他者とのコミュニケ―ションについて、多くの気づきを得られる講義です。ぜひご覧ください。
また、今井先生のこの前の講義《学力喪失の危機~言語習得と理解の本質 (全5話)》を見ると、さらに「理解するとは、どのようなことか」がわかるようになります。ぜひ、そちらも併せてご覧ください。
(※アドレス再掲)
■特集:誤解?バイアス?「理解する」の不思議
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=274&referer=push_mm_feat
◆今井むつみ:何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5996&referer=push_mm_rcm2
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