編集長が語る!講義の見どころ
日本のあるべき姿をヴェネツィアの歴史に学ぶ/本村凌二先生(テンミニッツTVメルマガ)

2021/01/05

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
一年の計は元旦にあり、と申します。新年にあたり、これからの日本の進路について考えてみることも重要ではないでしょうか。

今後の日本のあり方を考えるとき、その「モデル」を歴史のどこに求めるか?――そう問うたときに、1つの候補となるのがヴェネツィアでしょう。

ヴェネツィアといえば、塩野七生さんの『海の都の物語』などをお読みになった方も多いと思いますが、その歴史が始まるのは、ゲルマン人に追われた北イタリアの人々が5世紀半ばに干潟の湿地帯に逃げ込んでからのこと。さらに7世紀末には共和政統治が始まります。

それからナポレオンによって占領される1797年までヴェネツィア共和国の歴史は続きました。ローマの「共和政」は500年で終わりを迎えて帝政に移行したのに、なぜヴェネツィアはこれほど長く共和政を続け、しかも繁栄を続けることができたのか。その秘密を、本村凌二先生(東京大学名誉教授/文学博士)が教えて下さった講義を、本日は紹介します。日本人にとって驚くべき知恵が満載です。

◆本村凌二:独裁の世界史~ヴェネツィア編(全4話)
(1)ヴェネツィアの成立
ヴェネツィアがナポレオン登場まで共和政を維持した理由
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3405&referer=push_mm_rcm1

本村先生の言葉を借りれば、ヴェネツィアは、基本的に最小面積で最小人口という国家であったにもかかわらず、最強の通商交易国家でもありました。自分たちが実際に住む場所としては、ヴェネツィアという極端に狭い地域でしたが、実際に活動する場は地中海全域でした。

ヴェネツィアは、巧みな外交によって、ビザンツ帝国の政治的な覇権の下にありながら、商業交易活動は自分たちが中心になって担うというスタンスを取り、繁栄を勝ち取っていきます。いち早く複式簿記を導入し、あたかも全総合商社国家のような活動で地中海に交易ネットワークを広げ、三角貿易、四角貿易を行って利益を生んでいきました。

なぜ、そのヴェネツィアでは共和政が維持され続けたのか。まずヴェネツィアは、国家財政と役人の規模をそれほど大きくしないことに意を注いだといいます。そのうえで、ある程度、民主的にリーダーを選んでいったのですが、「民主的な選出方法」は、それこそ古代ギリシアのオストラシズム(陶片追放)がそうであるように、下手をすると衆愚政治に堕してしまいかねません。

実はヴェネツィア人たちは、共和政国家を守り抜くために、くじと選挙をうまく組み合わせた制度を発明したのです。一人のドージェ(執政官、リーダー)を選ぶために、まずくじを引かせる。くじに当たった人が選挙人となり、ドージェになる人を複数選ぶ。その次の段階では、選ばれた人たちにくじを引かせる。このようにして、くじを5回、選挙を4回ほど繰り返すことで、「どれだけ画策しようとも、『この人をこうしたい』という意図的なものが入り込まず、しかも民意が反映するようなシステム」を作りあげました。

このような仕組みで、無能だけれども血筋だけで君主になるような独裁制的弊害に陥る危険を減らし、常に優秀な人たちのなかからリーダーが選べるようにしました。一方で、貴族主義的な世襲制には寛容だったといいます。つまり、指導者を育てる土壌として、分厚い貴族的有力者層をしっかり保持しつつ、リーダーが独裁の弊害に陥ることは避けたのです。

また、大航海時代になって地中海貿易が斜陽になった後には「文化力」で補っていきます。そして最後まで、自分たちの「強み」を忘れず、長きにわたる繁栄を実現させていきました。

まさに日本がヴェネツィアに学ぶべきところは、数多くあります。その要点を、本村先生のわかりやすいお話で、コンパクトに学べる講義です。ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)
◆本村凌二:独裁の世界史~ヴェネツィア編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3405&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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「時々、生徒になる練習があるといい」

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3764&referer=push_mm_hitokoto

キャリア転換で成功する秘訣は定期的な「選び直しと学び直し」
為末大(一般社団法人アスリートソサエティ代表理事/元陸上選手)
柳川範之(東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授)

為末 生徒として教えてもらう側にうまくなれるかどうかが、セカンドキャリアがうまくいくかどうかにおいて、とても重要な気がしています。われわれアスリートも最初は教えてもらいながら成長していくのですけど、ある程度の段階まで来た後にもう1回、生徒になるのは、心理的に難しい。素直に、言われた通りやるのがあまり上手にできなくなる。一方、これが上手な選手は、引退後もうまくいっている気がしますね。


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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。

さて、1月特集<「日本経済」危機克服の方法と目指すべき未来」>が1日より始まりました。

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=105&referer=push_mm_edt

コロナパンデミックに見舞われた昨年は世界の経済を大きく変えた年といえますが、今後どうなっていくのでしょうか。
日本の場合、コロナ以前から続く日本経済の失速とコロナが複合した「危機」の時代を迎えているわけですが、この厳しい状況をどう克服すればいいか。今回の特集で取り上げたシリーズ講義にはそのための示唆が詰まっています。
今週の人気講義で取り上げた橋爪大三郎先生の講義も入っております。ぜひご視聴ください。