編集長が語る!講義の見どころ
時代の転換点で聖徳太子の十七条憲法を振り返る/頼住光子先生【テンミニッツ・アカデミー】
2026/02/10
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
令和8年2月8日の選挙は、あまりに劇的な結果となりました。これは、たとえば長篠の合戦や関ヶ原の合戦、あるいは鳥羽伏見の戦いにも匹敵するような「時代の転換点」なのではないかとさえ感じます。
もちろん、揺り戻しはあるでしょう。しかし今回、名だたる政治家が軒並み落選した中道改革連合(とりわけ元・立憲民主党)は、これまでの主張をなげうってまで臨んだ選挙だっただけに、もう「そのままの元に戻る」ことはあまりに困難です。
1993年の細川護熙政権、さらに2009年からの民主党政権の流れは、ここで断ち切られたのかもしれません。さらにいえば、戦後の55年体制的なるものも、ここで完全に終わったのではないか。
とすれば、ここから始まる日本は、どのような日本なのでしょうか。
テンミニッツ・アカデミーで小宮山宏先生がつとに指摘してきたような「課題先進国」としての現状に真正面から立ち向かい、大きく克服していくような日本になるのか。それとも……。
いま日本が直面している「時代の課題」については、1月30日からスタートした「今を読む講義まとめ」特集の《「時代の大転換期」の選挙に考える》で総覧してみました。
本日は、今後の日本の進むべき道を考えるにあたって日本の原点を尋ねるべく、頼住光子先生(駒澤大学仏教学部教授)に、聖徳太子の「十七条憲法」についてご解説いただいた講義を紹介したいと思います。
いま、世界的にポピュリズムが危惧されています。ある意味では、プラトンが説く「哲人政治からの堕落としての民主政と僭主政の苛政」への危険性も否定できません。
そのようなときだからこそ、聖徳太子が「古代日本における国家の危機=大転換点」において、どのようなメッセージを発したのかを知ることは、深い意味があると思えてなりません。
一時期、「聖徳太子はいなかった」などとも騒がれました。そのような「珍説」の主張や大々的な取り上げには、何らかの思惑もあったのでしょう。歴史教科書から消えるだの消えないだのといった頓珍漢な騒ぎも起きて、「厩戸王(聖徳太子)」と表記するといった、まことに奥歯にものが挟まった対応もされました。
しかし現在では「極端な非実在論」は学術的にも否定されています。それどころか、やはり聖徳太子には、日本人の「理想」が深く重ねあわされていたのです。
むしろ、聖徳太子を知ることによって、人間としての生き方や、文化のあり方、国の外交姿勢のあり方まで、様々なことを深く考えるきっかけにもなります。
なんといっても「十七条憲法」といえば、「和を以て貴しとす」という言葉が有名ですが、頼住先生は「聖徳太子が説く『和』は、通俗的に連想される『忖度する』『空気を読む』などのイメージとは、大きく異なっている」とおっしゃいます。
実は、聖徳太子が説く「和」とは、「議論をしたうえで生み出していく共同性」のこと。とにかく議論を重視するのだというのです。
まことに興味深い視点です。
◆頼住光子:聖徳太子「十七条憲法」を読む(全6話)
(1)十七条憲法を学ぶ現代的意義
聖徳太子の「和」は議論の重視…中華帝国への独立の気概
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5179&referer=push_mm_rcm1
頼住先生はまず、「十七条憲法は、日本の道徳、倫理の歴史を考えるうえで一つの重要な出発点となる著作」だと指摘されます。世の中に非常にいろいろな矛盾や葛藤が多くなっている今こそ、議論して共同性を生み出していくことの原点をもう一度考えてみることが重要だというのです。
さらに、十七条憲法を考えるときに重要なのは、当時の国際情勢の大きな影響です。当時、中国では、中央集権の巨大な帝国である「隋」が確立していました。
この中華帝国に、いかに対峙するか。
このとき聖徳太子は、「隋」に政治的に従属するという道は選びませんでした。小さいけれども一つの天下(小天下)として、大きな中華帝国に対して独立したあり方を、聖徳太子は選んだのです。日本という国の骨格を、この時点で確立しようとしたといえるでしょう。
では、「十七条憲法」とは、そもそもいかなるものだったのか。
基本的には、現代の憲法とは異なり、官人(役人)に対する道徳や心構えを説くものだといいます。推古天皇12年(604年)に制定されたと、日本国の公式の史書である『日本書紀』に書かれています。
ちなみに「心構え」という点では、十七条憲法の第八条に「朝早く出勤して、遅くに退勤せよ」と、妙に具体的なことが書かれているのですが、それは、西暦600年の遣隋使(『日本書紀』には書かれていない)が影響しているかもしれない……と頼住先生はおっしゃいます。
なかなか興味深いエピソードですので、ぜひ講義第1話をご覧ください。
さて、十七条憲法で強調されていることとは何か。頼住先生は次のようにおっしゃいます。
《みんな自分の思惑があるけれども、それに固執してはいけない。自分はそのような迷える不完全な存在だから、自分に固執するのではなく、人の意見もちゃんと聞いて、そこで調和していく。自己を絶対化しない、自分を常に相対的に見ていくというような考え方です》
たとえば、十七条憲法の第十条には「凡夫」という言葉が登場します。参考まで、この十条(の一部分)を現代語訳で見てみましょう(現代語訳:頼住先生)。
《我は必ずしも物事の道理に通じた聖人ではないし、彼も必ずしも愚か者ではない。ともに凡夫なのだ。是非の道理を一方的に定めることなどできないのだ。賢者でもあり愚か者でもあることは、円環に端が無いようなものである。それだから、相手が怒ることが有ったら、自らを顧みて自分に過失がなかったのかを恐れなさい。自分一人が正しいと考えたとしても、皆に合わせて協力しなさい。》
このようなことを強調して、「議論」の大切さを説いていくのです。
頼住先生は「我執を超える」と表現されますが、このように自分も相手も「凡夫」なのだから、自分が自分の意見にとらわれていないか、自分のほうに過失はないのか十分気をつけて、議論で結論を出していこうという考えは、現代においても、非常に重要なものといえましょう。
さらに、頼住先生が指摘されるのが、聖徳太子は仏教なども取り入れ、十七条憲法なども制定することによって、「普遍的国家」をめざしたということです。
仏教の導入にあたっては、大きな武力抗争が起きたとも伝わります。まさに国家が二分するような事態でもありました。
それまでは氏族制のなかで、それぞれの部族が、それぞれの部族の神様を信仰していました。しかし聖徳太子は、普遍的宗教である仏教を導入し、精神的な統一を図ろうとしたのです。
その一方で、各部族のそれぞれの宗教を捨てることは求めませんでした。これには仏教そのものの「寛容さ」も大きく影響していますが、いずれにせよ、その態度を貫いたことで、後世において「神仏習合」が起こり、多様で豊かな精神世界が確立することになるのです。
さらに第3話の後半で、頼住先生は「なぜ聖徳太子虚構説」が間違いなのかもご説明くださいます。このあたりは、謎解き的にまことに面白い部分です(第3話)。
第4話では、まず、「十七条憲法」の独自性について検討していきます。「十七条憲法は、中国の色々な思想のパッチワークではないか」とする意見もありますが、頼住先生は「相当にオリジナリティがある」と強調されます。形式やパーツは輸入しても、いちばん大切な核心的な部分でのオリジナリティを譲らないのが日本のあり方なのです。
この点で、「仏教」を入れた意味が大きいのだともいいます。つまり、儒教を取り入れると、中国が世界の中心で、周辺国は野蛮人だという「中華思想」を受け入れざるをえなくなる。その点、仏教であればそのようなことはない。
実は、中国の南北朝の北朝(騎馬民族系)が仏教を熱心に取り入れたのも、同じ理由からだというのですが、このあたりも、世界のなかの日本ということを考えるときに、とても重要なご指摘でしょう。
また聖徳太子は、親鸞など後世の思想家からも大いに尊敬されたといいます。このあたりも、日本思想の系譜を考えるうえで、とても重要な点です。「聖徳太子虚構説」を軽々しく唱えることの問題点も見えてきます。
第5話と第6話では、「十七条憲法」の条文をピックアップして、現代語訳を示しつつ解説していきます。このメールで紹介してきた「和」の考え方や「凡夫」の考え方なども、詳細に紹介されます。
いまから1400年以上も前に書かれた文章が、現在のわれわれの心に、驚くほど響いてきます。考えさせられる部分や、気づき、ヒントが多く、しみじみと圧倒されます。これを知っているか知らないかで、人生観も変わるかもしれません。
時代の転換点とは、いわば歴史的大勝利と歴史的大敗北が同時に現出している姿です。このようなときに、日本人はいかなる「こころ」を大切にしたのか。ここから確かな未来へ歩を進めるために、ぜひ、じっくりと味わいたい講義です。
(※アドレス再掲)
◆頼住光子:聖徳太子「十七条憲法」を読む(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5179&referer=push_mm_rcm2
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※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体(件名、本文いずれも)
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