編集長が語る!講義の見どころ
歴史から見える日本の疫病対策の根本問題/片山杜秀先生(テンミニッツTVメルマガ)
2021/01/08
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
今般の緊急事態宣言をめぐる動きでも、さまざまな問題点が指摘されています。今後の行方を心配されている皆さまも多いと思います。
テンミニッツTVでは、これまでも新型コロナ関連の講義を数々配信し、真実はどこにあるかに迫り、いかにすべきかを明らかにすべく取り組んで参りました。これからも引き続き、さまざまな情報を発信していきたいと思います。
本日は、片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授)に、感染症対策の歴史的背景に迫っていただいた講義を紹介いたします。
この講義は2020年2月末に収録したものですが、片山先生が解説してくださる感染症対策の歴史は、いま視聴しても、多くのことを考えさせるものです。片山先生はすでにこの早い段階で、明治30年(1897年)に制定された「伝染病予防法」を1999年に廃止したことが、今回の日本政府(および自治体)の対応の諸問題を引き起こす根本要因として浮上するであろうことを予見しておられました。
◆片山杜秀:新型コロナウイルス問題を日本の疫病対策の歴史から考える(全1話)
伝染病予防法廃止から見えてくる新型コロナウイルス問題
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3227&referer=push_mm_rcm1
今回の緊急事態宣言の決定過程や、国と東京など地方自治体の対立を、興味本位で取り上げているメディアの報道が散見されます。しかし、決定過程がなぜこうなるのかについて、やはり歴史的経緯をしっかりと理解しておくことが重要ではないでしょうか。
人類の歴史は、まさに疫病との戦いでした。ヨーロッパでもペストなど大量死を伴う疫病の流行があり、これに対抗するために各国は、警察権力を用いてでも強制的な隔離を行って疫病を封じ込める体制を構築していきました。
明治になってから、西洋諸国のそのような仕組みを学んだ日本は、当時の内務省に衛生局を移し、警察や地方各県(当時の県知事は内務省からの派遣でした)と連携して疫病を阻止する体制を整え、「伝染予防法」をつくります。
それを成し遂げた長與專齋(内務省の初代衛生局長)に真っ先に着目され、さらに当時の内務省の仕組みに切り込んでいかれる点は、さすが片山先生のご慧眼です。
伝染病予防法では、地方長官が都市封鎖をしたり、交通を止めたり、集会を「禁止」することができました。しかし、この体制は徐々に崩れ、1998年に感染症法が制定されることで、翌年に伝染病法が廃止されることになります。この感染症法は、国家の強権を忌避し、個人のプライバシーや自由を最大限に尊重する精神でつくられました。
しかし、本当にそれで良かったのか……。新しく制定された感染症法は、ある意味でラディカルに過ぎたのではないか。片山先生は本講義で、そう問題提起されます。
なぜ日本では「自粛」に頼らざるをえなかったのか。そのことも、よくよく見えてきます。
さらに片山先生は、国家と疫病の関係をめぐって、ホッブスやジョン・ロックの議論にも言及されます。政治学や哲学ではなじみ深い名前ですが、「疫病と政治」いう視点を入れることで、新たな気づきが得られます。
たとえば、日本人の社会性はきわめて高く、第一波での「自粛」には、皆よく応えました。しかし、「自粛」は「自粛」です。いつまでガマンすべきなのか。疫病を抑えるためにどうすればいいのか。経済を回すべきなのか、封鎖すべきなのか。活動をどこまで自由にしていいのか。「自粛警察」といわれる過度な相互監視の重苦しさをどうすべきか……。時が経てば迷いは深くなり、議論は真っ二つに分かれてしまいます。
「結局、人間の良識に期待するのには限度があり、必要悪としての強力な国家というものを認めなければならない」。「いざというときに、いかに国家は強権で疫病を流行させないようにするのか。しかし同時に、そうした強権が常に使われては困るので、普段いかにそれを制御しておくのか」。これらの片山先生の問題提起が、いまこそ胸に響きます。
国家の役割とは何なのか。危機を克服する体制とはいかなるものか。それを考えるにあたって、大きなヒントとなる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆片山杜秀:新型コロナウイルス問題を日本の疫病対策の歴史から考える
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3227&referer=push_mm_rcm2
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今週の「エピソードで読む○○」Vol.19
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今回の○○は、2024年から流通が始まる新一万円札の顔「渋沢栄一」です。
渋沢の心意気がよく伝わってくるのは、あるとき三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎が隅田川に船を浮かべて、渋沢を招き「私と手を組まないか。手を組めば日本の経済は自由に動かせる」と話したのに対し、はっきり断ったエピソードであろう。
実際、当時の三菱は規模の大きな政商というぐらいで、三井も呉服業を分離して三井銀行と三井物産を設立してまもない頃だった。だから渋沢の考え方一つで、どんな財閥でもつくれたのだが、株式会社方式(合本主義)を日本に広め、商人の地位を高めることが渋沢の目指す道だった。
合本主義-渋沢栄一の持論の目的は「公益」の追求
渡部昇一(上智大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=984&referer=push_mm_episode
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レッツトライ! 10秒クイズ
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「哲学・思想(仏教)」ジャンルのクイズです。
聖徳太子といえば十七条憲法ですが、十七条憲法の第一条にある「〇を以て貴つとしと為」は、その後の日本人の精神性を方向付けたといってもないと言われています。
さて〇には何が入るでしょうか?
答えは以下にてご確認ください
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3768&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて、このたび新型コロナの感染拡大で大変厳しい状況になっていることに関して、編集長がおススメしている講義のほかに、個人的にとても貴重だと感じている講義があります。昨年10月に配信された以下の講義です。
コロナ禍で注目されているデフォーの『ペストの記憶』とは
武田将明(東京大学総合文化研究科言語情報科学専攻准教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3675&referer=push_mm_edt
武田先生は講義のなかでこう話しています。
「感染拡大を防止したい行政の側と、活動が制限されて苦しむ一般市民の間のジレンマは現代でもあります。そしてまた、感染を防止することは、市民にとっても実は大切なことです。なので、論理的に正しい答えを導くのが不可能な問題が、このような疫病やさまざまな大災害のなかではどうしても出てくるわけですよね。
(中略)
科学や医学が解決したり、あるいは宗教や哲学が救済したりできないものと、私たちはいかに向き合うことができるのでしょうか。『ロビンソン・クルーソー』、そして『ペストの記憶』など、ダニエル・デフォーの文学はこうした問題に立ち向かうヒントを授けてくれるはずです」
今まさに、「論理的に正しい答えを導くのが不可能な問題」という言葉がつくづく身に沁みます。そして、改めて歴史に学ぶこと、先人の経験知を生かすことの重要性を強く感じた次第です。
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