編集長が語る!講義の見どころ
アメリカ大統領の「類型」と合衆国の「基本」/東秀敏先生(テンミニッツTVメルマガ)
2021/01/12
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
1月7日、アメリカの首都ワシントンで、トランプ大統領を支持するデモに集まっていた人々が、トランプ大統領の演説に煽られて暴徒化して連邦議会に乱入。死者まで出てしまう悲劇的な事件が起きました。
このような事件を受けて、「アメリカ政治には失望した」というのは容易いことですが、しかし、それ以前の問題として、われわれ日本人はアメリカのことを、どれだけ「理解」できているでしょうか? 外国人の日本に対する「無理解」を、面白おかしく取り上げるテレビ番組などもつくられますが、はたして日本人は人のことを笑えるでしょうか?
本日は、アメリカの基本的なあり方を解説いただく東秀敏先生(米国安全保障企画研究員)の「米国論再考」講義の「Vol.2」をご紹介いたします。以前、本メルマガで紹介した「Vol.1」では、1ドル紙幣に印刷されているアメリカの国章から建国の理念を読み解く講義をしてくださいましたが、この「Vol.2」では、アメリカのWASPの起源や、西漸運動のあり方、外国戦略の類型についてご解説くださっています。
◆東秀敏:“アメリカとは何か”~米国論再考Vol.2(全4話)
(1)アメリカの源流と地理
“アメリカ”という概念の覚醒は欧州での7年戦争に起因する
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3711&referer=push_mm_rcm1
まず、東先生が指摘されるのは、「建国当初は、二流、三流の貴族出身冒険家と、宗教亡命者であるピューリタンからなる英国系移民がアメリカの基礎づくりをした」ことです。つまり、イギリスでは負け組だった人々がアメリカ建国に懸け、その背後には、ハイリスク・ハイリターンを求めるユダヤ系投機家たちのマネーがあったということです。
彼ら英国系移民が、WASP(White、Angro-Saxon、Protestantの頭文字を取った略称)と呼ばれる特権階級層を形成していきます。さらに、このような冒険的な精神風土が、現在にもつながる強烈な起業精神につながっていると、東先生はおっしゃいます。
また、アメリカにおける「中西部」の意味についてのご指摘も重要です。中西部といえば、2016年の大統領選挙でトランプが勝利したカギとなった地域といわれますが、アメリカ合衆国の発足当初、中西部は合衆国には含まれていませんでした。欧州戦争で戦費に困っていたナポレオンから破格の値段でルイジアナを買収したり、謀略を駆使してテキサスを併合したりするなどして拡大していったのです。
アメリカ中西部には、ミシシッピ川盆地と呼ばれる広大な盆地が広がっており、この川のネットワークを生かして農業と工業が大発展しました。しかも、ミシシッピ川の河口のニューオリンズからカリブ海を通って大西洋に輸出することができました。中西部はまさに大きな経済的パワーであり、ニューオリンズは最も重要な戦略拠点だったのです。ちなみに、カリブ海はアメリカの勢力圏だと宣言した「モンロー主義」は、欧州勢力からニューオリンズを守るためのものだったといいます。
このような背景を持つアメリカは、もともとは大陸国家であったと東先生はおっしゃいます。しかし、西漸運動がついに西海岸まで到達すると、今度はセオドア・ルーズベルトと戦略家アルフレッド・セイヤー・マハンが結んで海洋戦略を打ち出し、やがてフィリピンとハワイを併合していくのです。
一時は、新たなフロンティアとしての中国を夢見たアメリカ。しかしいまや、中国から撤退して再び中西部に着目し、中西部で第4次産業革命を持ち込む戦略に方向転換しているといいます。はたして、それはどのようなことなのでしょうか。
さらに東先生は、アメリカ大統領の外交戦略を、座標軸に位置づけます。縦軸の上の極は「介入」、下の極は「孤立」。また、横軸の左の極は「外国情勢への無関心」、右の極は「外国の教化」です。右上の象限は「ウィルソン的グローバル主義」、右下は「ジェファソン的非介入」、左上は「ハミルトン的自由貿易主義」、そして右下が「ジャクソン的孤立主義」だと分類しています。
さて、有名大統領や最近の大統領は、どこに位置づけられるのか。この分析で、非常にクリアにイメージが浮かび上がってきます。
アメリカ理解を地固めするために役立つ講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆東秀敏:“アメリカとは何か”~米国論再考Vol.2(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3711&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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「学者の人生というのはロケットと同じなんだよ」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2067&referer=push_mm_hitokoto
人生100年時代におけるリカレント教育の重要性
伊藤元重(東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授)
「それはどういうことですか」と尋ねると、次のようなことでした。
ロケットは三回ぐらい切り離さなければいけない。一段目のロケットでどこまで飛べるか分からないけれども、そこからまた切り離して次のロケットに点火して二段目で飛んで、そしてさらに三段目で飛ぶ。
つまり、20代前半、場合によっては大学時代も含めてそこで勉強したことだけで、自分の一生が非常に有意義に過ごせるというのは間違いだ。
学問でさえも、やはりどんどん変化してくるのだから、人生を切り離していくという意味で、ざくっといえば40歳になったとき、あるいは50歳になったときに自分のロケットを切り離すというだけの勇気を持っているかどうかが重要だ、というようなことを話されたのです。
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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて今月1月のプレゼント本ですが、為末大先生の著書『心のブレーキを外す。: 「限界の正体」を知り、「思い込みの檻」から抜け出す法』(知的生きかた文庫、三笠書房)です。この本の紹介文には以下の言葉がありました。
“僕は引退したあと、人間の心を学びながら、
限界について考えてきました。
その結果、ひとつの仮説に至りました。
「限界とは、人間のつくり出した思い込みである」”
つまり、限界とは人やデータが決めるモノではなく、自分のこころにあったというわけです。そして、限界を乗り越えるためには、「行動」を変えて、「思い込み」を壊すことが重要だということです。才能や記録、あるいは次の進路といったことで悩んでいる方にとって、貴重な気づきを与えてくれる一冊となるのではないでしょうか。
興味がある方でご応募がまだという方はぜひ。
https://10mtv.jp/
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