編集長が語る!講義の見どころ
なぜ『ロビンソン・クルーソー』は“最初の近代小説”なのか(テンミニッツTVメルマガ)
2021/01/15
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
「今年はもっと本を読んだり、学んだりしたい」。令和3年の年明けにあたって、そのような目標を掲げた方も多いのではないでしょうか。
本日は「近代小説の誕生」にまつわる講義を紹介しましょう。武田将明先生(東京大学総合文化研究科言語情報科学専攻准教授)に、『ロビンソン・クルーソー』とその著者のデフォーについてお話しいただいた講義です。「小説好き」にも、また「あまり小説は読まないのだけれど」という方にもお奨めの内容となっています。
1719年にイギリスのダニエル・デフォーが発表した『ロビンソン・クルーソー』は、ご案内のとおり、ロビンソンが無人島に漂着して、そこで28年間も自給自足的に暮らしたことを描いた話として名高く、「童話では?」という印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし武田先生は、おもしろい逸話をご紹介くださいます。実際にこの作品を読んだ学生が「無人島の話だと思っていたけれども、実際読んでみると、なかなかロビンソンが無人島に漂着しないので困った」と評したというのです。実はそこにこそ、『ロビンソン・クルーソー』が「最初の近代小説」ともいわれているゆえんがあるのですが、果たして、どのようなことなのでしょうか。
◆武田将明:『ロビンソン・クルーソー』とは何か(全7話)
(1)読み続けられる18世紀の小説
なぜ『ロビンソン・クルーソー』は“最初の近代小説”なのか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3573&referer=push_mm_rcm1
武田先生はまず、『ロビンソン・クルーソー』が書かれた18世紀初頭の時代状況を教えてくださいます。なんと当時、小説は、まるで現代のゲーム機やスマホのように「子供の教育に有害」とされる存在だったのです。
ここで武田先生が紹介してくださるのが、反抗的な娘と、その娘を宗教的に立派な信仰を持つように導こうとする両親を書いた「とある18世紀初めの物語」です。この物語のなかでは、娘が留守にしているあいだに、母親が娘が読んでいた小説や脚本などを、すべて暖炉の火にくべてしまいます。
現代であれば、子供が活字の本を読んでいれば、それだけで褒めたくなる親御さんも多そうですが、18世紀初頭には、そうではなかったのですね。このような時代背景は、文化の変遷という意味でも、とても興味深いものです(ひと昔前は、子供がマンガを読んでいると親から白眼視されたものですが、やがて、マンガを読んでいるだけで褒められるようになるのかもしれません)。
さらに武田先生は、「アリストテレス以来、古典的な文学では『筋(プロット)の面白さ』が重視されてきたけれども、『ロビンソン・クルーソー』は、さほど『筋』が巧みなわけではない」と、重要な指摘をされます。
むしろ『ロビンソン・クルーソー』の面白さは、「登場人物の性格(キャラクター)設定」にあって、人物の個性が躍動している。そういった意味で、近代的な文学だという説明が可能かもしれない――そう武田先生はおっしゃるのです。
では、なぜ『ロビンソン・クルーソー』では、人物の個性が際立つことになったのか。その理由として武田先生が挙げられる第1点は、デフォーが自分自身を「文学者」だとも思っていなかった点です。実はデフォーは、自分で商売をやり、工場経営なども手がけ、ジャーナリストとしても発言し、さらに一時期は政府のスパイとして諜報活動も行っていた人物でした。この経歴を聞くだけで、なんとも興味をひかれます。
『ロビンソン・クルーソー』は、当初、デフォーの作品として発表されたものではありませんでした。初版の表紙に書かれていた言葉は、「Written by Himself(彼自身が書いた)」。つまり、ロビンソン・クルーソーという実在の人物が書いたという設定で出版されたのです。なぜ、そのような形にされたのでしょうか? そして、そうすることによって、いかなる文学的な価値が与えられたのでしょうか……?
そしてもう1つ挙げられるのは、デフォーが「長老派教会(Presbyterian Church)」の信者だったために、カルヴァン派の「予定説」の影響を深く受けていたことです。それが作品に、どのように影響しているのか……?
それらについては、ぜひ講義をご覧ください。
「近代小説」はいかに生まれてきたのか。その物語をぜひお楽しみいただき、さまざまな文化が生まれていくことの「妙味」について、考えをめぐらせていただければ幸甚です。
(※アドレス再掲)
◆武田将明:『ロビンソン・クルーソー』とは何か(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3573&referer=push_mm_rcm2
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今週の「エピソードで読む○○」Vol.20
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今回の○○は、古代ギリシアの哲学者「プラトン」です。
プラトンは、自分の財産も多少使いながら、そこに自分の哲学の学校をつくりました。それが「学園アカデメイア」です。プラトンが創設したのはBC4世紀(前387年頃)ですが、AD6世紀の初めまで、つまりキリスト教が完全に支配するまでの長い間存続し、学問の中心の一つとなりました。
これがモデルになって、中世には大学というものが作られます。その大学が近代の大学となり、日本にも19世紀に導入され、東京大学をはじめとして私立の慶應大学などの大学ができてきます。私たちは教育・研究システムというものを、ギリシア以来のヨーロッパの伝統の中で現在に受け継いでいるわけです。
なぜ西洋文明の起源はギリシアにあったとされているのか
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2807&referer=push_mm_episode
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レッツトライ! 10秒クイズ
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「科学技術(生命科学・ゲノム)」ジャンルのクイズです。
「〇〇〇で行った器官形成や臓器形成は、現在の再生医療の基盤となっている」とは、「アクチビン」の発見者として知られる浅島誠先生(東京大学名誉教授)の言葉。「アクチビン」とは、生物の発生過程において未分化細胞に作用する誘導物質のこと。
さて〇〇〇には何が入るでしょうか?
答えは以下にてご確認ください
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2470&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて、年間ランキングではないですが、昨年(2020年)配信開始となった講義のうち、特によく視聴された講義の一つが以下の講義になります。
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司(應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3527&referer=push_mm_edt
この講義は『「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ』シリーズ(全7話)の1話目ですが、2話目以降も数多くの方々にご視聴頂いています。まだ視聴していないという方、ぜひシリーズを通してご視聴頂ければ幸いでございます。
ちなみに、この講義のなかで、昨年のゴールデンウィークの時期、緊急事態宣言が出ていた頃に、前野先生が主宰する「みんなで幸せでい続ける経営研究会」で行った緊急アンケートの結果についてお話しされているので、少しお伝えしたいと思います。
「なくなってよかったものとして、会議、通勤、仕事などが挙げられています。例えば、都内で片道1時間半かけて通勤していた人であれば合計3時間の通勤時間がなくなった、その分家族と過ごしたり散歩にいったりという豊かな時間を過ごせたという人が、実は意外と多かったのではないでしょうか。もちろん大変な経験をされた方も多いでしょうが、そんななか、このような興味深い結果が出ています。このように、パンデミックとの付き合い方に関しても、実は幸せと関係しているといえるのです。」
ということで、取り上げたのはコロナ禍で「どのようなものがなくなってよかったか」という問いへの回答についてですが、このお話をそのまま今回の緊急事態宣言での状況に当てはめることはできないと思いますが、このコロナ時代をどう生きていくか、今後の幸せについてどう考えるか、そのヒントを与えてくれるお話ではないかと感じた次第です。
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