編集長が語る!講義の見どころ
『万葉集』は日本的?中国的?~古代日本のグローバリズム/上野誠先生【テンミニッツ・アカデミー】
2026/04/13
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
中国共産党の「日本批判」が続いています。「日本では中国国民に対する犯罪事件が多発している」「日本の右翼勢力の野心を阻止せよ」などといった激しい言葉も並びます。
このような局面をどう考えるべきか。グローバル化が進んだ一方、世界情勢の厳しさも増していく今、日本のあり方をどのように考えるべきか。
ここで振り返りたいのが『万葉集』です。
「和歌」は、その始まりがスサノオだとされるほど、長い歴史を誇る詩文学です。古来、日本人は歌にさまざまな想いを託してきました。当然、和歌はいかにも「日本文化」だと思っておられる方も多いことでしょう。
しかし実は、最古の歌集といわれる『万葉集』には、中国の影響も色濃く見られるといいます。
はたして、どのようなことか。
本日は、上野誠先生(國學院大學文学部日本文学科教授/奈良大学名誉教授)の「万葉集」講座を紹介します。関西にお住まい、あるいは関西ご出身の方であれば、長く放送されている上野先生のラジオ番組「上野誠の万葉歌ごよみ」をご存じの方もいらっしゃることでしょう。
『万葉集』にまつわる数多くの書籍も発刊されてきた、万葉集研究の第一人者ともいえる上野先生が、『万葉集』の謎を解き明かしてくださいます。
◆上野誠先生:万葉集の秘密~日本文化と中国文化(全5話)
(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4855&referer=push_mm_rcm1
上野先生は、まず講座の第1話で、『万葉集』の最初に掲載された歌、
「籠(こ)もよ み籠(こ)持ち 掘串(ふくし)もよ み掘串(ぶくし)持ち この丘に 菜(な)摘(つ)ます児(こ) 家(いへ)聞かな 名(な)告(の)らさね そらみつ 大和(やまと)の国は おしなべて われこそ居(を)れ しきなべて われこそ座(いま)せ われこそば 告(の)らめ 家をも名をも」(雄略天皇)
2番目に掲載される歌、
「大和(やまと)には 郡山(むらやま)あれど とりよろふ 天(あめ)の香具山(かぐやま) 登り立ち 国見(くにみ)をすれば 国原(くにはら)は 煙(けぶり)立ち立つ 海原(うなはら)は 鴎(かまめ)立ち立つ うまし国ぞ 蜻蛉島(あきつしま) 大和の国は」(舒明天皇)
そして最後(4516番目)に掲載される歌、
「新(あらた)しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事(よごと)」(大伴家持)
などを紹介しつつ、『万葉集』の歌が、いかに日本人の心や情操を詠んでいるのかをご解説くださいます。
いうまでもなく、4516首、全20巻からなる『万葉集』は、日本最古の歌集として知られます。「『万葉集』こそ日本人のこころだ。『万葉集』こそ日本のルーツだ」とお考えの方も多いことでしょう。
しかし上野先生は、「『万葉集』を丁寧に読んでいくと、きわめて中国文学の影響が大きいことに気づく」とおっしゃるのです。
なぜか。
たとえば、『万葉集』の歌は、雑歌・相聞・挽歌に分類されますが、この3つの分類法(=三大部立)は、実は中国の書物『文選(もんぜん)』から学ばれたものだといいます。
また、『万葉集』のなかに出てくる「春が立つ」や「風高し」などの言葉は、漢語の影響のもとに生れたものだと考えられます。さらに、歌のなかには、中国の故事についての知識がないと理解できない歌も含まれていて……。
では、『万葉集』は、中国の『文選』『玉台新詠』『遊仙窟』などの影響下にある、中国文学の焼き直しなのでしょうか。
それも違うと上野先生はおっしゃいます。このあたりの機微を、今回の講座では様々な角度から語っていただいているわけですが、とても興味深い話が次々と展開されます。
まず上野先生は、中華文明の4つの要素として「漢字」「法体系(律令)」「儒教」「仏教」を挙げて、それぞれを概説しつつ、その日本への影響を描いていきます。
古代日本人は、それらの文明をみごとに取り入れて、阿倍仲麻呂のように、中国に渡って、唐帝国の玄宗皇帝に仕え、国務大臣クラスの官職について活躍するほどの教養人も生み出しました。また、当然、外国から使節団が日本にやってきたときには、漢詩のやり取りもなされたといいます。
では、日本は完全に「中国文明化」したのか?
けっしてそうではありません。日本人は、漢字を取り入れて文字として使いつつ、一方で漢字から「かな」を生み出して、表音文字ともしました。その表音文字である「かな」で書かれた和歌の数々……。その事実からして、日本文化のあり方を示しているともいえましょう。
当時の東アジアのグローバル・スタンダードを受け入れつつ、その一方で、脚下照顧。わが国・日本のことを深掘りしていったのです。
上野先生は最終話で、『万葉集』の巻5で描かれる、大伴旅人邸での「梅花宴」をご紹介くださいます。天平2年(730年)の正月に開催された大伴旅人邸宅での梅見の宴会で詠まれた32首が『万葉集』に載っているのです。
少し詳しい方ですと、この箇所の「序文」から「令和」という言葉が採られていることをご存じのことでしょう。
上野先生は、その「序文」の後半が素晴らしいということで、その趣旨をご解説くださいます。そこには、漢詩の伝統を意識しつつ、「われわれは短詠(=和歌)を成す」という言葉が出てくるのです。
中国という巨大な文明のとなりにあった日本。その大きな影響を受け、それをみごとに吸収ながら、しかし一方で、自分たちの伝統を大切にしつづけた日本。
上野先生のお話のなかから、グローバル社会のあり方、さらに真の意味での「日本文化の精華」が立ち現われます。やはり、このような「広がり」と「深さ」こそが日本の美点なのだと、心から納得できます。
とても素晴らしい「和歌論」「日本文化論」です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆上野誠先生:万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4855&referer=push_mm_rcm2
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