編集長が語る!講義の見どころ
ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす/斎藤環先生【テンミニッツ・アカデミー】

2026/06/15

いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。

「精神分析」を学ぶと、現代社会を分析したり、人間のあり方についての考察したりするうえで、大いに参考になる「気づき」をたくさん得ることができます。

しかし一方で、「精神分析」の理論は、けっして取っつきやすいものではありません。精神の深層を探るものだけに、「ん?」と頭のなかに「はてなマーク」が飛び交うことも、ままあります。

本日は、斎藤環先生(つくばダイアローグハウス院長/筑波大学名誉教授)が、「ラカンの精神分析」についてお話しくださった講義を紹介します。

ラカンは、フロイトが構築した精神分析を、さらに独自の概念で構造化していった人物です。

この講義も、必ずしも取っつきやすい内容ではないかもしれませんが、じっくり腰を据えて学んでいくと、「人間の心の構造」のあり方から、現代社会の欲望のメカニズムまで、幅広い対象に鋭い光を当てることができるようになります。さらに講義の最後では、今、大いに注目されている画期的な対話手法「オープンダイアローグ」についても、深く理解できます。

挑む価値ある講義といえましょう。

◆斎藤環先生:ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす(全7話)
(1)精神分析の概念とその起源
なぜ心の病にかかるのか?ラカンの精神分析とその起源
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6265&referer=push_mm_rcm1

この講義は、フロイトの師でもあるフランスの神経科医・ジャン=マルタン・シャルコー(1825年~1893年)の研究から始まります。

講義中で紹介される、シャルコーの研究で写真を撮られたヒステリー患者の写真には、やはり衝撃を受けますが、当時、ヒステリー症状が起きるのは「神経に異常がある」からだと考えられていました。

ところが、どんなに検査をしても異常が見つからない。その治療に成功したのがジークムント・フロイト(1856年~1939年)だったのです。治療のなかで、患者が「自分の葛藤」などを言葉にすると症状が改善していきました。それが精神分析や精神療法の創始でもありました。

第一話で、精神分析の様々な手法や概念(自由連想法、夢分析、転移、エディプス・コンプレックス、トラウマ等々)も紹介されます。ここも理解を深めるうえで必須でしょう。

そして、いよいよ第2話から、本講義のメインでもあるフランスの精神科医で哲学者であるジャック・ラカン(1901年~1981年)へと入っていきます。

ラカンは、フロイトの説に基づき、いろいろな概念を提唱した人物です。第2話から、疾風怒濤のごとくにラカンの説が次々と紹介されていきます。

まずは、「パパ・ママ・僕の三角関係」という分析がベースになるエディプス・コンプレックスから発展し、「お母さんは万能だと思っていた子供が、お母さんにはペニスがないことを発見する」という説。「去勢」や「ファルス」などの言葉で語られる分析です。

このような分析は、一般にはなかなか実感がわきづらいものかもしれません。精神分析になじみがない人は、うっかりするとすぐに講義から振り落とされてしまいかねません。

しかし、そこは動画講義で、しかも講義テキストもあるテンミニッツ・アカデミーの良さ。動画を見返したり、講義テキストを読んだり、じっくりと読み解き、考えてみてはいかがでしょうか?

第3話では、人間の言語やイメージの獲得にまつわる「象徴界、想像界、現実界」の分析。これもなかなか理解が難儀なものではありますが、斎藤先生は、フロイトの「フォルト・ダ遊び(日本でいえば、いないいないばあ遊び)」なども紹介しつつ、ご解説くださいます。

さらに第4話では、現代社会を読み解く上で欠かせない「3つの心の動き=欲望、欲求、欲動」が整理されます。

ここでいう「欲望」とは、欲しい対象が次々とスライドしていく「決して満たされない無限運動」。「欲求」は、食事や睡眠など、必要が満たされればその時点で「100%満足できる」もの。「欲動」は、はっきりした対象は持たないものの、「死の欲動」「生の欲動」といったように、人間の根源的な方向性を定めるもの。

ここで斎藤先生は、たとえば「欲望」の説明の折に、バブル期の糸井重里さんの名コピー「ほしいものが、ほしいわ。」なども連想しつつ、イメージを固めてくださいます。

この3つの心の動きを知ることで、現代社会の資本主義のあり方なども、クリアに見えてくるようになります。

第5話は、「否定神学」。これは、キリスト教の「神」は決して言葉では言い表せないという考え方からスタートします。「神は~だ」と定義することはできない。そうではなく、「神は~ではない」という否定の積み重ねでないとアプローチできないという考え方です。

人間の精神についても、「訳の分からぬものを一個想定しておくと、いろいろなことが説明しやすくなる」といいます。

ラカンは「人間の存在は、狂気なしに理解されないだけではない。もし自らの自由の限界として狂気を内に抱えるのでなければ人間の存在でなくなるだろう」と言っているそう。「狂気」があると想定するだけで、非常に厳密な理論展開が可能になってくるというのです。

実はこのような考え方は、「貨幣」についての議論であったり、社会における「空虚な中心」についての議論であったり、さまざまに応用されうるのです。

一方で、この「否定神学」的な議論から、ラカン理論の限界も見えてくるといいます。それがどのようなことかは、ぜひ講義本編でご覧ください。

このような分析の積み重ねを受けつつ、第6話で斎藤先生は「オープンダイアローグ」の考え方について詳述していきます。

「オープンダイアローグ」は、フィンランド発祥の精神疾患ケア技法で、薬や入院を使わず、「対話実践」だけで精神病を回復させてしまうアプローチです。

素朴に、当たり前の対話をしているだけで、なぜ回復するのか。

オープンダイアローグは、ラカンと違って、治癒という「ゴール」よりも「プロセス」に注目するのだといいます。ゴールオリエンテッドではなく、「過程を重視する」プロセスオリエンテッドであることが特徴なのです。

プランも立てず、何が起こるか分からない状態を温存しておく「不確実性の耐性」が一番大事なのだといいます。さらに「変われば変わるほど変わらない」という逆説もあって、変化を試行しすぎると、逆に変化が遠ざかることもあるというのですが……。

この「オープンダイアローグ」も、いま注目される重要な概念ですので、ぜひじっくりと学んでみてはいかがでしょうか?

そして最終第7話では、アメリカの人類学者グレゴリー・ベイトソン(1904年~1980年)の「学習理論」が紹介されます。

たとえば、「学習のコンテクスト」についてです。ベルを鳴らして犬に肉をあげることを繰り返していくと、犬はベルの音だけでよだれを垂らすようになるという、有名な「パブロフの犬」の実験があります。これは「ベルが鳴れば肉が出てくる」といった「学習のコンテクスト(文脈)」を理解したから現われる反応だといいます。

では、たとえば、お母さんから「あなたのことを愛している」と言われながら、「ハグを拒否されてしまった」としたらどうなるか。

このようなことからコンテクスト(文脈)が与える影響について考えていきます。そして実はこの「コンテクストを揺さぶること」が精神病からの回復プロセスを始動させることにもつながるというのですが……。

この「コンテクストの揺さぶり」は、日常のさまざまな事柄においても大事かもしれないと述べて、今回の斎藤先生の講義は結びとなります。

じっくりと学んでいくと、自分が生きていくうえで、あるいは仕事をしていくうえでの、大切なヒントにいくつも出合える講義です。ぜひ、ご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆斎藤環先生:ラカンの精神分析~心の謎を解き明かす(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6265&referer=push_mm_rcm2


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※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体


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