編集長が語る!講義の見どころ
「世界全体が成仏する!」比叡山延暦寺を開いた最澄の教えとは(テンミニッツTVメルマガ)

2021/02/16

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
2月13日(土)23時頃、福島県沖を震源とする地震がありました。大きな揺れで被害を受けた方、心配された方も多かったと思います。心よりお見舞い申しあげます。やはり日々、災害に対して物心両面で備えておかねばならないことを、あらためて痛感させられました。

本日は、比叡山延暦寺を開いた最澄についての、頼住光子先生(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)の講義を紹介いたします。以前、このメルマガでも紹介した、「【入門】日本仏教の名僧・名著」シリーズの1編です。

最澄といえば、多くの皆さまにとって聞き覚えのある名前でしょう。歴史の教科書では「平安仏教の代表的人物」として登場します。また、法然が延暦寺を開いた比叡山は「日本仏教の母山」ともいわれます、現在、日本には多くの仏教の宗派がありますが、その開祖たちの多くが、比叡山で修行を積んでいるからです。法然、親鸞、道元、日蓮といった人たちも、皆、比叡山で学んだ方々でした。

ところで、最澄がどんなことを考え、どんな文章を書いていたのか、ご存じの人がどれほどいらっしゃるでしょうか。この講義では、そのさわりを学ぶことができます。

◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~最澄編(全4話)
(1)比叡山延暦寺の開祖として
天台宗の開祖・最澄が残した最大の成果は「大乗戒」の確立
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3807&referer=push_mm_rcm1

最澄は、西暦767年(一説には766年)に、現在の滋賀県大津市坂本の一帯を治める豪族の子供として生まれました。12歳で自国(近江国)の国分寺に入り、14歳で得度。さらに修行と学問に打ち込んで、785年に奈良の東大寺で「二百五十戒」を受けます。

この「二百五十戒」とは、たとえば「異性と2人で同じ部屋にいてはいけない」というような、日常的な修行生活を律する生活の規則です。そのような誓いが250もあって、しかもその1つ1つを、10人の資格を持った正式の僧の前で誓わねばならない決まりでした。

それだけの戒律ですから、この「二百五十戒」を受けられるのは、ごく少数の大変なエリート僧侶だけでした。しかし最澄は、「二百五十戒」を受けた後、エリートの僧侶としての地位を捨て、比叡山にこもって自分で12年間も修行をします。さらに唐にも留学し(804年~)、日本天台宗を確立するのです。

今回紹介する本講義で読み解いていく最澄の文章は、最澄自身が比叡山で12年間修行していたときに書いた『願文』と、後年、弟子たちに天台宗の修行の仕方を示した『山家学生式』です。

それぞれにどのようなことが書いてあるかは、ぜひ講義をご受講いただくとして、ここでは『山家学生式』の冒頭をご紹介します。

「国宝とは何物(なにもの)ぞ、宝とは道心(どうしん)なり。道心ある人を名づけて国宝と為(な)す。故(ゆえ)に古人(こじん)言わく、径寸十枚(けいすんじゅうまい)、是(こ)れ国宝にあらず、一隅を照らす。これ則ち国宝なり」

この最後に出てくる、「一隅を照らす。これ則ち国宝なり」は、とりわけ有名な言葉です。天台宗では、現在「一隅を照らす運動」なども展開していますが、つまり、「自分自身のいるところから照らしていけば、やがて世界も光り輝く」という意味を帯びた言葉です。

この「一隅を照らす」は、実は読み間違いではないか、との異説もあるのですが、それを頼住先生は最澄の自筆も示して教えてくださいます。そのうえで頼住先生は、次のように指摘されるのです。

《最澄自身が書いたのが「一隅を照らす」ではなかったとしても、「一隅を照らす」という考え方は、まさに最澄の「一切衆生悉有仏性」や法華一乗の思想などに通じていくところがあるのではないかと思います》

「一切衆生悉有仏性」というのは「涅槃経」に出てくる言葉で、「生きとし生けるものはすべて仏性を持っている」という考え方。これらが、まさにこの「一隅を照らす」という考え方に展開していくのです。

この「一切衆生悉有仏性」は、さらに「草木国土悉皆成仏」、また「山川草木悉皆成仏」へと変化していきます。「生きとし生けるもの」ばかりでなく、心を持っていない草木も、国土や山川も、つまり世界全体が成仏するというのです。この考え方が、いかに日本人の世界観に影響を与えたのか……。日本仏教における最澄の果たした意味の大きさがよく理解できる講義です。ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)
◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~最澄編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3807&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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「正しいことだけをやっている人が正しい人なのではなく、正しい人がやることが正しい」

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3209&referer=push_mm_hitokoto

古代と現代では「正しさ」の考え方に根本的な違いがある
中島隆博(東京大学東洋文化研究所 教授長)
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)

もう少し、「正しい人」とはどういう人のことかを説明します。仮にA、B、Cという行為が正しくて、D、Fが不正だとします。その際、古代ギリシャにおいては、正しいことだけをやっている人が正しい人なのではなく、正しい人がやることが正しいのです。少し語義循環が生じていますけど。つまり、発想の順番としては、たまたま正しいことができる人を見て、「この人は正しい」ということではなく、正しい人間がやることが正しいという順番なんです。


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今週の人気講義
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渋沢栄一が近代日本に与えた二つの大きな影響
童門冬二(作家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3868&referer=push_mm_rank

フランス革命を考える上で鍵となるのはルイ14世と啓蒙思想
本村凌二(東京大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3593&referer=push_mm_rank

最初は誰も賛成しない「創造的なこと」をする時の振る舞い方
西山圭太(東京大学未来ビジョン研究センター客員教授/前・経済産業省商務情報政策局長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3831&referer=push_mm_rank

渋沢栄一の曾孫が明かす「日本資本主義の父」の真実
渋沢雅英(渋沢栄一曾孫/公益財団法人渋沢栄一記念財団相談役)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3841&referer=push_mm_rank

実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3527&referer=push_mm_rank


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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
冒頭で編集長も書いておりますが、このたびの地震で被災された皆さま、心よりお見舞い申し上げます。

さて、テンミニッツTVの編集を進めていて、最近よく思うのは、「学び」とは何か、その欲求といいますか、意欲はどこから来るのか、ということです。
一言で言い表せるほど簡単なことではないと思いますが、なんとその答えの一つともいえる話をされている先生がいました。現在、シリーズ講義「『宇宙の創生』の仕組みと宇宙物理学の歴史」が好評配信中の岡朋治先生(慶應義塾大学理工学部物理学科教授)です。

岡先生は、シリーズ講義<ブラックホールとは何か>の第7話でブラックホールの研究について、「世の中の役に立つ」という類のものではなく、私たちの日常生活と直接は関係がないと話しています。ではなぜ「世の中の役に立つ」という類のものではない研究を続けているのか。岡先生は、こう答えています。

“答えは1つです。「知りたいから」なのです。これだけです。そこに何があるのかが気になるのです。これが分かると、また次に分からないものが現れます。「この先はどうなるのか」と問い続けると、終わりがないのです。”

ブラックホールとは何か(7)基礎科学研究の社会的意義
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2628&referer=push_mm_edt

「知りたい」というこの純粋な気持ち、感覚というのは、「学び」においても非常に大事な点だと感じました。ただ岡先生は、それだけでは多分話にならないとも話しています。そして、こう続けています。

“こうしたことを、皆さんと共有してこそ意味があるのです”

どうですか。皆さんの「知りたい」に少しでもアプローチできたのなら幸いです。

※シリーズ講義「『宇宙の創生』の仕組みと宇宙物理学の歴史」は以下よりご視聴いただけます
(1)宇宙の階層構造
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3786&referer=push_mm_edt