編集長が語る!講義の見どころ
『ゴジラ』の作曲家・伊福部昭で語る日本・西洋・近代/片山杜秀先生【テンミニッツ・アカデミー】

2026/11/02

いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。

2026年11月3日から、映画『ゴジラ-0.0』公開です。前作の『ゴジラ-1.0』は世界で大いに評判となり、第96回米アカデミー賞・視覚効果賞をはじめ国内外の映画賞で50以上の最優秀賞を受賞。興行収入も76.5億円という大ヒット作となりました。

ゴジラといえば、やはり「あの音楽」です。

「ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ」の印象深いゴジラのタイトルテーマ。また、ゴジラが登場するときに轟然と鳴り響く「ゴジラの動機」。

これらが聴こえてくるだけで、一気に「ゴジラの世界観」に引き込まれます。

ゴジラ音楽を作曲したのは、伊福部昭さん(大正3年〈1914年〉~平成18年〈2006年大正3年〉)です。今回、紹介するのは、片山杜秀先生(慶應義塾大学教授/音楽評論家)の伊福部昭さんについての講義です。

戦中派である伊福部さん自身、戦時中に、放射線を用いた航空機用の木材強化研究に携わって、放射線に被爆して血を吐いて倒れた経験があるだけに、ゴジラの世界観と深いところでの結びつきがありました。

伊福部昭さんは、1914年に北海道に生まれ、北海道大学農学部に進学。つまり独学で音楽をやっていたのですが、とある作曲賞で第一位をとったことで一躍スターダムにのし上がり、第二次世界大戦の直前から大戦期にかけて一世を風靡していたのです。

当時の時流のなかで「大東亜共栄圏」や「満洲国」にまつわる曲も、委嘱されて何曲も作曲しています。

だからこそ、あの時代の日本人が直面していた「日本と東洋と西洋」「近代と近代の超克」というテーマに真正面から向き合っていた作曲家でもあったのです。

伊福部さん自身も、音楽と民族性について深く考え続けた作曲家でもありました。

この講義は、伊福部さんの音楽などいろいろと引用して実際に聴きながら、後半に進めば進むほど、「西洋と日本の違いは何か」「近代とはいかなるものか」について深く分析していく、驚くべき内容になっていきます。ぜひとも最終話まで見るべき講義です。

◆片山杜秀先生:伊福部昭で語る日本・西洋・近代(全8話)
(1)チェレプニン賞に輝いた無名の作曲家
映画『ゴジラ』の作曲家・伊福部昭が直面した「日本と東洋と西洋」そして「近代の超克」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5133&referer=push_mm_rcm1

第1話は、もちろんあのゴジラのテーマから始まります。そして、いかにして伊福部昭が世に出てきたかが紹介されます。

先述のように、伊福部さんは北海道大学農学部の出身。ギターやヴァイオリン、作曲を独学し、北大では学生オーケストラをやっていましたが、音楽大学などで学んだわけではありません。

北大卒業後は北海道の帝室林野局で働いていた伊福部さんでしたが、ロシア人作曲家・アレクサンドル・チェレプニンが1935年に開催した作曲賞に応募し、みごと一位を獲得します。この作曲賞の審査員は、当時のヨーロッパの名だたる作曲家たちでしたから、伊福部さんは一躍、日本でも世界でも知られる存在になるのです。

実はこのチェレプニン賞の経緯は、シュペングラーの『西洋の没落』が大いに話題を呼び、第一次世界大戦やロシア革命の混乱に直面した当時の世相を大いに反映したものでもありました。その点は、ぜひ第1話をご覧ください。

第2話は、チェレプニン賞を受賞した伊福部さんの「日本狂詩曲」を聴くところから始まります。片山先生は、この曲は「祭りばやしみたいな音楽を、とてつもないオーケストラでやってしまった大胆さ」と評します。しかも、既存の祭りばやしのメロディーを安易に使うのではなく、まったく独自の形で、その世界を描き出してしまったのです。

その作曲賞の直後、1937年からシナ事変(日中戦争)がはじまるなど、時代は一気に戦争へと突き進みます。そのような時代のなか、西洋の技術を最大限受け入れながら、日本の精神を描いていく発想が重視されるようになり、伊福部さんの音楽が一世を風靡するようになるのです。

第3話では、まず、伊福部さんが戦時中の1943年に日本国内の管弦楽曲コンクールで1位をとった「交響譚詩」を聴いていきます。

実は伊福部さんの父親は、北海道の音更という村の村長を務めていました。音更にはアイヌ集落があり、非常にアイヌに理解ある村長だったために、子どものころの伊福部さんもアイヌの文化に身近に触れていました。アイヌの方々の即興的な音楽に親しんでいたのです。

第3話と第4話では、そのような背景やアイヌの音楽文化について語られ、そこから伊福部音楽の真髄が解説されます。

「西洋音楽の論理や常識では自然とはいえない変拍子が、伊福部音楽では自然になる」というお話が象徴的ですが、実際の音楽と片山先生の解説を聴けば、伊福部音楽の「エネルギーの秘密」もよくわかります。

第5話からは、いよいよ西洋と日本の違いを、当時の日本人がどう受け止めたかに話は進んでいきます。

西洋の交響曲は多くの場合、第1主題と第2主題を対立的に提示して、その絡み合いで曲が進んでいきます。本講義では、ベートーヴェン交響曲第5番を実際に聴いて確かめていきます。そして、それといかに異なる音楽を、伊福部さんはじめ当時の日本人作曲家が作ろうとしたかが語られます。

ひと言でいえば、「多様なものを一元論にしていく東洋の論理を、いかに具現化するか」が問われたのです。

西洋のキリスト教社会では、人間はあくまで神の被造物であり、神と人の二元論がベースになる。しかし東洋では、人間も宇宙も究極的には一体の一元論がベースになる……。

そのような問題意識は、岡倉天心らが提起したものでしたが、第二次世界大戦に至る時代背景のなかで、二元論的な近代的世界観を、いかに一元論的な世界観で克服するかが問われていたのです。

そのことが、伊福部さんの音楽を実際に聴くことで、見事にわかりやすく浮かび上がってきます。

「二元論的対立」ではなく、「多様性を保った一元論」。片山先生は、戦後の日本でも、「55年体制」で自民党と社会党が表で対立しつつ、裏では国対政治でつながっていたように、根っこにおいては一元論的な気分を共有していたといいます。

しかし現在、それが崩れてきてしまっている。それがもたらすものは何か。そしていま、どのような思想や感性が求められるのか。

日本文化、西洋、そして近代の本質について大きなヒントを得られる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆片山杜秀先生:伊福部昭で語る日本・西洋・近代(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5133&referer=push_mm_rcm2


----------------------------------------
今週の人気講義
----------------------------------------

『万葉集』でわかる奈良時代の貴族と地方豪族の関係と日常…歌人・大伴家持の歌に秘められた国守時代の苦労話
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授〈特別専任〉/奈良大学 名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6383&referer=push_mm_rank

「甘え」は現代においてダメなものなのか…名著『「甘え」の構造』への2種類の誤解とは?
與那覇潤(評論家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4949&referer=push_mm_rank

ロシア人の見る「ロシアの歴史」を知るとロシアがよくわかる…実際に会ってみたプーチンの印象とは?
上月豊久(元駐ロシア日本国特命全権大使)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6387&referer=push_mm_rank

『オデュッセイア』の面白さの秘密を神話の構造から読み解く…なぜ波乱万丈の神話が人間の創作の源泉になったか
松村一男(和光大学名誉教授)
沖田瑞穂(和光大学教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6339&referer=push_mm_rank

「満洲史」はなぜ現代日本でタブー視されるのか?…王道楽土の夢とアヘンなどの裏面から見えてくる現代への教訓
宮脇淳子(公益財団法人東洋文庫研究員)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=6351&referer=push_mm_rank


公式noteをフォローすると過去のメルマガも見られます!
https://note.com/10minacademy