編集長が語る!講義の見どころ
二・二六事件の「本質」を知ると近代日本の悲劇がわかる(テンミニッツTVメルマガ)

2021/02/26

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
本日は、ちょうど二・二六事件から85年です。二・二六事件は1936年に起きています。満洲事変の5年後であり、支那事変(日中戦争)開戦の前年、さらに太平洋戦争開戦の9年前にあたります。日本が戦争に突入していく、大きな1つの契機となったといえるでしょう。

この二・二六事件について、片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)が、とても興味深い見方を示してくださる講義を紹介いたします。なんと片山先生は一般の通念とは異なり、事件を起こした「皇道派」の考え方のほうが実はリアリズムであって、バカにしたものではないというのです。

◆片山杜秀:戦前日本の『未完のファシズム』と現代(全9話)
(6)皇道派と統制派の対立
二・二六事件で失敗した皇道派の“密教”と“顕教”とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3427&referer=push_mm_rcm1

本日ご紹介する片山先生の講義は、「戦前日本の『未完のファシズム』と現代(全9話)」のうちの1話です。

よく知られているように、二・二六事件は、陸軍の青年将校が首相官邸や要人宅を襲い、高橋是清(蔵相)、斎藤実(内大臣)、渡辺錠太郎(陸軍・教育総監)らを殺害。さらに首相官邸、陸軍省、参謀本部、国会などを占拠して「昭和維新」を訴えた事件です。

二・二六事件当時の陸軍の背景について、よく「皇道派」と「統制派」という2つの派閥の熾烈な争いが描かれます。「皇道派」というと、「『天皇の軍隊』という価値観を主軸に置き、『精神力で勝てる』などとばかり主張するファナティックな勢力」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。とくに三島由紀夫の『英霊の聲(えいれいのこえ)』で二・二六事件で処刑された青年将校の御霊の声として描いた「などてすめろぎは人間となりたまいし」という言葉を思い起こされる方もいらっしゃることでしょう。

しかし片山先生は、そのような類型化された見方を否定されます。どういうことなのでしょうか。

そもそも、陸軍に「皇道派」と「統制派」等と呼ばれる派閥が形成されていく大きなきっかけになったのは、第一次世界大戦でした。ヨーロッパで戦われた「国家総力戦」を見た当時の陸軍の若き俊英たちは、大きな衝撃を受けます。総力戦は、文字どおり、資源や経済力、技術力、国家動員力など国家全体の力が問われる戦いです。資源も乏しく、まだ工業生産力も低い日本は、もはやアメリカやソ連などには勝てないのではないか。そう痛感させられたのです。

しかし、軍人である以上、そうはいっていられません。そこでどうするか?――この考え方の違いで、「統制派」と「皇道派」が分かれていくのです。

「統制派」は、国を挙げて統制経済を強めて国家総動員体制を作り、力尽くで対抗しようと考えるあり方です。また、資源を獲得するために満洲を確保し、さらに中国や南方にも手を伸ばすべきという考えをしていきます。

一方、「皇道派」と目される荒木貞夫や小畑敏四郎には「本音」と「建前」(「顕教」と「密教」)があったと片山先生はおっしゃいます。彼らは、日本は「総力戦」ではアメリカやソ連には勝ち目がないとリアリスティックに見限っていた。統制派がいうように国家総動員をやっても、国民の反感を招くばかり。結局は、疲弊した国民を共産主義者が煽動してロシア革命のような事態を招き、ついには国を滅ぼしかねない。それが、皇道派の危機感だったというのです。

そこで彼らは、表向きは「日本は精神力があるから強いのだ」と言い聞かせ、それによって予算的にも無理なく陸軍の組織を持続させながら、本音では、巨大な戦争を避け、朝鮮半島と中国大陸の一部ぐらいを確保しながらやり過ごそうとします。しかし、そのような考え方に反発した統制派が、皇道派の青年将校を挑発し、彼らが暴発してクーデター未遂に及んだことで、皇道派は追い落とされ、統制派が陸軍を握ることになる……。そう片山先生は分析されるのです。

このあたりのお見立ては、まことに興味深いものです。上記の流れの詳細については、ぜひ講義本編をご覧ください。まさに、国家の全体システムをどう描くかという問題です。表面的な事柄ばかりでない「深読み」の大切さをも教えてくれます。

本日はシリーズ講義の第6話を紹介しましたが、講義全体では、「なぜ大日本帝国憲法の首相の権限は弱かったのか」という話からはじまり、海軍についても「大艦巨砲主義よりも、山本五十六の航空派のほうが頭が良いと見なす発想はダメだ」という話にまで至ります。考えさせるところの多いシリーズです。ぜひご覧ください。

また、この講義は、片山杜秀先生の『未完のファシズム』(新潮選書)に基づいたものでもあります。ぜひ本講義をきっかけに、この書を手に取ってみてはいかがでしょうか。

(※アドレス再掲)
◆片山杜秀:戦前日本の『未完のファシズム』と現代(6)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3427&referer=push_mm_rcm2


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今週の「エピソードで読む○○」Vol.26
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今回の○○は、豊臣家の家臣「木村重成」です。

大坂夏の陣のとき、豊臣家を一身に支えた木村重成は、最後は討ち止められるのですが、首が家康のところに運ばれた際、首からほのかに白檀か何かの香りがした。豊臣家も最後だから、自分は豊臣家と生死をともにすべき立場である。いよいよ今日の出撃が最後であろうと覚悟ができているから、香を焚いて、毛髪に染み込ませてから出撃したのです。要するに首実検を受けるときに腐臭が漂ったり、血の臭いがしたりするのは、尾籠であろうと考えた。これがいわゆる平家以来の、優にやさしき“もののふ”の心がけなのです。

真田幸村と木村重成の最期の逸話にみる「武辺の道」
中村彰彦(作家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3146&referer=push_mm_episode


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レッツトライ! 10秒クイズ
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「歴史・民族(考古学)」ジャンルのクイズです。

人類の祖先はアフリカから〇回にわたり出ていったそうですが、そのことを旧約聖書の「出エジプト」になぞらえられ「出アフリカ」と呼ばれています。
さて〇には何が入るでしょうか?

答えは以下にてご確認ください
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2553&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。

さて今週水曜日から配信が始まった川合伸幸先生(名古屋大学大学院情報学研究科教授)のシリーズ講義<「怒り」の仕組みと感情のコントロール>。

◆川合伸幸:「怒り」の仕組みと感情のコントロール
(1)「キレる高齢者」の正体
高齢者は本当にキレやすいのか――「怒り」の実態に迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3902&referer=push_mm_edt

早速、多くの方にご視聴いただき、心理学、認知科学へ関心の高さを感じております。
それは、おそらく皆さんのなかにも「怒り」によって失敗したこと、困ったこと、反省したい過去など少なからずあるからではないでしょうか。
では「怒り」を抑えたり、和らげたりするにはどうすればいいか。シリーズではその方法について「怒り」の仕組みを中心に迫っていますので、第2話以降も見逃せない内容が続いていきます。
毎週水曜日配信予定で全5話ですので、ぜひシリーズを通してご視聴ください。