AIが企業の現場や経済全体にどのような影響を及ぼすのか。現場レベルでは、コールセンターや文章作成業務においてAIが生産性を向上させることが実証されている。特に経験の浅い層の底上げに寄与する一方、ベテランのスキル向上を妨げるという副作用も確認されている。だが一方で、ベテラン層こそ、AIを存分に活用できるという研究もある。AIが出してきた答えについて正しく判断できるベテランこそ、ステップ・バイ・ステップでAIに次々と課題を投げられるので、結果として答えの精度がはるかに高まるのである。マクロ経済の視点でも、AIが経済成長に貢献するか否かについて、世界の知の巨人たちの間でも慎重論と楽観論という2つの見解に分かれている。それぞれどのような見解なのか。最新の研究結果を交えながら解説する。(全8話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●AI導入で現場では何が起きているのか――プラス・マイナスの研究結果
―― そうしますと次にお話しいただきますのが、現場で何が起きているのかというところですね。
宮本 実際に生成AIはすごい能力を発揮しています。では、これを企業の現場ではどのように使っていて、どのような成果が現れているのか。そこについても、すでに研究が行われています。いくつか紹介させていただきます。
有名なところでは、スタンフォード大学のブリニョルフソン教授がいます。この方は、以前『ザ・セカンド・マシン・エイジ』(アンドリュー・マカフィーとの共著、2014年。邦訳は村井章子訳、日経BP社、2015年)という本を書かれました。日本でも多くの方が読まれたのではないかと思います。AIやロボットといった新技術が雇用にどのような影響を及ぼすのかを長く研究されている方ですが、実際にある企業で生成AIを導入したときに何が起こったのかを分析されています。
その企業では、コールセンターに生成AIを導入しました。そこで何が起こったかというと、まず生産性が明確に上がりました。コールセンターでは、顧客からの問い合わせに対応しますが、生成AIを使うことによって、対応件数が15パーセントほどアップしたのです。特に経験の浅い方、あるいは新人の生産性が大きく上がったというデータが出ています。
これはチャットを使ったカスタマーサポートの事例です。お客さんから質問が来ると、生成AIが「こういった回答をしたらいいですよ」という提案をしてくれる。それを使うかどうかはオペレーターが決めることができます。新人にとっては、自分で一から考えるよりも、AIが出してくれる答えのほうがよい場合が多い。そこで、それを使うことで、生産性が上がるということです。
結果としてお客さんの反応もよい。生成AIはベテランが出すような適切な答えを示してくれるので、お客さんもそれに満足をする。オペレーター自身も、仕事のストレスが軽減する、やりがいが増える、働きやすさも向上するといったプラスの効果が出てきたことが、スタンフォード大学の研究で明らかになっています。
(ただ)一点、面白い部分があります。ベテランの生産性が上がったのかどうかというと、実は若干下がった可能性があるのです。
―― なるほど。
宮本 生成AIが出してくる...