AIの進化が労働市場に与える影響を予測するため、不確実な未来を複数の可能性で捉える「シナリオ・プランニング」が重要視されている。バージニア大学のアントン・コリネク教授は、AGI(汎用人工知能)の登場時期を軸とした3つの「未来シナリオ」を提唱した。AGIとは、人間に匹敵する能力を獲得したAIのこと。AIが徐々に進化するシナリオでは、人間とAIの協働により生産性と賃金がともに向上する。だが、5年から20年以内に人間と同等の能力を持つAGIが登場すれば、人間の仕事が代替され、長期的には賃金が低下する可能性もあるという。はたして、それぞれのシミュレーションとは。そして、これから人間は、どのように考えていくべきなのだろうか。(全8話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●シナリオ・プランニング――人間と同水準のAIができたらどうなる?
―― 続きまして「シナリオ・プランニング」ですが、これはどういうことですか。
宮本 AIがどのように進化していくのかというのは、正直、不確実性が非常に高いわけです。AIがもっと進歩したとき、人々の働き方、仕事、お給料、さらには経済全体のあり方――経済成長も含めて――がどうなるのか。いくつかのシナリオを考えて、そのうえでどういった政策が必要なのかを考えることを「シナリオ・プランニング」といいます。
これは「汎用人工知能(AGI)」と呼ばれるものの登場が語られるようになってきたことで、特に重要になっています。端的に言えば、人間とほぼ同じ能力を持ったAIだと思っていただくとよいと思います。現在の生成AIは、「特化型AI」と呼ばれます。特化型というのは、例えば、あるAIは文章作成が非常にうまい、あるAIは動画を作ってくれる、あるAIは音楽を作ってくれるというように、特定のタスクに対して強みを持っているということです。では、一つのAIで人間がやっていることを全部できるかというと、(現時点では)そうではありません。
これに対してAGIは、ありとあらゆるタスクを人間と同じようにこなしてくれる。人間のコピーが生まれるようなイメージです。
「AIのゴッドファーザー」と呼ばれるトロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授は、「AIが人間よりも賢くなる可能性がある」「AGIが今後5年から20年の間に登場する可能性がある」といったことをおっしゃっています。
そうなると、AGIの登場まで踏まえて、これから雇用はどうなっていくのか、給料はどうなっていくのかを考えていくことが、シナリオ・プランニングの一つの面白さ、重要性だと思います。
―― それではそれぞれを見て参りたいと思いますが、まず一つ目はどういうシナリオですか。
宮本 シナリオ・プランニングをAIのコンテクストに落とし込んで分析しているのが、バージニア大学のアントン・コリネック先生です。彼もG7の会合のメンバーの一人で、G7の場でもシナリオ・プランニングが重要だと提唱しています。
考え方の基本は、人間の脳がこなせるタスクに上限があるのかないのか。ここがまず一つのポイントです。
―― それもまた面...