編集長が語る!講義の見どころ
ビスマルク――独裁者の資質とドイツの悲劇/本村凌二先生(テンミニッツTVメルマガ)
2021/03/12
いつもありがとうございます。テンミニッツTVの川上です。
皆さまは、ドイツはお好きでしょうか? 「どことなく親近感がある」「ドイツの音楽や、ドイツの製品は素晴らしい!」などという感想をお持ちの方も多いかもしれません。
しかし世界史のうえでは、ドイツは第一次世界大戦や第二次世界大戦の大きな原因をつくった、なかなか困った存在です。しかも、プロイセン王国やバイエルン王国など、バラバラに分かれていた国々が「ドイツ帝国」を成立させたのは、日本の明治維新よりも後のこと。
ドイツ帝国の統一を実現させたのは、有名なビスマルクです。ビスマルクは、プロイセンの首相として「(ドイツの統一は)演説や多数決によってではなく、鉄と血によってなされる」と演説し、権謀術数も駆使して普墺戦争、普仏戦争など数々の戦争を自国の勝利に導いたので「鉄血宰相」とも呼ばれます。あの風貌(ふうぼう)もあいまって、強面(こわもて)の人物像がイメージされますが、じつは実像は、ずいぶん違ったようです。
しかも、ビスマルクという有能な宰相がいた国家は、彼の失脚後、あっという間に第一次世界大戦に突入し、帝国自体が崩壊する事態に至ってしまいます。それは果たして、なぜだったのか? 本日ご紹介するのは、そのことを本村凌二先生に解説いただいた、大好評「独裁の世界史シリーズ」の「ビスマルク編」です
◆本村凌二:独裁の世界史~ビスマルク編(全3話)
(1)ドイツ帝国の水先案内人
鉄血宰相ビスマルクが打ち出したのは「穏健な社会主義化」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3858&referer=push_mm_rcm1
たとえば本村先生は、ビスマルクの次のようなエピソードをご紹介くださいます。
1878年のベルリン会議の時に、ビスマルクはイギリスのディズレーリ首相に「あなたのところは、相変わらず競馬が流行っている?」と尋ねたのだそうです。ディズレーリ自身が競馬の馬主でもあったので、「うちは相変わらず、みんなが盛んにやっています」と答えると、ビスマルクは「いやあ、それはいいね。競馬が流行るような国では社会主義がはびこらない」と答えたそうです。
ご自身も競馬を深く愛する本村先生ならではの逸話紹介ですが、このエピソードから、話をユーモラスに進めていくビスマルクの一面が浮かび上がってきます。
考えてみれば、ビスマルクは単に戦争に勝っただけでドイツ帝国を成立させたわけではありません。ドイツとロシアとオーストリアで「三帝同盟」を結び、ドイツとイタリアとオーストリアでは「三国同盟」を結び、イギリスとは友好関係を築くなど、主敵であるフランスを孤立させる同盟ネットワークを巧みに作り上げていったことは有名な話です。
そのような外交巧者が、魅力的な人物でないはずがありません。ビスマルクは、繊細にいろいろなものを見ている人で、「中庸を心得る」とか「傲慢にならない」などの価値観を体現していた政治指導者であり、独裁者としては「いいほうの部類」に入るのではないか。そう本村先生はおっしゃいます。
しかし、独裁体制が怖いのは、そのような「ビスマルクの人格や能力」で成立していたドイツ帝国が、次代のヴィルヘルム2世で、あっという間に崩れていくことです。
ヴィルヘルム2世が非常に独断的で短気で過激な人物でした。黄色人種を差別する「黄禍論」をまき散らしたのも彼です。彼の性格に引きずられて国際関係で緊張が高まり、その結果、第一次世界大戦が引き起こされ、その戦争に敗れたドイツ帝国は崩壊。ヴィルヘルム2世も退位を余儀なくされました。ドイツ帝国の成立は1871年でしたが、たった四十数年後の1918年に滅びてしまったわけです。
ビスマルク自身、ヴィルヘルム2世に対して「この人物は将来、自分でも気づかないうちに、望まないまま、ドイツを戦争に陥れることになるかもしれない」と漏らしていたそうですが、残念ながらその不安が的中してしまいました。しかもそれが、ヒトラー登場の背景にもなるわけです。
独裁政においては、個人の資質や性格ひとつで、たちどころに破滅的な局面が招来されてしまうことがある。まさに恐ろしい話です。
政治のあり方は、いかにあるべきなのか。どのようにチェックを働かせるべきなのか。また、ドイツ帝国の歴史、特にその覇権主義的なあり方が、現代のわれわれに訴えかけてくるものは、何なのか。そしてヨーロッパ近現代史の背景とは――そのようなことを、いろいろ考えさせてくれる講義です。ぜひご覧ください。
◆本村凌二:独裁の世界史~ビスマルク編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3858&referer=push_mm_rcm2
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今週の「エピソードで読む○○」Vol.28
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今回の○○は、ドイツの考古学者で実業家の「シュリーマン」です。
ホメロスの『イリアス』というと、多分多くの方はハインリッヒ・シュリーマンのことを思い出すと思います。『古代への情熱』という名著がありまして、シュリーマンという非常に変わった実業家の自伝です。
子どもの頃からあこがれたホメロス『イリアス』の世界をぜひ自分の手で見つけたいと思って大金持ちになり、そのお金を投じて発掘事業を行い、見事『イリアス』の戦場の舞台を発掘したということです。
現代の考古学からみると、なかなか無茶なことをしていて、素人仕事に近いところも多いのですが、少なくともホメロスの『イリアス』が歴史的に起こった出来事をもとにしたことを私たちに示してくれた19世紀の出来事です。
2700年前の詩人ホメロスが時代を超えて感動を与え続ける理由
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3564&referer=push_mm_episode
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レッツトライ! 10秒クイズ
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「哲学・思想」ジャンルのクイズです。
フロイトは「人は幸福を求めて〇になる」と考えた。
さて〇には何が入るでしょうか?
答えは以下にてご確認ください
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3515&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて、昨日は3.11から10年ということで、今週火曜日(9日)に編集長から片田敏孝先生(東京大学大学院情報学環 特任教授/群馬大学名誉教授)のシリーズ講義「釜石の子どもたちにみる防災教育」についてお話がありましたが、今回は「防災」という観点から同じく片田先生の以下の講義を少し取り上げたいと思います。
◆片田敏孝:日本の防災の課題(3)災害に主体的に向き合う社会
災害に主体的に向き合えるような社会をつくる
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2699&referer=push_mm_edt
「自然災害に対して命を守るというと、あたかも敵は自然災害のごとく思うのですが、本当の敵は己かもしれない。ちゃんとした行動を取れるのは非常にハイインテリジェンスで、自分の行動を自ら律することができた上でしかできないと思うのです。そういう面では、まず自分というものを知り、そして自らを律するという中で、防災が語られていく必要があるのです」
いさ災害が起こったとき、ちゃんとした行動を取れるかどうか。これができるのは非常にハイインテリジェンスなことだと片田先生はおっしゃっています。つまり、それはなかなか難しいことで、だからこそ普段から自分のことを理解しておくことがとても重要だというのです。防災は自分の心からということですね。
ということで、皆さん、この機会にぜひご視聴ください。
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