●人のためになる善玉菌の働き・発酵
皆さん、こんにちは。私は、発酵学者の小泉武夫です。発酵食品についてお話をします。
よく発酵というと「腐っているということ?」と言う人がいるのですね。発酵と腐敗はまったく違う。天国と地獄ぐらい違います。それは人間のご都合主義から考えると、人間のためにいいことをする菌は善玉菌、人間のために悪いことをするのは悪玉菌と考えましょう。
そうすると、悪玉菌には2種類いるのです。何かというと、まず食べ物を腐らせてしまう腐敗菌です。これを食べたら食中毒になります。それから、腐敗菌の他にもう一つ、悪玉菌がいます。病気を引き起こす病原菌です。これは発酵ではないのです。私が言っている発酵というのは、善玉菌です。例えば、納豆を作ってくれる納豆菌。チーズとかヨーグルトをつくってくれる乳酸菌。お酒を発酵してくれる酵母とか麹菌。お酢をつくってくれる酢酸菌。こういうようなものは、人間にとってとてもいい菌なのです。だから、こういうようなものを発酵といいます。発酵食品というのは、人間のためにとてもいいことをしてくれる菌がつくってくれたもののことで、その行為を発酵というのですね。
●発酵がないと和食も洋食も成り立たない
そこで、今日は発酵食品の話をしましょう。発酵食品がないと、実はわれわれの食生活は成り立たないのです。「えっ、なぜ?」と思われるかもしれません。実は、朝ご飯を食べましょうとなると、ご飯、みそ汁が出てくると思いますが、みそ汁のみそは発酵食品ですよね。納豆も発酵です。納豆にしょうゆをかけようかとなると、そのしょうゆも発酵です。また漬物も発酵ですね。ということで、なんでも発酵なのです。発酵がないと和食は成り立たないのです。
そもそも和食は一汁三菜といいまして、一汁は一という字にみそ汁の汁で、三菜は野菜の菜、つまりおかずのことです。和食が成立するためには、三つのおかずがないと駄目なのです。ご飯とみそ汁、それから、三つのおかず。三つのおかずのうちの一つは、決まっていて、香の物、漬物です。そうすると、和食が成立するためには、味噌と漬物がないと駄目なのです。
では、洋食のパンはどうだろうと考えてみましょう。洋食派は朝、パンでしょう。パンは入口から発酵です。だって、パンは小麦を発酵するのですから。だから、発酵がなかったら洋食は駄目で、そもそもないのです。それから、サラダにかけるドレッシングだとかマヨネーズだとかも全て発酵です。お酢を使っているのですから。そういうことを考えると、まず発酵食品がないと成り立たないのです。
●こんなにすごい発酵食品-1.発酵すると腐りにくい
発酵食品というのはすごいのです。私も、文藝春秋から『発酵食品礼賛』という本を出しましたけれど。自分で136冊ほど本を書きましたけれど、そのうちの80冊ほどは発酵に関する本です。ですから、それだけ書いてもまだ書き足りないというぐらいに、発酵という世界はものすごいのです。
その中にはさまざまなおいしいものがあり、いろんなことがありますけれど、発酵食品には、四つの特徴があるのです。一つは何かというと、腐りにくいということです。すごいですね。発酵食品はあまり腐らないのです。だから、冷蔵庫のなかった時代は、腐らない発酵食品がほとんどでした。
例えば一番いい例として、牛乳で考えてみましょう。牛乳を暖かい家に置いておいて、1日過ぎて飲んだら食中毒になってしまいます。腐敗するわけですから。けれども、そこに乳酸菌を入れて発酵させたら、すぐにヨーグルトでブヨンブヨンになります。ヨーグルトになったら、腐りにくいのです。ヨーグルトの上澄みの乳清を取って下の部分を固め発酵させたのがチーズです。チーズはほとんど腐りません。私は昔、トルコで170年前のチーズを食べたことがありますけれど、全然変わりませんでした。和歌山県の新宮市に東宝茶屋という料亭がありますけれど、その料理屋さんでは30年もののさんまのなれ寿司をいまでも食べさせてくれます。ヨーグルトと同じですね。とにかく腐りにくい。納豆なども本当にそうです。納豆は、冷蔵庫の中に入れてカリカリしても食べられるのです。私から言わせれば、納豆というのは、賞味期限が切れたぐらいがうまいなと思っているほどです。とにかく発酵すると腐りにくいということです。
●こんなにすごい発酵食品-2.独特の香り
2番目ですが、発酵食品は独特の香りがあるということです。くさやにしても、ふな寿司にしても、納豆にしても、味噌にしても、チーズにしても、独特の香りがあるではないですか。これがまたいいのです。だけれども、嫌な匂いばかりではないでしょう。
私は、そういう匂いはとても好きなのですが、例えば発酵したパンの匂い...