10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
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スンナ派とシーア派の宗教戦争に発展する危険性は?

中東最新事情を読む(2)イランの国際社会復帰

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/明治大学研究・知財戦略機構国際総合研究所特任教授
情報・テキスト
ローハニ大統領
サウジアラビアとイランの対立は、スンナ派とシーア派の対立を代表するものといわれてきた。一朝一夕に始まったものではない宗派間の対立は長く冷戦状態を続けてきたが、ここへ来て、なぜ断交という一触即発の危機に及んだのか。これは世界戦争に直結してしまうのか。歴史学者・山内昌之氏に解説いただこう。(全7話中第2話目)
時間:10:44
収録日:2016/01/27
追加日:2016/02/22
ローハニ大統領
サウジアラビアとイランの対立は、スンナ派とシーア派の対立を代表するものといわれてきた。一朝一夕に始まったものではない宗派間の対立は長く冷戦状態を続けてきたが、ここへ来て、なぜ断交という一触即発の危機に及んだのか。これは世界戦争に直結してしまうのか。歴史学者・山内昌之氏に解説いただこう。(全7話中第2話目)
時間:10:44
収録日:2016/01/27
追加日:2016/02/22
≪全文≫

●中東の宗教「紛争」が「戦争」に発展する危険性


 皆さん、こんにちは。サウジアラビアとイランとの断交はまだ続いていて、国際関係における緊張要因になっています。

 スンナ派の盟主であるサウジアラビアと、シーア派の総本山ともいうべきイランは、これまでも安全保障など、国益の相対を含めて長いこと競い合ってきました。いわば、彼らはすでに冷戦状態にあったのです。そこに、2016年1月の断交が起きたわけです。

 引き続いて、私の中東滞在期間中に、サウジアラビア空軍がイエメンにあるイラン大使館を空爆したことで、イラン政府による非難が起こりました。サウジアラビア側は、「いや、その空爆はイラン大使館を目標にしたものではない。その近くを攻撃したものが、たまたま大使館のそばに着弾しただけである」と弁解をしています。

 いずれにせよ、両国がもし正面から事を構えるとすれば、これは国家間の衝突という通常の戦争のレベルにとどまりません。肥沃な三日月地帯(Fertile Crescent)という、イラクからシリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル、エジプトまでつながる大きな舞台が絡んでくることになります。すなわち、スンナ派対シーア派という宗教紛争が、一挙に宗教戦争に発展する危険性が生じてくるのです。


●中東複合危機と第3次世界大戦の間の短い距離


 この最悪のシナリオが実現すれば、中東複合危機は第三次世界大戦への扉をストレートに開くことになると思います。そうなれば、米欧やロシアは中国とともにこれに巻き込まれ、ホルムズ海峡は封鎖されるか、自由航行が大きく制限されます。そして、日本はもとより、世界中のエネルギー供給や金融株式市場、景気動向を直撃するショックが到来することになります。

 もっとも、非常に冷静な面を持つ文明国家イランは、1月下旬のイスラム協力機構の緊急外相会議やダボス会議において、外務大臣がサウジアラビアに緊張緩和を呼び掛けていますし、アリー・ハメネイ最高指導者もサウジ大使館焼き討ちを「悪行であった」として、率直に下手人たちに対する非難声明を出しています。

 イランのハメネイ最高指導者とハッサン・ローハニ大統領は、いずれも制裁解除によるイランの国際社会復帰を優先したいものと思われます。

 サウジアラビアとイランが対立して、スンナ派とシーア派の宗教紛争が高じ、戦争のレベルまで達すると、利益を得る勢力があります。それは、他ならぬイスラム国(IS)です。それによって、ISと対決する国際的な取り組みが弱まるからです。

 スンナ派とシーア派との宗派的力関係が敵対的に変化することは、これまでISに対して共感的だったり、密かに援助してきたり、少なくとも共感の声が一部世論の中に混じっている国においては、大事です。サウジアラビア、カタール、トルコなどがそれに当てはまりますが、彼らの中で「反シーア派」ないし「反イラン」の国民感情が強まれば、中東情勢や国際政治の枠組みは大きく変動するに違いありません。


●シーア派処刑の裏にあった「核合意」への焦り


 今年の1月2日の事件、すなわちサウジアラビアによるアヤトラ・ニムル・バクル・アル・ニムルと他の3人のシーア派教徒の処刑は、イランはもとよりシーア派世界の人々にとって、簡単に忘れられるものではありません。

 43人のスンナ派の人間をテロリストとして同時に処刑したサウジアラビアは、「シーア派に対する差別的な処刑ではなく、テロとの戦い...
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