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中国は2017年が転機!?ニューノーマルを唱える習政権に注目

アジア政治経済の過去と現在(3)中国の動向と注目ポイント

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
10年前と比べて、中国の生活水準は大きく向上した。しかし、政策研究大学院大学学長・白石隆氏は、こうした成長によって肥大化した国家意識こそ、今の中国にとっては問題になると述べる。このままの中国では、アメリカのようにはなれないだろう。ただし今後の動向を見る上では、一帯一路の戦略に注意を払う必要がある。(全6話中第3話)
時間:08:25
収録日:2016/09/20
追加日:2016/11/20
カテゴリー:
≪全文≫

●成長によって肥大化した、中国の国家意識


 中国は、あれだけの大きい規模を持つ国ですし、それから過去10年間を見ても本当に1.5倍ほど生活水準が上がっています。そうやって、非常に期待が膨らんでいる中で、習近平政権は「ニュー・ノーマル」、新状態と言いながら、中国国民の期待を抑えつつ、できる限り経済成長を続けるといいます。

 ですが、中国は、歴史もあり、かつてはアジアの盟主だったという意識もあります。どんどんどんどん大国になってくると、当然のことながら、「周りの国はうちの言うことを聞いて当然だ」という意識が出てきます。それも一種のナショナリズムです。私はそれが決して健全なナショナリズムだとは思いませんし、健全か不健全かを議論してもしょうがないでしょう。しかし、現にそういうことが起こっているのは間違いありません。このコンビネーションがかなり深刻です。

 何か大きい転換があるとしたら、来年(2017年)の党大会の後でしょう。習近平が非常に強いリーダーとして思い通りの人事をやり、それで2期目に入っていく。そのとき、かなり開明的な戦略的決定を行えば、かなり雰囲気は良くなるでしょう。しかしそうではなく今の方向で行くと、当分は相当難しいということも覚悟してやるしかない、という気がしています。

 客観的にいえば、これは単に経済の規模ではなく科学技術の水準やテクノロジー・インテンシブな産業レベルなどの問題もありますが、経済的な側面から考えると、中国が世界経済の先頭に立つということは、とてもではないですが考えられません。また中国が持っている、世界秩序についての考え方がすんなりと受け入れられるとも思いません。

 軍事的にも、おそらく10年ほどたって2020年代の半ばに入ると、アメリカの国防予算、軍事費の3分の2ぐらいのところまで来ると思います。ただ、それはあくまでお金の話です。実際の軍事力、あるいはアメリカでいわれている「軍事の革命」に対抗できるような軍事力とそのためのシステムをつくれるかというと、それについても私はそうは思いません。

 やや肥大化した、国としての期待の上に国家戦略を組み立てているのではないでしょうか。それに気が付かないと、だんだんといろいろなところで無理が生じ、どこかで社会が劇的に破綻するのか、あるいは徐々に衰退していくのか、どちらになるかは分かりませんが、振り返ってみると、「ああ、あの頃ピークだった」ということになるのではないかという気がします。


●「一帯一路」には引き続き注意が必要


 他方で中国は規模が大きいでしょう。時間軸がどのくらいなのかということが、正直に言って分かりません。ただ私が注目しているのは、(以前の講話でも指摘した通り、中国の)一帯一路です。これを見ていると、それほど戦略的にやっている印象はありません。もうやみくもに、ともかく取れるものは何でも取りに行くという感じで進めています。結果的に、特に日本と競争しているときには、日本の方でも政治のリーダーシップは「やれ、やれ」と尻を叩いているように、向こうもやはり尻を叩いているのでしょう。相当、無理してやっています。

 どうも見ていると、受注した後になって「しまったな」と思っているようなケースがいっぱいあります。ですから、戦略的にメリハリを付けて計算してやっている感じは、正直ありません。

 ただいくつかの国は、明らかに注目点になっています。インドネシアは、非常に良くやっています。ミャンマーも注目されています。それからパキスタンですね。他には、これから中東の方がどのように出てくるのか。コミットメントはいっぱいやっていますから。しかしまだ、しばらく様子を見てみないと、どうなるかは分かりません。

 ある意味で戦略とは、今考えたものを20~30年たってから実行するものではなく、数年間やってみて、何か具体的に既成事実ができてきたら、それを踏まえてまた進んでいくというものです。

 その意味で、例えばミャンマーやパキスタンは、両方ともインド洋に出てくるわけです。ミャンマーの場合は、石油とガスのパイプラインができました。今のところはそれ以上進んでいませんが、将来そこに高速道路や高速鉄道が開通すると、中国としては初めて雲南省からインド洋に出られるようになるのです。同じことを新京からグワダルのところまで進めれば、そこからでも出られるようになります。それができた時点で、中国のインド洋に対する戦略的見方は変わってきます。そういう意味で、一帯一路の内実はしっかりと見ておく必要があると思います。

 またインドネシアも、ジャカルタ─バンドン間の話題が日本では随分注目されました。例えば、スマトラにはかなり良質の石炭がとれる地域がありますが、それは内陸の話です。そこから港までの鉄道、港湾の設備...
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