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トランスジェンダー対応策と性同一性障害特例法の問題点

LGBT生徒へのいじめと排除(2)トランスジェンダーへの壁

土井香苗
国際 NGO ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
情報・テキスト
国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏が、LGBT生徒が置かれている現状と対応策の問題点について解説する。土井氏は、単なる「いじめは駄目」的な対応では多様なバックグラウンドを抱えるLGBT生徒へのいじめは解消しないと指摘。特にトランスジェンダーの子どもに関する国の対応策には問題が多いという。(全3話中第2話)
時間:09:31
収録日:2017/07/12
追加日:2017/08/04
タグ:
≪全文≫

●「いじめは駄目」ではLGBT対応には不十分


 実際に日本のいじめ対策を見てみると、いじめ防止に関する法律が、今から4年ほど前(2013年)にできて、しっかりと系統立ったいじめ対策は行われるようになってはいるのですが、そのいじめ対策の中にLGBTの子ども、性的なマイノリティの子どもは位置付けられていませんでした。

 しかしながら、こういった子どもたちの性的な指向、あるいは性自認と言いますが、セクシュアル・オリエンテーション、ジェンダー・アイデンティティに関連して、いじめや排除をされているという現実があるのです。それはやはりそのことが原因となるわけですが、その原因に対して適切な対応がなくてはならない、とわれわれは考えました。

 もともと文科省が持っていたいじめ対策は、「絶対いじめは駄目。誰にでもいじめは起こり得るもので、皆が関心を持たなければいけない。そして絶対やっては駄目」と、こういう感じなのです。それ自体は非常に正しいことで、もちろん、いじめは絶対に駄目なことですし、確かに誰にでも起こり得るものです。しかし、さまざまなバックグラウンドのあるいじめに関しては、それぞれ特殊な対応が必要で、先生の理解から始まって、教育の内容やさまざま専門的な知識、経験に基づいて対応しなくてはならないものなのです。そういったものがなく、ただ「いじめは絶対駄目だよ」ということだけではやはり、いじめはなくならないですし、有効な対策は打てません。そういう状況が浮き彫りになっていました。


●「制服」はトランスジェンダーの子たちの大きな壁


 あともう一つ思ったのは、LGBTの中のトランスジェンダーの子どもたち、いわゆるジェンダー・アイデンティティ、性自認のマイノリティの子どもたちに関して、です。特に典型的なのが、例えば小学校ぐらいなら、「ちょっとボーイッシュな女の子だね」とか、「少し女の子っぽいおとなしめの男の子だね」とか、そんな感じで学校に行けていたのが、中学校に上がると、大体制服を着るという状況になるため、本人が思春期になってくることも同時だからということもあると思いますが、制服としてスカートをはいている自分というものがどうしても受け入れ難い、あるいは学ランを着ている自分というものがどうしても嫌であると、ある意味初めて思うようになる、つまり、そういった「すごく嫌だ」という気持ちがしっかり認識できてくるということです。そういうことが、中1の制服を着るというところから始まったりする子が非常に多いと思いました。

 その時期から学校に行くのが非常に困難になってきて、トイレに行くということも我慢して我慢して、なるべく行かないようになどといった努力もありますし、着替えをするときもとても着替えにくいという経験をします。何を着ていくかとか、トイレに行くか行かないかというようなことは、学校生活の上で非常に重要な部分だと思うので、そういったところに大きな支障が出てきて、それが積み重なり、しかもいじめられたりして、いろいろ学校に行きにくい事情が生じ、不登校になってしまうという子のケースは、決して例外ではないのです。


●トランスジェンダーの対応策・性同一性障害特例法の問題点


 そのようなトランスジェンダーの子たちに対して国レベルの対応としては、性同一性障害特例法(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)という法律があり、この法律に従って戸籍上の性を変えるということができるようになっています。自分のジェンダー・アイデンティティに沿った戸籍の記載に変えられるのです。つまり、法律上も自分のアイデンティティと合った性になれるということです。

 それ自体は非常に必要な法律なのですが、その法律の大前提が、まずトランスジェンダーは「性同一性障害という精神障害である」という認識になっており、それにプラスして、戸籍を変えるためには永遠に生殖器を欠く状態になる手術を要求しているなどの問題があるのです。

 これは完全に手術で生殖器の機能を失わせる、不妊にさせるという手術なのですが、こういった手術を「断種手術」に呼んだりする人もいます。やはり現代の社会では自分が生むか生まないかとか、いつ生むか、何人生むかとか、そういったことは本人が決めるというのが非常に基本的な人権であり、個人の尊厳の基本的なところと考えられているので、そういったものを強制する制度ということ自体に非常に問題があります。


●「精神障害」という扱いがもたらす影響と困難


 そういう制度が大前提にあるのですが、逆にいえばそれしか制度がないということです。その他に特別にトランスジェンダーの人たちに対する法令といったものは基本的に存在しないので、子どもたちにも非常に影響があるのです。

 一つは、トランスジェンダーが精...
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