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日本銀行としては金利を引き上げる決断は難しい

2018年の経済動向~インフレ率と金利~

植田和男
第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授
情報・テキスト
2017年後半から続く「ぬるま湯相場」は、2018年も続いていくのか。日本経済もアメリカ経済も、現在の低金利水準が上昇すれば、株価は大きく崩れるだろう。インフレ率と金利に着目して新年の相場を見る必要があるということを、共立女子大学国際学部教授の植田和男氏が解説する。
≪全文≫

●2017年後半から「ぬるま湯相場」が続いている


 半年ほど前、2017年7月末に内外の金融政策、インフレ率、資産価格、経済の関係についてお話ししました。今回は、それから半年がたって、これらの動きがどうなったのかということをお話ししようと思います。

 前回もほとんど同じ図を見ていただきましたが、この図の左側がアメリカの中央銀行(FED、連邦準備制度理事会)の最近の金融政策の動きです。半年前に予想したように、FEDは秋口から買い入れた資産を徐々に減らしていくという意思決定をするとともに、年末には一度金利を引き上げています。今回はあまり触れませんが、欧州中央銀行(ECB)も最近、2018年の初めから資産の買入額を減らしていくという意思決定をしました。

 前回、私は2017年後半には2つの可能性があると指摘しておきました。第1に、金利が上がって株価やその他の資産価格が大きく崩れるということです。通常よく使われる表現で言えば、「適温相場」あるいは「ぬるま湯相場」が崩れるということです。ぬるま湯相場とは、例えばインフレ率があまり変動せず、金融引締めのペースもゆっくりであるか、あるいはほとんど引き締められないという場合に、株価が強く推移している状態を指します。今後はこうした相場が崩れるのではないかと、指摘したのでした。

 第2に指摘したのは、こうした適温相場、あるいはぬるま湯相場が続いていく可能性があるということでした。主な理由としては、インフレ率があまり上がらず、そのために金融引き締めのペースもゆっくりになるということです。

 こうした2つの可能性を指摘しておいたのですが、実際にはこの半年間は、第2の可能性に近い状態で世界経済が動いてきました。

 例えば、過去1年間のアメリカの10年国債の金利を見ると、2017年11月には多少金利が上がっていますが、1年間の平均ではほとんど大きな動きはありません。年末に金利が上がっているのは、その時期にドナルド・トランプ政権が減税政策を決定したからでしょう。

 株価を見ると、S&P500種指数は2017年初頭には2200程度だったのですが、最近では2700近くになっており、2割ほど着実に上昇しています。


●インフレ率次第で、新年の相場や金融政策が大きく揺れる


 こうした状況になっている最大の理由は、アメリカのインフレ率です。2016年から2017年にかけてインフレ率は上昇する気配を見せながらも、2017年には低下し始め、はっきりと上昇する気配はあまり見えません。そのため、将来にかけて強い引き締めが来ないのではないかとマーケットが考え、その結果、株価は上昇しているのです。

 このことを別の見方で見てみましょう。「フィリップスカーブ」と呼ばれる図があります。横軸に失業率、縦軸にインフレ率を取ったグラフです。通常、失業率が下がってくると経済が好調になり、賃金やインフレ率が上がりますから、右下がりのグラフになるのが普通です。上図の青い点は、過去10年ほどのアメリカ経済の動きを示しています。失業率が低下しているにもかかわらず、インフレ率にはっきりとした上昇が見えないということが分かるでしょう。学者やFEDのエコノミストは、グラフの赤い線のように経済が動くのではないかとずっと予測してきたのですが、現実にはそうなってはいません。

 そのため、当面あるいは少し先のインフレ率がどうなっていくのか、市場は自信を持てないでいるというのが現状でしょう。また長期金利もはっきりとした動きを見せていません。その結果、リスク資産の価格はどんどん上昇しています。したがって、よく言われることですが、インフレ率のデータ次第で、新年の相場や金融政策の動きが大きく揺れるでしょう。FEDもデータ次第だということを認めています。


●現在の金利水準は本当に経済にとって適切なのか


 次に、日本について考えてみましょう。日本は今、短期と長期の金利をコントロールするという「イールドカーブコントロール(YCC)」という政策を続けています。欧米、特にアメリカが金利を少しずつ上げていく中では、長短金利をおよそゼロに据え置くという政策は、円安を引き起こし、日本経済にプラスの影響を与える可能性があると考えられてきました。

 確かにじわじわとそうした状況にはなっているのですが、アメリカの金利引き上げのペースが遅いということもあって、現状ではあまり強く円安になっているわけではありません。

 さらに、より難しい問題もあります。アメリカが先に出口に向かい、その後ヨーロッパも金融緩和を止めていく一方、日本は最後まで金融緩和を維持し、できればイン...
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