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日本画で「写意」を表現するための「写生」とは?

日本画を知る(1)写実・写意・写生

川嶋渉
京都市立芸術大学 美術学部 日本画研究室 准教授
情報・テキスト
日本画家で京都市立芸術大学美術学部日本画研究室准教授・川嶋渉氏が、日本画の世界で大切にすること、方法について解説する。日本画では「写意」を非常に重視するが、その写意を出力するためには「写生」が欠かせない。川嶋氏は、実はこの聞き慣れているはずの写生という言葉には深い意味があると言う。(全3話中第1話)
時間:12:14
収録日:2017/11/13
追加日:2018/01/29
ジャンル:
≪全文≫

●ありのままを写す「写実」、本質を写す「写意」


 皆さん、こんにちは。日本画家の川嶋渉と申します。よろしくお願いいたします。京都市立芸術大学でも日本画を教えています。

 日本画の世界でとても大切にしている言葉に、「写意」という言葉があります。一方、写意に対し、絵画の中でよく使われる言葉として「写実」があります。これは一般的にも多く使われている言葉なので、皆さんよく理解していると思いますが、「実を写す」と書きます。この「実」とは、「真実」のことです。絵の中にありのままを写す、ということが、非常に多くの人の心を捉え、共感を生むということで、非常に大切にされている言葉です。

 もう一つの写意ですが、これは日本画を含む東洋絵画の中で使われてきた言葉で、「意を写す」と書きます。「意」とは、例えば、自分の意見であるとか、ものの意味や本質までも描き写そうではないか、という意味で使われています。では、この写意を画家たちや学生たちが果たしてどうやって日本画の中に出力しようとしているのか、ということを少しお話ししたいと思います。


●「写生」とは、ものの本質に迫るための方法


 「実を写す」ということであれば、例えば、事細かく物事の現象を写し取ればいいのでしょうが、写意とは自分の意見やものの本質に迫ろうとするわけです。そのときに日本画家がとても大切にしていた行為の中で、一番代表的なものが「写生」です。

 写生とは、子どもの頃の「写生大会」などといった時に使われてきた言葉ですが、本当の意味はもう少し深いところにあります。写生は「生まれる、写す」と書きますが、この「生まれる」とは一体何が生まれるのか、ということですね。

 写生とは、現場に出向き、その対象物としっかり対峙し、その姿を写し取ることはもちろんですが、そのときに生まれた何かを、スケッチブックの中に写し取るということなのです。ですので、例えばその時に風が吹いていたとか、いい花の香りがしたね、といったことまでもしっかりと記憶に留め、ただ記憶だけではなく、画中にどうやって入れていこうか、ということになっていくのです。

 写生は、私たちが学生の時にも「写生をしなさい、写生をしなさい」と、口が酸っぱくなるほど何度も先生から言われ、教わってきた言葉ですが、これは「現場に出向きなさい」ということです。学生はかっこいい作品をどうやって描けばいいのかということに少し焦りがちですが、「いや、焦ることはないんだよ。しっかり写生をした方がいいんだよ」というわけで、私たちは学生の時からずっと、写生ということを大切にしてきました。

 ただ、学生の時に私たちがやっていた写生とは、ひょっとしたら「形」というものをそっくりに写していただけの行為だったのかもしれません。段々と年を取り、ずっと絵を描いてくると、やはり写生ということの意味を、とても大切なものとして捉えられるようになってきました。


●全てを写す「写真」と気持ちが入る「写生」の違い


 「現場で写す」ということの中には、写真で持って帰るということもあります。写真は「真実を写す」だけのことあって、ものの形態を非常にそっくりに持って帰ることができます。ただ、厄介なのが、全てを持って帰ることができてしまうということです。人の目とは勝手なもので、実はとても気に入ったところだけにピントを合わせてしまいます。もしくは、それ以外のことが見えなくなってしまうというようなことが、よくあると思います。

 例えば、きれいな花があると「わあ、きれいな花だね」と言いますが、その下に空き缶が落ちていてもそれは一切目に入らないのです。しかし、写真で持ち帰ると、例えば地面に落ちている空き缶までもが写真に写り込むことがありますし、空き缶を避けて写真を撮ったとしても、花のずっと向こうにある電信柱が写ったりしますね。でも、実際に描いていると、電信柱も空き缶も描いてくる学生はいません。やはりその場でものと対峙したときに生まれた「美しいな、きれいだな」「家に持ち帰ってこれで作品を作りたいな」という気持ちが、その写生の中に入っていくのです。写真は真実を写すので、写生とは違うのです。


●スマホでは情報としての花しか見えてこない


 しかし、写真は写真で非常に便利なもので、今は記録媒体で持って帰るという学生が非常に多くなりました。特にスマホです。簡単にポケットから出してパシャッと撮っておく。雨の日などは外に出て行って写生ができないので、机の上にスマホをとんと置いて、絵を描いているのです。少し細かいところが分からないときには、すぐに指で画像を拡大できて、便利です。しかし、指で拡大するということは、実は対象物には決して近づいていないのです。花を描いているときに香りがふっとしてきたら、近...
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