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大学改革で日本が採るべき戦略とは何か?

日本の大学改革の進むべき道

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
日本でも大学改革が進められているが、大学全体を見通した人事や、アメリカの大学で採り入れられつつあるクラスターハイヤリングはいまだに導入されてはいない。既存の予算や人員とは別に、真新しい地点から戦略を考える必要があると、立命館大学特別招聘教授でジェトロ・アジア経済研究所長の白石隆氏は主張する。
時間:10:44
収録日:2017/11/24
追加日:2018/03/18
ジャンル:
≪全文≫

●大学全体として高い視野からの人事ができていない


質問 GRIPS(政策研究大学院大学)は、大学の中のイノベーションでした。こうした大学は他にないのでしょうか。

白石 GRIPSは小さい大学ですので、小回りが利きます。かなりの程度、学長の思い通りになります。大学改革にはいろんな問題があるのはご承知の通りですが、動こうとする大学が本当に動き始めたということです。日本の大学もまんざら捨てたものでもないと思います。

 ただ、アメリカのトップクラスの大学と比べればまだまだでしょう。アメリカ・イギリス・日本のトップクラスの大学の戦略を比較研究している方がGRIPSにいます。彼によれば、やはりアメリカの大学の方がよく考えているようです。

 例えば、人事一つ取ってもそうです。日本の場合、大学人事となると、それぞれの部局に任せてしまいます。部局に任せると、どうしても部局の中だけで望ましい人になります。つまり、大学全体として、どういう人を採りたいかという、もう少し高い視野からの人事ができていないのです。もう少し彼の研究が進展すれば、具体的な結果が分かるでしょう。

 今、私は広島大学で経営委員に就いています。広島大学は今の学長になって、教員を全部、大学レベルの教員にしました。つまり、これからは教員の任用やプロモーションについては、学部で決めずに学長の承認が必要になるのです。

 これは日本の大学にとっては画期的なことだと思います。文科省がその重要性に気付いていないのは不思議です。例えば、ハーバード大学やコーネル大学の人事は、2段階の過程があります。まず、それぞれの学部でサーチコミュニティーを作り、そこで研究者を採用します。それぞれの分野で一番良い人を採るわけですから、研究者としてはしっかりとした人が採用できます。しかし、それがそのまま直ちに大学の人事にはなりません。次に、その人事を大学本部に持っていって、それが大学全体にとってプラスかどうかということを判断します。この過程を経て、ようやく人事が決定します。


●重要分野の研究者をまとめて採用するクラスターハイヤリング


白石 日本の大学の人事は、まだこのレベルにも達していません。その上、先ほどの研究者の方によれば、アメリカの大学はさらに先へ進み始めているようです。例えばサイエンスでは、物理や化学といったそれぞれの分野で優秀な人を採るだけでは競争できません。むしろ、物理と化学の境界領域や化学と生物の境界領域といったところで、面白い研究がどんどん進んでいます。そうした研究に従事する人を、大学としてどのように採用するか、アメリカの大学は工夫をしています。

 その仕組みがクラスターハイヤリングです。つまり、境界領域の研究者を例えば物理部局だけで採用するのではなく、化学でも生物でも数理科学でも採用するということです。複数の部局でグループとして採って、そのグループの存在感が示せるような人事をアメリカの大学は始めています。

 私の印象では、もう10年もすれば、こうした採用方法が主流になるでしょうが、今の日本の大学ではそれがどうすれば可能なのか見通せません。クラスターハイヤリングを実施すれば、世界の大学を見回して、ある分野が重要になるとわかれば、10人ぐらいまとめて一気に採用することも可能です。そうした分野はビジネスのシーズンを見ていても分かるでしょうし、優秀な学生が集まってくると分かれば、そうする価値があります。ただ、どうやってそれを発見するサーチコミュニタィーを作るのかという問題はありますが。

 ビジネスの世界では、スタートアップが非常に面白い企業を丸ごと一つ買収するということがあると思いますが、発想としてはそれに近いでしょう。世界中の研究者を見て、この分野でトップ50位ほどに入っている人を集めてきて、新しいチームをぱっと作ってしまうのです。アメリカの大学ではこうした採用が始まっています。

 ですから日本でも大学改革は、少しずつ動き始めているとは思いますが、今までのように現有勢力の研究者の目の前に競争的資金をぶら下げるようなやり方ではなく、もっと先を考えなければ、アメリカの大学との距離は開く一方でしょう。


●日本の大学改革は、白地で戦略を考えていない


質問 例えば大学の予算が数百億円だとすると、それほどのお金を使ってもブランドバリューは出ていません。先生のおっしゃる人事採用が可能であれば、それも変わってくるでしょうか。

白石 そうですね。確かにすでに現在、たくさんの人を雇っていますから、その人たちの首を切るわけにはいかないでしょう。しかし、例えば予算のうち5パーセントの余裕があって、それをクラスターハイヤリングのような改革に費やせれば、10年後には全然違う大学になると思います。

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