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日本こそ人材育成に投資が必要だ

GRIPSの課題と人材育成(3)技術革新と行政改革

白石隆
立命館大学 特別招聘教授/ジェトロ・アジア経済研究所長
情報・テキスト
GRIPSでは、目的意識を持った学生が学んでいるため、学習効果は高い。日本はもっと高等教育に投資すべきだが、依然として低いままだ。立命館大学特別招聘教授でジェトロ・アジア経済研究所長の白石隆氏は、政策運営に最先端のイノベーションを用い、そこで得られた節減部分を回せばよいと主張する。そのためにも、技術に通じた政策担当者が必要だ。(全3話中第3話)
時間:07:28
収録日:2017/02/16
追加日:2017/04/29
≪全文≫

●目的意識を持った学生は強い


 GRIPSの学生が、他の多くの大学生と一番違うのは、皆、目的意識を持っていることです。自分が何を知りたいか、を知っています。5年や10年ほどミドルキャリアになるまで役所で働いていますから、それは当然です。

 例えば、私が担当している学生は、ずっとテロ対策を研究していますが、彼女が一番関心を持っているのは、イスラムのテロ分析などではありません。そんなアカデミックなことをやってもしょうがない。そうではなく、テロリストとして逮捕された人間をいかにして教育し、「まっとうな人間」として社会に戻すかが、彼女の関心事なのです。

 そのときには、手に職を付けさせることから始めて、いろいろなことをやらせなければいけません。それを学びたいという、非常にはっきりした問題意識があるのです。

 そうすると、もうこちらが何も言わなくても、自分でどんどん勉強します。これはこういう風に考えて、こういうタイプの本を読めばいいということが分かっています。「読む本のリストを持ってこい」と言うと、数日後にはリストを持ってきます。私もそのリストにあるものはほとんど読んでいませんが、出版社を見れば何となく「この出版社は良い(本を出している)出版社だ」ということは知っていますから、これとこれを読めと言うくらいのアドバイスをするだけです。そうやって、自分でどんどん伸びていくのです。

 要するに、何について学びたいかを知っている学生は、そうではない学生よりもはるかに学ぶ速度が速いのです。実際その方が、読んだものは染み込みます。

 そのためには、1年か2年ほど一種の遊びの期間が必要です。といっても、ただ遊ばせるのではなく、何かやりたいことを実際にやらせてみるということです。そういう仕組みをつくれないのかなと思います。


●日本こそ人材育成に投資が必要だ


 だけど、それでもやはり、例えば100人採用して、1人300万円ほど補助するとなると、それだけで(単純に)3億円かかりますから、それなりのお金が必要だということです。しかし、そこはもう少し考えるべきところではないかという気がします。特に日本の場合、その最大の財産は人間ですから。

 財務省の人たちと話していると、彼らの言うことも非常によく分かりますが、それにしても、医療費のところやそれに関連する費用は、もう少し工夫できるのではないのかという気もします。


●最新のイノベーションを理解した政策担当者の必要性


 私は読売新聞の「地球を読む」という企画の中で、年2~3回ないし4回、コラムを書いています。また、月末ぐらいまでに書いてくれと頼まれているものがあるので、それに関して考えていることですが、例えば、研究開発のところで、CTO(Chief technology Officer)という役職があります。企業だと、CTOは単なる研究開発担当ではなく、むしろそういう研究開発を全社的にいかにうまく生かすことができるかという組織マネジメントまで担うポストです。

 例えば日本の場合、私もかつて在籍していた総合科学技術会議(現在は総合科学技術・イノベーション会議〔CSTI〕に改組)は、科学技術イノベーション政策の司令塔だと今でもいわれていますが、実際にはまだ研究開発イノベーションの「振興」なのです。行政の組織イノベーションという領域は、CSTIの所掌ではありません。

 しかし、企業でCTOという役職が、企業組織全体のイノベーションまでを射程に収めたような仕事であるとすると、日本の科学技術・イノベーション会議のような組織で良いのか、それともそれぞれ省に、CTOのような役職を任命した方がいいのか。(そこを検討し)そろそろそうしたものを導入した方がいいのではないかという気がしています。

 例えばヘルスケアの領域で、現在の技術革新をもっとうまく使い、その水準を維持しながら、一方で経費を節減していく。そして節減した分を、今度は人的資本に投資していくといったことが考えられます。単なる絵に描いた餅になるか、そうでもないか。そこはいずれにしても、できそうな気はしています。



●オバマ政権の先見の明


 バラク・オバマ前大統領は、正直にいってリーダーシップのところで用心深すぎたところがあると思いますが、やはりオバマ氏自身はすごく頭の良い人でした。彼は、「National Technology Officer」を任命しているのです。「National Technology Officer」の仕事は、科学技術振興ではありません。科学技術を応用して、ヘルスケアや安全保障をより良いものにしていく。これが「National Technology Officer」の仕事です。

 まさに私が今、指摘したようなことを、オバマ氏はすでに2008年に始めています。それが、特に安全保障の分野では、非常に効いてきているのではないかと私は思っています。

 日本では...
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