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哲学とは「もどかしさからくる知への憧れ」

西洋哲学史の10人(1)ソクラテス 最初の哲学者

貫成人
専修大学文学部教授/文学博士
情報・テキスト
昔の人々によって書かれた難解な書物というイメージが先行する、哲学の本当の真髄とは何か。専修大学文学部教授の貫成人氏が西洋の代表的な哲学者10人を取り上げて哲学史について論じるシリーズレクチャー。第1話目は「最初の哲学者」ソクラテスで、「無知の知」をテーマに解説する。(全10話中第1話)
時間:09:28
収録日:2018/02/09
追加日:2018/04/27
ジャンル:
≪全文≫

●哲学とは、まだ手に入っていない知に憧れることである


 専修大学の貫成人です。これから「哲学史の10人」ということで、有名な哲学者についてお話しいたします。

 始めに、そもそも哲学とはどういうものなのかということをお話しします。そのためにはまず、日本語より英語で考えた方が分かりやすいかもしれません。哲学は英語で「フィロソフィー」です。もとのギリシャ語は「フィロソフィア」という言葉でした。「フィロ」という言葉と「ソフィア」という言葉からなっていて、それぞれ「フィロ」は何かを愛するということを、「ソフィア」は知や賢さを意味します。したがって、「フィロソフィア」は「知を愛する」を意味します。哲学というのは、その知がまだ手に入っていない状態である、ということをこれから説明していきます。この場合、「まだ持っていない知を愛する」、つまりこの知に憧れる、といったようなニュアンスが重要です。



 哲学史は古代から現代にかけて、ヨーロッパ・アメリカだけに限ってもこの表にとどまらないほどさまざまな哲学者がいますが、このシリーズの中では表の赤字で示した10名の人々について話をします。


●ソクラテスは「フィロソフィア=哲学」という言葉を最初に用いた


 第一回はまずソクラテスです。



 ソクラテスは最初の哲学者といわれています。もともとソクラテスは、今のギリシャの首都であるアテナイの職人でした。いろんなことを行い、そのうち市民からクレームがついて裁判になってしまいます。ソクラテスはその裁判で死刑になるという、悲劇的な生涯を送りました。

 彼は「フィロソフィア」という、日本語では哲学を意味する言葉を最初に用いたといわれています。ソクラテスに関わる言葉としては、「汝自身を知れ」「無知の知」などが有名ですが、ここでは特に「無知の知」についてお話しします。


●さまざまな問答をふっかけるが、人々はうまく答えられない


 ソクラテスがなぜ人々から嫌われていたかというと、彼がアテナイの街で歩いている人々に問答を通して喧嘩をふっかけていたからです。例えば、「勇気とは何か」「何かを知っているというのは一体どういうことか」ということをその辺で歩いている人に聞いて回っていました。

 その相手は、勇気についてであれば「敵がたくさんいるところに一人で向かっていくのは勇気がある人である」、あるいは「暴れ馬を乗りこなすのは勇気がある」といった例をあげることはできました。

 しかし、そうしたことに共通している「勇気」とは何であるのか、と聞かれると答えられませんでした。つまり、具体例はたくさん出すものの、それを抽象的な形で定義することができなかったのです。

 勇気の例ではあまりピンとこないかも知れませんが、私たちの身近な言葉であれば、このことがより理解できるかもしれません。例えば「わびさび」という言葉があります。
 
 「わびさびとは何ですか」と聞かれたとき、日本で暮らしていた人であれば、龍安寺の石庭や、芭蕉の俳句など、具体例はたくさん思い浮かぶでしょう。しかし「では結局わびさびとは何なのですか」と聞かれると、この言葉を全く知らない外国の人や子どもなどに一体それをどう説明すればいいのか、分からなくなってしまいます。これはなかなか難しいことです。


●哲学とはもどかしさからくる知への憧れである


 そうした分かっているはずなのに分からない、分かっているはずなのにはっきりと説明できないのは非常にはもどかしく、隔靴掻痒な状態です。これを解消するためには、「わびさび」や「勇気」が何なのかをはっきり定義し、明確にすることが必要です。

 このもどかしさは、定義を手に入れ、知ることへの憧れという気持ちをかき立てます。これが「知への愛」、つまり哲学なのです。ここで知というのは、「勇気」や「わびさび」の定義のことであり、まだ分からないものです。つまりまだ分からないが、どうしても知りたい、そうした憧れの気持ちが哲学の始まりなのです。


●哲学は何をしているのか分かりづらい


 こうしたソクラテスの活動から、私たちは何を学ぶことができるのでしょうか。上で哲学という言葉について説明しましたが、あまりすぐにはピンとくるものではありません。まして漢字で哲学というこの字だけでは、一体何をやっているのかがすぐには読み取れません。

 法学や経済学、あるいは物理学、天文学のような他の学問であれば、その学問の名称で何をやるのかがはっきり分かります。法学であれば法律のこと、経済学であれば経済のさまざまな現象、天文学であれば天体のことを学ぶということで、学問の名称として書き込まれているのです。ところが哲学はそうい...
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