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社会主義・共産主義の元祖マルクスの考えの中核

西洋哲学史の10人(9)マルクス 下部構造が上部構造を規定

貫成人
専修大学文学部教授/文学博士
情報・テキスト
マルクス
マルクスは「下部構造が上部構造を規定する」という表現により、これまでの西洋哲学を根本から転倒させた。全世界の社会主義や共産主義にも影響を与えた彼の考えの中核はどのようなものなのか。専修大学文学部の貫成人氏が論じる。(全10話中第9話)
時間:12:01
収録日:2018/02/09
追加日:2018/06/22
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≪全文≫

●マルクスは全世界の社会主義に影響を与えた


 第9回目はマルクスです。マルクスは、社会主義共産主義の元祖で、これらに影響力を持った哲学者です。ここでは、彼の考え方の中核にある、「下部構造が上部構造を規定する」という言い回しについて考えてみたいと思います。



 マルクスは19世紀の後半に活躍した人で、生まれはドイツ西部のフランスとの国境付近にあるトリーアというところです。ユダヤ人で、お父さんが弁護士をしていました。言うまでもなく、全世界の社会主義共産主義に影響を与えました。主著は『資本論』です。


●肉体や労働である下部構造が、精神や倫理である上部構造を規定する




 先ほど申しました、「下部構造が上部構造を規定する」という表現について考えます。ここで下部構造とは、人間の活動や出来上がった社会の前提となるさまざまな生産の様式、つまり産業の在り方のことです。例えば、人間は自分の体を動かしてさまざまな労働をします。そこでは畑を耕す、道路をつくる、工場で働くなど、いろんなものが考えられますが、そうしたフィジカルな働き方や、それを部分として持つ生産の様式のことを「下部構造」と呼んでいます。

 それに対して「上部構造」とは、肉体に対する精神や、その精神の在り方を決めていく社会における倫理、キリスト教仏教のような宗教、憲法や民法などの法、これらの背景にある哲学的な考え方、さらには芸術や絵画や音楽などのことを指します。簡単にいえば、上部構造とは人間にとっての精神や精神的な活動、その産物のことであり、下部構造とは身体やさまざまな製品を作る活動のことです。マルクスの考えは、この肉体や産業の在り方としての下部構造が精神である上部構造を規定するというものでした。

 このようにいうと、少し違和感があります。というのは、人間において、やはり肉体よりは精神、身体よりは知性が、人間を人間たらしめている部分であると考えることもできるからです。誰もが人間として頭で考え、知性や精神でいろんなことを考えて決め、それに従って体を動かしたりするので、むしろ上部構造がさまざまな肉体や産業の在り方を決めていくというのが当然なのではないか、という考えです。むしろ逆ではないか、つまり上部構造が下部構造を規定するというのが当然の在り方なのではないかと考えることもできます。

 しかしマルクスは、それは逆なのだと言うわけです。


●マルクスが「唯物史観」と呼んだこと


 どういうことかというと、例えば次のような場面を考えていただければいいかと思います。

 人間の社会は、大雑把に言って古代から近世ぐらいまでが農業中心であり、近世の終わりぐらいから近代になると工業化が進み、さらに現代になると、デザインや新しい製品開発のための知識や情報の流通する社会になっていきます。社会はそのように進化していったと考えることができます。そのときに、農業社会や工業化、知識社会は、下部構造に当たります。産業の在り方です。

 農業中心の社会において、人々はどのように振る舞うのでしょうか。例えば、日本の中世など、荒野や全く人の手が入っていない草地などに人々が入っていって、その土地を開拓・開墾し、畑をつくるといった場面を想像していただければと思います。今まで野原だった所に田んぼをつくると、田んぼは当然、水が必要なので、その水を川から引いてこなければなりません。川から水を引く水路は1人ではつくれないので、その村の人々が共同作業でつくります。ある人は穴を掘り、ある人は出てきた土を運び、そしてある人はそれで堤防をつくるなど、分担作業で水路をつくっていき、そのようにして引いてきた水を平等に分け合い、田畑を開墾していきます。

 そうしたときには当然、行動の単位は共同体になるため、その共同体の和を乱すようなことは嫌われ、共同体を維持するために行動をともにしたり、さまざまな行事を一緒にやったりして心を一つにしていくことが大事にされ、求められていきます。

 ところが、それに対して、工業化が始まります。そうすると、それまで農村に住んでいた人々が大都市に移っていきます。大都市では、農家から都会に出てきた男子や女子が、工場や事務所などで働きます。いわゆるサラリーマンになるわけですが、その人々はアパートなどを借りて1人で住み、やがて同じようにして出てきたパートナーを見つけて、夫婦をつくり、家族をつくっていきます。いずれにしてもここでは、出てきたばかりの男女の事務員のような、アパート住まいの個人や、核家族といったものが単位になります。そこでは、共同体や大家族が中心であった農村とは全く違う人々のつながりになり、個人のプライバシーを...
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