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ニーチェの「神は死んだ」という言葉は、400年間の総決算

脱人間論(4)人類は「戻る」ためのホックさえ失った

概要・テキスト
宇宙には神の摂理があるが、それを捨てた始まりがルネサンスの人間中心主義で、その行き着く先が20世紀の物質文明である。信仰心を失いながらも「信仰心は大事だ」と思い、葛藤(かっとう)していたのがヴィクトリア朝のイギリスで、その呻吟(しんぎん)と葛藤がヨーロッパ最大の文明を築いた。その後、人類は消費文明に向かい、もう戻ることはできないところに至っている。ドイツの哲学者、エルンスト・ブロッホは『希望の原理』という書物の最後で「希望はない」と述べ、「これから人類は、創世記をつくらなければならない」と喝破したのだった。(全11話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:10:35
収録日:2021/03/18
追加日:2021/05/14
カテゴリー:
≪全文≫

●ルネサンスから19世紀までの400年は「葛藤と苦しみ」の歴史


執行 今はきれいごとだと全部通ってしまいます。しかし、たとえば病人がいて、「これがなければ、この病気が治らない」というなら、それは仕方ないのです。

―― 「治らない」で仕方ないと。

執行 それをわからなくなったということです。これは病人を攻撃しているのではありません。私も病気で苦しんできた人間です。宇宙には、神の摂理があるということです。

―― 神の摂理があり、あらかたそれで動いている。そこが本質だということを、全部捨てたのですね。

執行 全部捨てました。その始まりが、ルネサンスです。人道主義。人間中心。ある程度はわかりますが、それが今は行き過ぎたということです。

―― ルネサンスの時代は、まだ神がいてくれた。だから葛藤もあった。

執行 みんなが葛藤し、みんなが苦しんでいた。ルネサンスから19世紀までの400年は、その苦しみの歴史です。

―― 葛藤の歴史ですね。

執行 文学などは、みんなそうです。そして19世紀の終わり頃、もうすっかり捨てたのです。そしてわれわれも知る、楽な20世紀の物質文明を、心おきなくやれたのです。

―― ニーチェが「神は死んだ」と言ったのは、鋭いのですね。

執行 あのころの時代精神であって、ニーチェが言ったのではありません。ニーチェは時代の精神を哲学的に述べただけです。

―― なるほど、述べただけ。ニーチェの時代に、すでにそうなっていたんですね。

執行 だから400年間の総決算です、ニーチェが言ったのは。そっちに向かっていた。もう今は完成期です。だから私たちのほうが逆に、「変なことをしゃべる」という部類にされています。

―― でも本当は、神とヒューマニズムという呻吟(しんぎん)と葛藤があって、この時代があるわけですね。先生がいつも教えてくれる、ヴィクトリア朝のイギリスですね。

執行 あれが呻吟の頂点です。だから道徳的にも人類的にも、最もすばらしいイギリスが誕生したのです。あの時代は、みんなが呻吟の中にいた。貴族も、民主主義が相当進んでいるから、「自分たちは生まれながらに、こんなに贅沢していいのだろうか」という悩みがある。貧乏人も、いい学校を出れば出世できたけれど、家柄のいい人がたくさんいるので、いつまでもコンプレックスを持っている。

 そしてヨーロッパ人は全員、信仰心を...
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