テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

自民党が「いま解散には一番いい時期」と判断する理由

「消費増税先送り」解散の意味を問う

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
ここに来て、安倍晋三首相が消費税率10パーセントへの再引き上げを先送りすると判断した場合、直ちに衆議院を解散し、年内の総選挙に踏み切るとの見方が広がっている。この解散を成り立たせているいつかの要素やそのロジック、日本の財政再建や経済政策に対する意味について、曽根泰教氏が緊急解説する。
時間:06:50
収録日:2014/11/12
追加日:2014/11/17
カテゴリー:
タグ:
≪全文≫

●消費増税先延ばしは、選挙時期の選択肢を増やすという意味で捉えれば理解できる


 解散についてお話いたします。この解散は、いくつかの要素から成り立っています。その一つは、消費税が非常に大きな決断のきっかけになっています。それを先に延ばすのか、あるいは、先に延ばさずに選挙をやるのかということです。

 この消費税と選挙時期というのは、内閣、あるいは、自民党から見ると非常に重要な要素で、タイミングとして、統一地方選までにはなかなか選挙はできません。その後、集団的自衛権問題の後に選挙できるのかというと、これも支持率は下がっているでしょう。それから、もし仮に来年の10月から消費税が上がることになれば、その前後での選挙も難しいのです。ですから、消費税を先に延ばすということは、実は選挙時期の判断の選択肢を増やすという意味であれば、よく分かります。


●「消費税を上げない」という選択と選挙を絡ませるロジックは分かりにくい


 しかし今、消費税を仮に1年半先延ばしをして、そして、そのことを国民に選挙で問うというのは、実に奇妙な問題設定です。

 その奇妙である理由の一つは、確かに安倍さんは、消費税を8パーセントに上げる時もそうでしたし、10パーセントに上げるのもそうですが、例えは悪いですが、「これは私の子ではない。谷垣と野田の子で、連れ子だ」と、連れ子をいじめたいわけで、今もいじめているのです。そして、最後は突き放すということでしょうか。

 それはそれでいいのですが、しかし、そのロジックが問題です。現在、アベノミクスは成功しているといっています。他の税金でもそうですが、消費税の増税は、経済が成功している時にしかできません。片方ではアベノミクスが成功し、金融緩和もできており、株も上がっている。しかし、「消費税を上げない」という選択と選挙を絡ませるというのは、非常に分かりにくいのです。

 そういう意味で言うと、自民党の自社都合で、解散するには今が一番いい時期だということです。支持率もそこそこあり、野党は分裂状態で、選挙やれば壊滅でしょう。そして、消費税は、国民から見れば評判が悪いので、消費税を先延ばしにすると言えば、おそらく支持は上がるのではないか。そして、同時に景気の方も、7―9月期のGDP(国内総生産)の速報値の数字は悪くなりそうで、消費が思ったほどではなかった。それから、アベノミクスそのもので言えば、円安という効果はあるのに、輸出は伸びずに、輸入インフレだけだという状況です。そういう点を考えると、まず時期の問題があります。


●消費増税先延ばしなら、日本の財政再建の道がほとんど閉ざされる


 もう一つは、消費税というものを争点化することの意味ですね。ここで先延ばしをしたら、将来にわたって多分消費税はもう上げることはできない可能性があります。そうすると、日本における財政再建の道がほとんど閉ざされるという、非常に重要な岐路に立っているのです。

 当面、自民党は「作戦はうまくいった」「野党は壊滅だ」と思うかもしれませんが。しかし、選挙戦に入ると、事の本質が論争されるようになるのではないでしょうか。それが論争されるようになれば、3党合意否定という話になります。いかに谷垣さんの子だ、連れ子だと言っても、虐待はないでしょう、という話です。


●アベノミクスの成果を問うのか、将来にわたる大義を国民にぶつけるのか


 つまり、日本の財政再建や経済システムを再興するための姿が見えない上に、それとアベノミクスとがどうつながるのですか? ということです。アベノミクスは、単に短期の景気をよくする景気刺激策にすぎませんが、うまくいっているのは金融で、これは短期には確かに株価は上がりますし、円は安くなります。しかし、その効果が現れるのは、実は2、3年経ってからで、デフレを脱却して回復軌道に乗るかどうかは、もう少し長期で見ないと分かりません。ましてや、第2、第3の矢は、評価があまり高くありません。そういう意味で言うと、この選挙は一体、アベノミクスの成果を問う選挙なのか、あるいは、これから何かをやりたいという、将来にわたっての大義を国民にぶつける選挙なのか、そこが見えないのです。

 安倍さん個人から言えば、選挙をやって勝ち、来年の総裁選挙に勝って、さらに3年総理をやれば2018年、そこまで長期の政権を築けば、2020年のオリンピックももうすぐ見えてくるということでしょう。それは個人的にはよく分かります。

 しかし、日本という国や日本の政策の姿を考えた場合はどうでしょうか。しかも日本は選挙をベースにした民主主義の国です。増税なり財政再建なりは非常に難しいし、どこの国でも難しいことを、少なくとも道筋をつけたのです。この道筋をつけた野田政権の時に、野党では...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。