●子どもの近視が急増している
近視の進行予防についてお話します。最近のトレンド(傾向)ですが、人種にかかわらず世界中で子どもの近視が増えています。中でもアジアに多く、特に中国・日本・台湾を含んだ東アジアでは、非常な勢いで近視の子どもが増えています。
もともと近視には、遺伝的な素因と環境的な要因の二つがあるといわれており、どちらの方が影響が大きいのかという議論があります。もちろん遺伝的な素因は大きく、そのため親が近視であれば、子どもも近視になりやすいということはありますが、最近の研究では、環境要因が非常に大きく作用していることが分かってきました。
最近よくいわれるのは、昔に比べて「近くの作業」が増えていることです。スマホやコンピュータ、携帯ゲーム機など、目の近くで、しかも長時間行う作業が増えていることが、近視増加の一つの要因だといわれています。ただ近視と近くの作業の関係についてはいろいろな研究があり、必ずしも相関関係があるわけではありません。中には、近くの作業と近視にはあまり関係がないという報告もあり、そのあたりを判断するのはなかなか難しいことです。
●屋外で太陽光を浴びるほど、近視は進行しにくい
そういったいろいろな研究の中で、最近エビデンスとして確立しつつあるのは、屋外の活動と近視は逆の相関があるということです。つまり、外で遊ぶ時間が多い、屋外活動が多い子どもほど、近視になりにくいということです。これがいろいろな研究で報告されています。
例えば、2015年の中国の研究ですが、一つのグループに1日40分、屋外で遊ぶ時間を追加すると、そのグループでは近視の進行が遅かったという研究結果が報告されました。また2016年のイギリスの研究(疫学研究)では、何十年かさかのぼって、太陽光(特に紫外線B波)に長い時間当たった人たちの群が、近視になりづらかったという報告も出ています。
従来、こうした研究報告では、屋外で遊ぶということは、それだけ本を読まない、勉強しないことになるため、そうしたことが視力に影響しているといわれていました。しかし、最近の研究では、この部分もきちんとコントロールしており、同じ程度の教育を受け、かつ屋外活動が多い場合と少ない場合に設定されています。その結果として、やはり屋外活動が多い方が近視の進行が遅い。これは、おそらく太陽光の影響で、太陽光をより浴びている人たちの群の方が、近視が進行しにくいということです。この説は、だいたい確立したと思います。
それ以外の要因はどうでしょうか。あまり強いエビデンスはありませんが、われわれは小さい頃から母親に「あまり近くで本を読まない」とか「姿勢を正しなさい」といわれます。これは案外と合っているのではないかということです。というのも、あまり近くで長い間作業すれば、それだけ目に負担がかかりますし、目の筋肉がずっと緊張した状態になるからです。その結果、近視になりやすいということはあると思います。
また姿勢についても、やはり寝転がってみると、見る物は近くになりがちです。きちんと椅子に座って、正しい姿勢で読む方がいいのではないかと思います。もう一つ、「暗いところで読むな」ともいわれます。理論的には、暗さと近視の進行は関係ないと思いますが、暗いと見づらいので、物を近くに寄せがちです。結果的にそれは良くないことになるので、母親に言われたことはやはり間違ってはいないでしょう。
●目薬やコンタクトレンズを使った近視の予防策
最近は、お子さまの近視を予防したいということで、予防や治療を考えている親御さんも多いと思います。これについても、東アジアではいろいろな研究がされています。
「アトロピン」という目薬があります。これはもともと、目の筋肉を休ませたり瞳孔を広げたりする、比較的効果の強い薬です。それをさすと、瞳孔が開いてまぶしくなり、日常生活では困ってしまいますが、濃度を非常に薄くして一日一回点眼すると、近視予防になるという研究があります。この研究によれば、なかなか有効な方法とのことですが、何年か続けなくてはなりません。しかしこの目薬を使い続けることで、近視を予防できる可能性はあります。近視は、(構造的に)目が長くなるなどしてピントが合わせづらくなることで起こります。アトロピンの点眼も何年か続けることによって、目が伸びるのを抑えることができるという報告がいくつかあるのです。
また最近では日本でも、オルソケラトロジーというコンタクトレンズの一種が使われています。夜寝る間だけコンタクトレンズをつけるというものです。もともとは角膜のカーブを変えて近視を緩和するというものですが、その角膜のカーブを変えること自体は一過性でも、それを続けることで、網膜に当たる光の当たり方...