編集長が語る!講義の見どころ
犬と人の物語で号泣してしまうのはなぜか-ハチ公を哲学する【テンミニッツTV】
2021/06/08
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
皆さまのなかで、ペットを飼っていらっしゃる方も多いことでしょう。まさにペットは家族の一員。その存在が心の支えにもなってくれるものです。また、映画やテレビでも、「動物もの」は人気コンテンツです。犬にまつわるものだけでも、名犬ラッシー、フランダースの犬、南極物語、ハチ公物語など、すぐにいくつも名作が挙がります。
ペットと心の交流は、なぜ人間にとってかけがえのないものなのでしょうか。また、人間はなぜ、犬と人との物語に無条件で感動してしまうのでしょうか。
本日は、一ノ瀬正樹先生(東京大学名誉教授/武蔵野大学グローバル学部教授)がお話しくださった、「東大ハチ公物語-人と犬の関係」という講義をご紹介いたしましょう。一ノ瀬先生は、「人と犬」の関係について、倫理哲学的に語ってくださいます。「ここまで深い話になるのか!」と感銘することうけあいの、とても興味深い講義です。
◆一ノ瀬正樹:東大ハチ公物語―人と犬の関係(全5話)
(1)上野英三郎博士とハチ
東京大学とハチ公の意外に知られていない関係とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1758&referer=push_mm_rcm1
渋谷のハチ公像をご存じない方はいらっしゃらないことでしょう。日本でも『ハチ公物語』という映画になっていますし、リチャード・ギア主演のハリウッド映画『HACHI』にもなっています。一ノ瀬先生はこの映画をご覧になり、あまりの感動に胸が詰まって、非常に苦しみを感じたほどだったといいます。なぜ、犬と人の話に、これほどまでに感動するのか? それが一ノ瀬先生の大きな問題意識となりました。
この感動を後世に伝えるために、ハチの没後80年にあたる2015年に、東京大学の農学部キャンパスに、ハチの銅像がつくられました。ハチ公といえば「渋谷」ですが、なぜ東大に銅像ができたのでしょうか? それはもちろん、ハチの飼い主である上野英三郎博士が、東大農学部の教授だったからです。上野博士は農業土木専攻でしたが、当時、東大農学部は今の駒場キャンパスにあり、上野博士は渋谷の松濤に自宅を構えていました。
普段は歩きで駒場キャンパスまで通っていましたが、政府の用事などで出張したりしたときは、必ず電車で渋谷で降りて帰ってきます。上野博士はとてもハチをかわいがりましたので、ハチは心から上野博士を慕っていました。それで、いつしか「上野博士の姿が数日見えないときは、渋谷駅にいれば主人が帰ってくる」ということを学びます。
ところがある日、上野博士は大学で悲劇的な急死をしてしまいます。数日、博士が帰ってこないので、ハチは「渋谷駅にいけば、いつものように主人が帰ってくるんじゃないか」と思って渋谷駅に通うようになる……。それがハチの物語のあらましです。
驚くべきことに、上野博士が亡くなったのは、ハチが1歳数カ月のときの話だといいます。その後、ハチは10年ほども渋谷に通い続けたのでした。
人は、なぜこの話に、深く心を動かされるのでしょうか。一ノ瀬先生は、次の3つのモデルで議論を進めてくださいます。
●頽廃モデル
●補償モデル
●返礼モデル
頽廃モデルは、ディープ・エコロジストとして著名なポール・シェパードに代表される見方で、「愛玩動物として犬などのペットと暮らすことは、道徳には推奨されない、マイナスの価値しかないものだ」という考え方です。ペットの存在は、巡り巡って「人間とは、自分たちは何であるか」という理解を妨げてしまうことになるのではないか、というのがシェパードらの言い分だそうですが、それはどういうことでしょうか?
補償モデルは、ペットを飼い慣らすことに「頽廃モデル」が示すような倫理的問題性が潜在していることを考慮しつつも、その条件の中で最善を目指す考え方です。つまり、人間が都合の良いように改造し、人間が閉じ込めて飼っている以上、その補償・代償、償いをして、彼らの福祉を十分に考慮してあげることが求められるという物語り方になります。
これらに対して、返礼モデルは、「犬は私たちよりはるかに強靱な生き物(存在者)であり、私たちに恵みや思いがけぬ幸運を与えてくれるのだから、私たちは当然のマナーとして返礼をしなければならない」とする考え方です。一ノ瀬先生は、「犬は環境破壊も戦争もせず、過去に固執せず、人間よりもはるかに道徳的に高潔ではないか」とおっしゃいます。その高潔な犬の恩恵を、われわれは受けているのではないか、と。
このように書いて説明すると、小難しく思えてしまいますが、一ノ瀬先生は、ペットの殺処分、動物虐待、動物実験、アニマルセラピー、宮澤賢治の「注文の多い料理店」などといった話も織り交ぜつつ、とても面白く議論を運んでくださいます。
身近なテーマからはじまって、考える力を大いに刺激し、感受性も高めてくれる講義です。ぜひご受講ください。
(※アドレス再掲)
◆一ノ瀬正樹:東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1758&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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「子どものときから青年期、そして大人として成長するに至るまで、実行機能の発達を一貫して考えていかなければならない」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3910&referer=push_mm_hitokoto
青年期の暴走には脳の変化と感情面の実行機能に関係がある
森口佑介(京都大学大学院文学研究科准教授)
青年期は誰でも不安定な時期です。しかし、子どものときに実行機能をちゃんと育くんでおけば、青年期に少し悪くなったとしても、度を越してしまう確率を少し減らすことができると考えられています。つまり、子どものときにきちんと実行機能が発達していれば、青年期に多少は道を踏み外しそうになっても、基本的には大丈夫だろう、つまりその可能性が高いことが示されているのです。
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今週の人気講義
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三国志の舞台、三国時代はどんな時代だったのか?
渡邉義浩(早稲田大学文学学術院 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1999&referer=push_mm_rank
上質なスローメディアを教材に経営のセンスを磨く
楠木建(一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3932&referer=push_mm_rank
欧米の世論調査で急増した「好ましくない国」中国の孤立化
中西輝政(京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4035&referer=push_mm_rank
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治(慶應義塾大学理工学部物理学科教授)
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腸内細菌が生成する若返り物質「ポリアミン」がスゴイ!
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1400&referer=push_mm_rank
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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて今回は、今月のプレゼント本を紹介いたします。
小和田哲男先生(静岡大学名誉教授/文学博士)の著書
『戦国武将の叡智-人事・教養・リーダーシップ』 (中公新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4121025938/
現在、小和田先生の最新シリーズ講義<豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係> (全5話)が好評配信中ですが、そのリーダーである豊臣秀吉をはじめ、徳川家康、武田信玄など、戦国時代の名将たちの“乱世を生き抜く叡智”が学べる貴重な本が今月のプレゼント本です。
しかも本の紹介文には、「現代にも生かせる教養、人材活用術、リーダーシップの本質を凝縮」とありますので、ここははぜひとも読んでおきたい一冊です。
ご応募がまだという方は以下よりぜひ。
https://10mtv.jp/
※「あなたにおすすめ」のところの「今月のプレゼント」でご確認ください。
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