編集長が語る!講義の見どころ
「当たり前」を疑って発想力を鍛える-不便益の魅力【テンミニッツTV】
2021/07/06
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
「~すべきだ」「~しなければならない」「~に決まっている」……。そんなふうに、知らず知らずのうちに「とらわれてしまっている」ことがあるのではないでしょうか。
「これが当たり前」という「通念」は、物事をスピーディーに判断し、なおかつ大きな間違いを減らすためには便利かもしれませんが、イノベーションを起こしたり、画期的な発想をしたり、物事を根本から考え直してみたりするためには、かえって邪魔になることが多いものです。
本日は、そのようなことを大いに考えさせてくれる川上浩司先生(京都先端科学大学教授)の講義を紹介します。川上先生は、『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか?―不便益という発想』(インプレス)という、風変わりなタイトルの本をお書きになっています。このテンミニッツTVの講義も、まことに洒脱で、大いに色々なことを気づかせていただけるものです。
◆川上浩司:不便益システムデザインの魅力と可能性(全7話)
(1)「便利・不便」「益・害」の関係
「不便益」とは何か――便利の弊害、不便の安心
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3968&referer=push_mm_rcm1
では、川上先生にとっての「当たり前」はどういうことだったか。川上先生は工学部ご出身なので、「便利で豊かな社会を!」というのが工学の使命だと思っていたそうです。
そう聞くと、皆さん「それはそうだよなあ」と思われることでしょう。しかし、川上先生は、そこを疑いだしたのです。どういうことでしょうか?
たとえば、川上先生が「便利なものが売れて、社会を発展させる」1つの事例として紹介されるのが「甘栗むいちゃいました」(クラシエフーズ)です。たしかにこれは、「甘栗の硬い殻をむいておく」という発想で、消費者に「便利さ」を提供して大ヒットした商品です。
では、何でもかんでも「便利」にすればヒットするのか?
ここで川上先生が「たとえば」として空想するのが、「プラモデル組み立てときました」とか、「富士山の山頂に行けるエスカレーター」あるいは、必ずホームランが打てる「ゴールデンバット」ですが……。
川上先生は、このような商品があったとしたら、「便利だけど、なんだかな」というものになるだろうとおっしゃいます。確かに、そうでしょう。であるならば逆に、「不便だからこそ、良いことがある」という事例があるはずだ。その発想が「便利で豊かな社会を!」という工学的な常識から飛躍するヒントとなりました。
では、不便だからこそ良かったものには、どのようなものがあるのか。川上先生は、この講義で次々とご紹介くださいます。たとえば、1986年に発売されて、その当時は便利さからヒットした「写ルンです」(富士フイルム)。デジカメ&ケータイ・スマホの時代になって、市場で見る機会が減りましたが、これが2016年に30周年復刻版を発売したところ、一瞬で売り切れたそうです。買ったのは、デジタル世代の若者たちでした。撮れる枚数が限られているので、撮り方や被写体を「ちょっと考えて」から撮る。また、現像してみないと出来栄えがわからないのがいい。あるいは、フィルム式カメラの独特の風合いがインスタ映えする……。そんなニーズだったといいます。
さらに川上先生は、わざと「バリアアリー(バリアフリーの反対。あえてバリアを設けること)」にした山口市のデイケアセンター、足が不自由な人のための車椅子に足こぎ機能をつけた「Cogy」、行きづらい場所にある高級ホテル、書評合戦の「ビブリオバトル」、本店に行かなければ入手できない京都みやげ、などなど数多くの事例をご紹介くださいます。
ちなみに川上先生が勤務されていた京都大学では、大学生協で「素数ものさし」なるものを売り出して、4万本を超える大ヒット商品になったとのこと。定規の目盛りに「素数」しか書かれていないものですが、なぜ、これがヒットになったのでしょうか。
また川上先生は、「不便がもたらす4つの益」などについても、整理をして語ってくださいます。はたしてそれは、どのようなことなのでしょうか。
それらの興味深い「不便益の事例」の数々については、ぜひ講義をご覧ください。上記で紹介したもの以外にも、本当にさまざまなもののポイントを教えてくださいます。冒頭で紹介しましたとおり、「通念の罠」を軽やかに乗り越えさせてくれて、豊かな発想力へのヒントを与えてくれる講義です。
(※アドレス再掲)
◆川上浩司:不便益システムデザインの魅力と可能性(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3968&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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「シェアード・ディシジョン・メイキング」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1414&referer=push_mm_hitokoto
手術か、放射線治療か、抗がん剤か、後悔のない医療選択へ
堀江重郎(順天堂大学医学部大学院医学研究科 教授)
昨今、医療をめぐる問題として、ある国立大学病院で非常に多くの方が手術を受けて亡くなるという、非常に異常な事態がありました。医療者としては、情報を適切に伝えながらも、患者とご家族にとって一番最善の治療に向かってほしいのです。
ただ、最善の治療ですが、患者やそのご家族の「私はこれがいい」ということが必ずしも最善ではないかもしれません。あるいは医療者の考えるゴールと患者やそのご家族の考えるゴールは違うかもしれません。
(中略)
日本ではまだシェアード・ディシジョン・メイキングという土台は一般的ではありませんが、今後若い先生たちがいかにやっていくかについては、支援するツールが必要になります。
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今週の人気講義
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コロナだけでなく個別化医療の可能性を秘めたmRNAワクチン
内田智士(京都府立医科大学 大学院医学研究科 准教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4042&referer=push_mm_rank
なぜ人新世が提唱されたのか、地球と人類の歴史から考える
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4057&referer=push_mm_rank
宇宙、電磁波、サイバー攻撃…ハイブリッド戦争の恐怖とは
小野寺五典(衆議院議員)
神藏孝之(松下幸之助記念志財団専務理事/松下政経塾副塾長/テンミニッツTV論説主幹)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2979&referer=push_mm_rank
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明(日本生命保険相互会社特別顧問)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4052&referer=push_mm_rank
世界神話の中での日本神話の特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二(京都大学名誉教授/上智大学大学院実践宗教学研究科特任教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3943&referer=push_mm_rank
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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて今回は、今月のプレゼント本を紹介いたします。
田口佳史先生(東洋思想研究者)の著書
『渋沢栄一に学ぶ大転換期の乗り越え方』 (光文社新書)
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334045258
光文社の紹介にはこうあります。
“本書は「渋沢栄一の生涯」と「『論語と算盤』という名著」、そして「『論語』そのもの」という三つの題材を用いながら、現代の生き方やビジネスのあり方を考えていく本です。”
現在、NHK大河ドラマ「青天を衝け」では明治維新前の幕末期が描かれており、いわゆる『論語と算盤』の舞台となった明治期はまだもう少し先になりそうです。ということは、この後ますます目が離せません。本書を読みながら、それに備えるのもありではないでしょうか。
ご応募がまだという方は以下よりぜひ。
https://10mtv.jp/
※「あなたにおすすめ」のところの「今月のプレゼント」でご確認ください。
なお、今月18日(日)から、田口先生による<渋沢栄一と「論語」>についてのシリーズ講義が配信開始予定です。そちらもぜひご視聴ください。
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