編集長が語る!講義の見どころ
孫子と統帥綱領でウクライナ侵略を読む/田口佳史先生【テンミニッツTV】

2022/06/28

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

残念ながらウクライナ侵略は、なおも続いています。ニュースで報道されぬ日もありません。

このようななかで、ウクライナ侵略から、われわれは何を考えれば良いのか。表面的なことだけではなく、より核心の部分を掘り下げる必要があるはずです。

本日紹介するのは、その点でとても参考になる田口佳史先生(東洋思想研究家)の講座です。田口先生は、今般のウクライナ侵略を、『孫子』さらに「統帥綱領」から読み解いてくださいます。

現実の戦争局面にあるからこそ、『孫子』や「統帥綱領」が説いていることが、切々と胸に迫ります。加えて、この両者の解説ばかりではなく、田口先生がご自身の体験はじめ、さまざまな事例をご紹介くださるので、とても深い気づきを得ることができます。

◆田口佳史:孫子と統帥綱領でウクライナ侵略を読む(全4話)
(1)孫子の兵法と「info war」
ウクライナ侵攻からトップが学ぶべき『孫子』の教え
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4483&referer=push_mm_rcm1

最初に、田口先生は、今回のプーチンの動きが『孫子』からどのように読めるかをお話しくださいます。まず田口先生が挙げてくださるのが、『孫子』の次の言葉です。

「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり」

これは『孫子』冒頭の言葉です。文字どおり、《兵(戦争)は国の大事で、簡単にいえば人間は「死ぬか、生きるか」、国は「存続するか、滅亡するか」の分岐点になる》ということを意味します。

プーチンは、この注意項目を軽視してしまった。そう田口先生は喝破します。

次に田口先生は、『孫子』の計篇の「五常」の考え方や、「彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず」という言葉を引きつつ、「info war(情報戦)」の」重要性を説きます。

プーチンのロシアの場合、KGBの伝統もあって多くの要員がいるはずだが、まことに「間の抜けた」ありさまになっていたのではないか。一方、日本の体制は、あまりにもお寒いものではないか。そう田口先生は指摘されます。

日本には、対外諜報員が数多く入っているといわれる。だが、日本の情報要員は驚くほどに少ない人数しかいない。これでどのように情勢に対処しようというのか……。

まことに、言葉もありません。

さらに田口先生は第2話で、戦争の勝敗を決めるものとして『孫子』の計篇にある「七計」や、作戦篇の記述をご紹介くださいます。これらの言葉をふまえつつ、ウクライナのNATO加盟問題や、対露制裁について考えていくと、見方がすっきりとクリアになる感じがしてきますが、詳細はぜひ第2話をご参照ください。

続く第3話で、田口佳史先生は「統帥綱領」と『孫子』の「兵は拙速を聞く」という言葉を引きながら、長期戦を避けることの重要性をお話しくださいます。

この「統帥綱領」は、かつて日本陸軍が策定した作戦指導書であり、大正3年(1914)に作成され、昭和3年(1928)に第2次改訂が行われたものです。ここでは、総力戦の危険性が説かれ、「故に、我が国はその国情に鑑み、勉めて初動の威力を強大にし、速やかに戦争の目的を貫徹すること特に緊要なり。政戦両略の指導はことごとくこの趣旨に合致せざるべからず」と書かれていました。ある意味では、日中戦争も、その後の第2次世界大戦も、この方針に反してしまった帰結ともいえるでしょう。

一方、『孫子』の「兵は拙速を聞く」も有名な言葉です。一般には「兵は拙速を尊ぶ」ともいわれ、「拙速(=準備不足)でも始めるべきだ」と理解されることもありますが、田口先生は「そのようなバカなことを、孫子がいうはずがない」と言下に否定します。では、孫子が説いていることとは何なのか。

《「緒戦に全力投球しろ」という反対のことを指している。徹底的に全てをかけろと言っているのです》

そして、かつて田口先生がタイで出会った、華僑の大物(大姉御)の話をご紹介くださいます。その大姉御は、次のようなことを田口先生に語ったというのです。

《われわれ華僑は絶対勝たなければいけない、失敗は許されないというところから這い上がってきたから、絶対失敗しない方法を考える。例えば、バンコクで成功して、次にシンガポールに店を出すときには、ベテラン社員が全てシンガポールへ行って全力投球する。だから、必ず1週間か2週間で決着がついてうまくいく。ところが、日本の会社を見ていると、誰だかよく分からない人が3人ほど来て、「あれ、役員の人は来ないの?」と聞くと「来ません」と言う。社長などは一度も来ない。「これではうまくいかないのではないか?」と思っていたら、その通りで、全てうまくいかない》

この逸話は、まことに身につまされる話です。たしかに周りを見ると、このような失敗例が多いように思われてなりません。

そして最後の第4話で田口先生は、非常時における政治と軍隊の関係について、さらに一致団結の重要性について、「統帥綱領」と『孫子』を引きながらご解説くださいます。

とかく平時においては、『孫子』などの言葉も、「ただの教訓話」として右から左に抜けてしまいがちな人も多いかもしれません。しかし、厳しい局面においては、決断を左右する至言になるのです。だからこそ、古典や歴史的文書を学んでおくことが死活的に重要ということでしょう。

そのことが身に染みてよくわかる必見の講座です。


(※アドレス再掲)
◆田口佳史:孫子と統帥綱領でウクライナ侵略を読む(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4483&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《最善の道を取ったら最後までやり抜く》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2545&referer=push_mm_hitokoto

デカルトが説いた「当座の道徳」とは何か?
津崎良典(筑波大学人文社会系准教授)

与えられた状況の中で、例えば太陽がこちらのほうに出ているから東はこちらかななど、さまざまな状況判断の中で最善の方向をとりあえず探してみる、ということです。たとえそれが疑わしいものであったとしても、最善の道を取ったら最後までやり抜く。


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今週の人気講義
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、明日(6月29日)はいよいよ小宮山宏先生と長谷川眞理子先生による教養対談ウェビナーが開催されます。〈現代人に必要な「教養」とは?〉ということで、どんなお話が飛び出るのか、今から非常に楽しみですね。ご参加のお申込みをされた方、ぜひご期待ください。

本日は、6月10日配信の当メルマガでも取り上げましたが、以下の言葉を紹介して、終わりたいと思います。

《限界とは、「知識の限界」「経験の限界」「思考の限界」「視野の限界」である。これらを知るためには、まず自分に限界があること自体を知ること。そして、それを壊していける能力が、「今、ここ」からの飛躍になる》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4480&referer=push_mm_edt

これは、長谷川先生がシリーズ講義〈「今、ここ」からの飛躍のための教養〉で紹介されている言葉ですが、石井洋二郎先生(元東京大学教養学部学部長)の『大人になるためのリベラルアーツ』『リベラルアーツと外国語』という本で教養について定義している内容の一部です。

限界から飛躍へ――

教養って無限の可能性に富んでいるのですね。詳しくはぜひ講義をご視聴ください。