編集長が語る!講義の見どころ
編集部ラジオ&江戸とローマの読書文化の秘密/本村凌二先生【テンミニッツTV】
2022/08/16
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です
本日は、8月16日配信の編集部ラジオと、「江戸と古代ローマの識字率と庶民文化の実情」に迫った本村凌二先生(東京大学名誉教授)の講座を紹介いたします。
■(1)編集部ラジオ《2022年8月16日(火):こんなふうに学んでいます、テンミニッツTV Vol.2》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4599&referer=push_mm_rcm1
今回は、皆さまから「こんなふうに学んでいます」というご投稿をいただきましたもののなかから、4通を紹介させていただきます。
いろいろな方々のご活用法は、テンミニッツTVをより有意義に使うためのヒントに満ちています。いままで、気がつかなかった使い方を発見できるかもしれません。ぜひご参考にしていただければ幸いです。
■(2)江戸と古代ローマの識字率と庶民文化の実情は?(本村凌二先生)
「日本人は本を読まなくなってきている」「日本人の文化水準が落ちているのではないか」……。そのように指摘されて久しい状況がつづいています。
この問題は、日本の未来を考えるうえで、まことに重大な問題だといえるでしょう。では、どうするか?
なかなか「答え」がないのも実情です。
そのような時には、歴史を振り返ってみると、意外な発見ができるものです。本日は本村凌二先生(東京大学名誉教授)の人気講座シリーズ「江戸とローマ」から、「図書館と貸本屋」編を紹介しましょう。
皆さまご存じのとおり、江戸もローマも識字率も非常に高く、庶民の文化水準がとびきり高い都市でした。はたして、それはどのようにして実現したのでしょうか? そして、その実態とは?
◆本村凌二:江戸とローマ~図書館と貸本屋(全5話)
(1)リテラシーの重要性
識字率の高さを誇った古代ローマ、その独特な教育方法とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4518&referer=push_mm_rcm3
本村先生は最初に、「黙読」と「音読」の違いについて言及されます。読み書き能力というときに、かつては音読しないと読めなかった人が大勢いたのです。
《ヨーロッパの中世では、修道院をのぞいてみたお百姓が、何かを黙って見つめている学僧に出くわして、非常に不気味な思いをしています》
修道院の僧侶が本を「黙読」している光景は、当時の農民たちには気味悪いものだった……そのような基準に立てば、スマホで文字をひたすら黙読して、やりとりしている現代日本人も「気味悪い」ということになるのかもしれません。
このような「黙読」と「音読」の違いまで含めて考えると、識字率を割り出すのも、そうそう容易なことではないと本村先生はおっしゃいます。
その点でいえば、江戸と古代ローマで庶民文化が花開いたということは、庶民レベルで、読み書きができて、本を読み継ぎ、自分たちのつくった作品(詩=和歌、俳句から算術まで)を書いて残す力があったということです。
では、その力がどのように培われたのか。
古代ローマの場合、貴族階級や富裕層では、子供の教育は父親が当たるべきだと考える伝統があり、読み書きや水泳、武術などの基本は父親が教えていました。また家庭教師による教育も広く行なわれていました。
それができない庶民階層の場合、四つ角などに集まった人たちに読み書きを教えて、なにがしかの月謝を取るようなことも行なわれていたといいます。学校のような建物はなかったけれども、そのような形跡はいろいろな史料として、多数残っているのです。
そのため、古代ローマ人男性の場合、「簡単な読み書きができる」というレベルで考えれば、おそらく50パーセント以上は読み書きができただろうと考えられているそうです。
古代ローマ人にどのくらいのリテラシーがあったかは、遺跡に残された落書きを見るとよくわかると、本村先生はおっしゃいます。
やはり言葉は、「音」から入ってくるものなので、落書きで「LとR」を間違えているようなものもある。日本の「ローマ字」の世界のように、音をアルファベットで表記するからです。
一方で、アエネイスの詩などが意外と正確に書かれていたりする。また、選挙ポスターについていえば、職人が宣伝用に書いているので、かなり正確……。このような分析はとても興味深いものです。
古代ローマと比較すると、中世のヨーロッパはずいぶん劣っていて、王侯貴族でさえ、あまり読み書きができませんでした。教会のステンドグラスや壁画を、誰かが読み解いて話して聞かせて、それをありがたがるような文化でした。
古代ローマの場合は、朗読会が盛んでした。また、庶民の娯楽の殿堂である「大衆浴場」には図書館が付属していたといいます。
一方、江戸では図書館ではなく、「貸本屋」があちこちにありました。貸本屋では、新しい本は現在の価値に換算して480円くらい、古い本であれば320円くらいで借りることができたといいます。
では、江戸で本を買う場合はいくらくらいだったか。
たとえば井原西鶴の『好色一代男』は5万円くらいでした。この新刊書籍の購入価格と、貸本屋の料金を比べれば、いかに多くの人たちが「本を借りて読んでいたか」が自ずとわかります。
本村先生は、こんな数字を紹介くださいます。
《実際、寺子屋の数は江戸だけで1500軒ほどあり、一つの教室に10人から100人ぐらいいたといいます。全国にすると、大雑把な数字ですが1万5000軒ほどあったといいます。
また、貸本屋の数は6550軒ほど。これは日本全体の数だったと思いますが、江戸だけで1000店近くあったのではないかと思います。貸本屋の顧客が1軒あたりどのぐらいあったのかというと、だいたい170~180人いたといいます》
では、そのような江戸の「識字率」は実際にはどのようなものだったのか。また、古代ローマと江戸との大きな違いとは? それらについては、ぜひ講座本編をご覧ください。
本村先生が教えてくださる詳細な逸話を知れば知るほど、興味がわいてきます。人間と文化、人間とエンタテインメントについて、根源的な部分から考えることができる講座です。
(※アドレス再掲)
◆編集部ラジオ:2022年8月16日(火)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4599&referer=push_mm_rcm2
◆本村凌二:江戸とローマ~図書館と貸本屋(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4518&referer=push_mm_rcm4
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☆今週のひと言メッセージ
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《イノベーションとはそもそも進歩ではありません》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2410&referer=push_mm_hitokoto
イノベーションの定義はパフォーマンスの次元が変わること
楠木建(一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 教授)
イノベーション(innovation)という言葉は比較的新しく、200年前には言葉自体が存在しませんでした。100年ほど前に、進歩という言葉では理解できない現象をつかむため、新しい概念が必要となり、イノベーションという言葉がつくられたのです。そのため、イノベーションとはそもそも進歩ではありません。
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、今月(8月)5日に世界的デザイナーの三宅一生氏が亡くなられました。国際的に大変高く評価され、文化勲章を受章された方ですので、ご存じの方も非常に多いと思います。
実はテンミニッツTVでは、津崎良典先生が三宅氏に関する本を取り上げて、とても貴重なお話をされています。
学ぶということを学ぶためのヒントとしての三宅一生の仕事
津崎良典(筑波大学人文社会系准教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2563&referer=push_mm_edt
「デザイン」とはなにか。「デザイン」と「学び」がどうつながるのか。大変興味深い内容ですので、ぜひご視聴ください。
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