編集長が語る!講義の見どころ
AI時代に必要な「教養」とは何か?/特集の講義を一挙紹介【テンミニッツTV】

2023/06/23

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

ChatGPTが大いに話題となり、AIが社会にどんどんと実装されていく時代になりました。このような時代に、人間が教養を学ぶことは「意味がない」のでしょうか?

たしかに、ChatGPTに聞くと、いろいろなことを答えてくれます。しかし、そこに限界があるのは、いまテンミニッツTVで配信中の西垣通先生の講義でご指摘いただいているとおりです。

AIの答えをそのまま鵜呑みしていたら、とんでもない間違いも起こりかねません。むしろ、サッと読むかぎりでは、とてもそれらしい文章を書いてくるだけに、間違いを見つけるのも大変です。

実は先日、テンミニッツTVの講義をAIで自動テープ起こしして、その文章をChatGPTに清書させる実験をしてみました。

すると、《キケローの『義務論』》という発話部分を、AIの自動テープ起こしは《ピロロの『義務論』》と間違えて聞き取りました。

ここまでは想定の範囲内です。人間がやるテープ起こしでも、聞き間違いはあります。

しかし、それをChatGPTで文章化(清書)させたところ、なんと前後の文脈を読み取って、その部分を《ピケティの『資本論』》と直してきたのです。

前後の文脈をもとに変えているだけに、パッと読んだだけでは気づきません。しかし、もちろん本来の意味からは隔絶しています。

こういうレベルの間違いを、人間が見つけられるか……。これは、「総合的な教養力」がなければ無理な話です。

もちろん、これからAIの精度はどんどん上がるでしょう。しかし本質的な部分で、やはりAIを使う人間の側に「総合的な教養力」がなければ、とんでもない間違いをスルーしてしまいかねません。AIの指図で動くだけの人間になってしまう恐れもあります。

では、どのような教養が必要なのか。

本日は、AI時代に生きる人間に求められる「総合的な教養」のあり方の参考となる講義をピックアップしてみました。ぜひご覧ください。

■特集:AI時代に必要な「教養」

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=203&referer=push_mm_feat

・小宮山宏:「知識の爆発」の時代、不可欠なのは世界の全体像の把握

・中島隆博×納富信留:「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ

・島田晴雄:なぜ経済学で軽視されてきた「地域研究」が最高の学問なのか

・片山杜秀:現代の「担当大臣」の是非は戦前の「無任所大臣」でわかる


■講座のみどころ:総合的な教養で深掘りすると、こんなに面白い

本日も、今回の特集に掲げた講義のポイントを一挙に紹介いたします。

【知識の爆発の時代、専門家でも「前提」を間違える(小宮山宏先生)】

小宮山先生(東京大学第28代総長)は、「知識の爆発」ということを強調されます。ひと言でいえば、「知識量が膨大に増えていること」。小宮山先生は、「光合成に関する知識だけでも、この100年で1000倍~1万倍に増えている」という例を出します。

小宮山先生は、このような時代には、「ある程度、全体像をみんなが共有しないと前に進めない」とおっしゃいます。では、その膨大な全体像をいかに把握すればよいか。

ここで小宮山先生が強調されるのが、各分野について「この人は大丈夫」という「信頼できる専門家」に話を聞くのがいちばんだ、ということです。

各分野についてですから、100人~1000人の規模で、信頼できる専門家とのつながりがなくてはいけないでしょう。そのくらいの規模の、専門的な知的基盤があれば、多くの物事の全体像が見えやすくなるということです。

実は、それをデジタルで実現しようとしているのがテンミニッツTVなのです。このようなあり方を「知的耳学問のデジタル化」と、小宮山先生はおっしゃいます。

また、小宮山先生は、「前提を疑う」ことの必要性も指摘されます。

小宮山先生は、その事例として阪神淡路大震災や、原発事故を挙げておられます。専門家は問題の具体的な細部については間違えないことが多いが、そもそもの「議論の前提」で間違える危険性があるというのです。

だからこそ、「素人が専門家の領域を本気で議論する」ことが重要だというのですが、それはAIの時代には、さらに当てはまるのではないでしょうか。

これからの時代の教養のあり方について、多くの気づきを得られる講義です。

◆小宮山宏:知識の構造化のために(全5話)
(1)テンミニッツTVの問題意識
「知識の爆発」の時代、不可欠なのは世界の全体像の把握
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2885&referer=push_mm_rcm1


【東西の哲学から真の「正しさ」を考える(中島隆博先生×納富信留先生)】

「正しさ」とは何かについて、東洋哲学の中島隆博先生(東京大学東洋文化研究所教授)と西洋哲学の納富信留先生(東京大学大学院人文社会系研究科教授)に議論いただいた講義です。

たとえば「嘘」について、どう考えるべきか。

中島先生が、この講義の第6話で提示されるのは、父親がヒツジを盗んだことを密告して逮捕させた息子を「正直者」だといった人に対して、孔子が「それは逆で、子は父のために隠すべきだ」と語った話です。

この孔子の内容に言及したうえで中島先生がご紹介くださるのが、実は、イマニュエル・カントが、むしろ孔子とは逆の主張をしていたことです。カントは「誰かに追われている友人が逃れてきて、追っ手が『お前はあいつを匿っただろう』と問うてきた場合でも、嘘をついてはいけない」と指摘したのです。

果たして、どう考えればいいのでしょうか……。

一方、納富先生は、続く第7話で、このカントの話を別の角度から言及され、そして「嘘のパラドックス」についてご解説くださいます。

東西哲学を背景とした縦横無尽な対談で、「正しさ」の本当の姿について多くのことを考えさせてくれる講義です。

◆中島隆博×納富信留:哲学から考える日本の課題(全11話)
(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3199&referer=push_mm_rcm2


【地域研究は「総合理解の学問」。キー・クエスチョンを設定して考える(島田晴雄先生)】

島田晴雄先生(慶應義塾大学名誉教授)の講義の最大の特徴は、各々のテーマについて「全体観」をわかりやすく総覧してくださること。加えて、独自の視点で、「問題の本質」をズバリと解き明かしてくださることです。

では、島田先生は「どのような視点」で問題を深掘りしているのか。

島田先生がまず強調されるのは、元外交官で評論家としても活躍された岡崎久彦先生の「地域研究は最高の学問だ」という言葉です。岡崎先生は、「ある国、ある時代に着眼し、あるがままの姿を観察して、事実を丹念にさまざまな角度から研究する」のだと指摘しました。

ここから島田先生は、大きな気づきを得ます。それは、「地域研究では、非常に多様な要因を同時に考える必要がある」ということでした。

地形、社会構造、歴史的背景、地政学、国際関係、技術進歩、思想・宗教、関連人物、教育……それらをすべて踏まえなければいけない。まさに、地域研究は「総合理解の学問」なのです。

しかし、イデオロギーや理念型に引きずられないで、「あるがままの姿」を捉えるのは、実はそうとうに難しいことではないでしょうか?

島田先生は、国ごと、テーマごとに「なぜ、そうなのか」という「キー・クエスチョン」を設定して、迫っていくといいます。

たとえば、イスラエルを研究する場合であれば、「スタートアップ・ネーション」という言葉がカギになります。イスラエルは、「新しくベンチャー企業を起こし、イノベーションを進める」ことにかけては世界でも最も進んでいる国ですが、では、「なぜ、イスラエルはスタートアップ・ネーションになれたのか?」。それが、キー・クエスチョンになるのです。

本講義では、加えて「インドは、世界のリーダー国となるか」「なぜ、世界史の軌跡ともいうべき明治維新が成功したのか」という点についても島田先生がお話しくださいます。それぞれを島田先生がどのように分析されているかは、ぜひ講義をご覧ください。

◆島田晴雄:国際地域研究へのいざない(全8話)
(1)地域研究の意味とイスラエル研究
なぜ経済学で軽視されてきた「地域研究」が最高の学問なのか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3749&referer=push_mm_rcm3


【現代政治の問題点は「日本の近現代史」でわかる(片山杜秀先生)】

いま、コロナ担当大臣、ワクチン担当大臣、少子化対策担当大臣など、様々な担当大臣が立てられています。内閣閣僚名簿を見ると、「こんな担当大臣もあったんだ」と驚くほどです。しかし、本当に効果的に機能しているのでしょうか。

思えば、平成の省庁再編など、近年の日本はさまざまな「改革」を繰り返してきました。はたして、それらは成功だったのか。

片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授)がこの点について、日本の近現代史をひもときつつ深掘りして下さっています。

片山先生は、「私からすれば、伊藤博文と近衛文麿と東條英機の話をすれば、おそらく現在の政治をすべて語れてしまうと思う」とおっしゃいます(第9話)。

たとえば、現代の「担当大臣」の是非は、戦前の「無任所大臣」のあり方を学べばわかるとおっしゃいます。無任所大臣は、大日本帝国憲法体制の初期からあったものでしたが、これを強化したのが近衛文麿内閣でした。その動機は、「縦割りの打破」にありました。

また東條英機は、戦時下の東條内閣において「省庁再編」を進めました。しかし、それらは無残に失敗していきます。なぜ、どのように失敗したのか。その過程は、現代の政治改革にも通じていないか……。

より良いあり方とするために「改革」をしようとする。しかし結局のところ、それは過去の失敗の焼き直し、あるいは「茶番劇」にすぎないものになりかねない。この視点はとても大切だと痛感させられます。

◆片山杜秀:近現代史に学ぶ、日本の成功・失敗の本質(全9話)
(1)「無任所大臣」が生まれた経緯
現代の「担当大臣」の是非は戦前の「無任所大臣」でわかる
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4121&referer=push_mm_rcm4


いかがでしょうか? ぜひ気になった講義からご覧ください。また、テンミニッツTVには、これら以外にも、「総合的な教養」を教えてくれる講義が山ほどあります。ぜひ、お気に入りを見つけてみてください。


(※アドレス再掲)
◆特集:AI時代に必要な「教養」
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=203&referer=push_mm_feat


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編集部#tanka
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井上正也先生の福田赳夫論。1941年から30代で南京政府の財政顧問を務めていた福田赳夫。その経験が、いかに戦後に生きたか。硬直化、高齢化した今の日本と比べつつ、胸に思いが渦巻きます。(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4908&referer=push_mm_tanka