編集長が語る!講義の見どころ
日本人の「深層心理」の不思議~甘えの構造?/特集&與那覇潤先生【テンミニッツTV】
2023/08/18
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です
「日本人」とは、いかなるものか? いわゆる「日本人論」については、その是非を含め様々な指摘がありますが、しかし多くのことを考えさせてくれるものであることは間違いありません。
甘えは日本人だけの特徴? 日本の幸福度は先進国中、最下位? 同調圧力は日本社会の問題点?など、そう感じているわけではないのにそういわれる日本人の不思議。どういうことなのでしょうか。
今回の特集では、誰もが気になる日本人の「深層心理」の実態に迫ります。
■特集:日本人の「深層心理」の不思議
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=208&referer=push_mm_feat
・与那覇潤:甘えは日本人だけ?名著『「甘え」の構造』への2つの誤解
・前野隆司:実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
・青島未佳:なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る
・小宮山宏/長谷川眞理子:同調圧力で何も言わない若者、日本のタテ社会の問題点
■講座のみどころ:『「甘え」の構造』への誤解?~現代日本の課題とは(與那覇潤先生)
特集のなかから、與那覇潤先生(評論家)に、土居健郎さんの『「甘え」の構造』をテーマにお話しいただいた講義をピックアップします。
『「甘え」の構造』は、ご存じの方も多いことでしょう。1971年に発刊され、累計で150万部のロングセラーとなっています。
しかし、與那覇先生は、あまりにベストセラーになってしまったために、この本のメッセージに関して、2つの誤解が広まってしまっているとおっしゃいます。
1つは、「『甘え』は日本人だけの特徴だ」という誤解。
2つ目は、「『甘え』は駄目なものだ」という誤解です。
「これは土居さんの本の読み方としても、また日本社会の捉え方としても妥当ではないのではないか」と與那覇先生は指摘されます。そして、それを典型的に示したのが、新型コロナウイルス禍ではなかったかというのです。
はたして、現時点で考えるべき「甘え」論とは、いかなるものなのか。名著に光を当てつつ、新しい方向性を打ち出してくださる、絶品講義です。
◆與那覇潤:『「甘え」の構造』と現代日本(全8話)
(1)「甘え」のインパクト
甘えは日本人だけ?名著『「甘え」の構造』への2つの誤解
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4949&referer=push_mm_rcm1
與那覇先生は第1話で、精神科医である土居健郎さんが、ある患者のイギリス人母親との会話から、「『甘え』は日本人にしかない概念かもしれない」と考えることになる有名なエピソードをご紹介くださいます。
しかし、與那覇先生が続けて紹介されているように、土居さんは同時に、「本当に日本語にしかないのか、翻訳不可能なのかというと、そうでもない」ということも書いていました。
その専門的な分析もしっかりと書いてあるのに、書名のインパクトから「誤解」が広がっていった……。そう與那覇先生は分析されます。
そのうえで與那覇先生は、「甘えについての誤解」を示す一例として、コロナ禍の折に「感染してしまったのは自分が悪い」自分を責める人の割合が、世界の中で日本人が突出して高かったという統計分析を提示します。
日本人は、「しょうがないよね」とお互いに甘えあって許容しあうのではなくて、「自分が悪い」と自分を責めたり、「お前のせいだ、この危機の中で甘えは許さないぞ」という態度をとったりした。それは、なぜか。
これらのことを考えるときに、『「甘え」の構造』を先入観や誤解を排して読むと、さまざまなヒントが得られる。そう、與那覇先生はおっしゃるのです。
第2話から、與那覇先生の「深い読み」が次々に展開されます。
まず取り上げるのは、『「甘え」の構図』に書かれた土居さんのエピソード。海外留学していたときに、「Thank you」というべきときに、つい「I am sorry」といってしまった事例です。
日本人は、エレベーターなどでボタンを押して待ってくれた人にも、「スミマセン」といいます。それは「相手に迷惑をかけたのではないか」「本当は嫌がっているのではないか」と、ネガティブに相手のことを想像してしまうからではないか。
実は土居さんは『「甘え」の構造』で、かつて欧米人が「すまなさ」について次のような感覚を持っていたのだと論じています。
「すまなさを感じるなら『キリストに対して』であり、周囲の他人に感じる必要はない」
そして、そのような感覚が「変容」しつつある例としてマルクス、ニーチェ、フロイトを挙げて、「こういうキリスト教圏から始まり近代社会に受け継がれた思想は空虚なスローガンではなかったかと、やっとヨーロッパ人も気づき始めている」と喝破していたのです。
この部分の議論の詳細は、ぜひ第2話をご参照いただければと思いますが、このことをご紹介くださったうえで與那覇先生は、次のように指摘されます。
《つまり、欧米人と日本人は違いますよということが書いてある点よりも、むしろ欧米こそが特殊であって日本人の方が非常にナチュラルな人間のあり方を示していたかもしれないのです》
《各人が自由であることを前提に組み立てられた近代社会の仕組みが機能不全に陥っていくと、意外に日本人についての考察のほうが普遍的な人間についての考察に繋がるかもしれない。そういう視点で読み直したほうが、『「甘え」の構造』は有益な著作ではないか》
とても重要な意味を持つ観点といえましょう。
続いて、「信頼関係と自立」について議論がなされます。與那覇先生はこう指摘されます。
《とにかく自分と対立はしていない他人というものが周りにいるときに、初めて人間というのは自立することができる》
そして事例分析として、「ステイホーム」期間に起きたネットリンチブームについて言及されます。そのうえで、こうおっしゃるのです。
《つまり、相手もある程度自分と同じだろうという意味での信頼感というか、基本的な想定のようなものがないと、人は他の人とコミュニケーションできないし、したがって社会の中で生きていくことができなくなってしまうわけなのです》
これも、まことに興味深いご指摘です。
さらに第4話では、山本七平が『日本教徒』(1976年)で展開した議論を引用します。日本人は、恩を返さない人はよくないと考える。その一方で、「恩を返せ」と恩を取り立てるのは、それ以上に悪いとされる……。
ここで與那覇先生が紹介するのが、土居さんが「遠慮」という概念で展開した「三重構造」の議論です。自分に一番近い同心円は「身内」。ここは、甘えてOKなので遠慮しなくていい人たちです。一番外側が、まったくの他人同士。だからここも遠慮をしなくていい。その中間が「お互いに、遠慮をしながら付き合う世界」です。
この議論を振り返りつつ、與那覇先生は「現代のSNS社会では、この中間の『お互いに遠慮しながら付き合う』領域が、急速にやせ細ってしまっているのではないか」と指摘します。
そして人間関係の「遠近法」がなくなってしまった世界の悲劇を、カミュの『異邦人』を事例に論じていきます。
第6話と第7話で議論されるのは、1971年当時盛んだった学生運動を、土居さんが「桃太郎の鬼退治」を引き合いに出して論じている箇所です。これは、近年の日本で盛んにいわれている「親ガチャ」(親による「当たり」「外れ」)にも通じるというのですが……。
そして最終話(第8話)では、小津安二郎の映画を例としながら、「『甘え』と『節度』」の両輪が必要ではないかと論じます。
《甘え自体はあっていいのだ、ただしそこに節度も必要なのだという見方というのは、今、より必要とされているのではないか》
そう述べたうえで、與那覇先生は「甘え」と「節度」によって成り立つ社会が日本人のベースではないかと説きます。そして、「これからの日本で求められていくのは、やはり健康的で持続可能な『甘え』というのは何なのかではないか」と問題提起されるのです。
まさに、ポストコロナの時代にこそ深く考えられるべきテーマです。『「甘え」の構造』を引きながら展開される議論は、まことに興味深いものばかり。
「甘え」も「節度」も失ってしまった日本人の虚しさが浮かび上がります。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆特集:日本人の「深層心理」の不思議
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=208&referer=push_mm_feat
◆與那覇潤:『「甘え」の構造』と現代日本(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4949&referer=push_mm_rcm2
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編集部#tanka
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5014&referer=push_mm_tanka
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