編集長が語る!講義の見どころ
令和の五公五民?~百姓からみた戦国大名/黒田基樹先生【テンミニッツTV】

2023/10/03

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

最近、「五公五民」などという言葉を、よく聞くようになりました。「国民負担率が30年前は36.3%だったが、直近では47.5%。いまや『五公五民』であり、まるで江戸時代に戻ったかのようだ」というのです。

江戸時代が本当に「五公五民」だったかは、大いに疑問が残るところですが(コメ以外の作物の副収入や農業技術の改善で、もっと民衆の負担率は低かったともいわれます)、そもそも、戦国から江戸時代にかけて、農民はどのような動機で年貢を納めていたのでしょうか。

そのことについて、戦国時代の状況、とりわけ関東一円を支配下に置いた大名・北条家の研究から読み解いてくださった黒田基樹先生(駿河台大学法学部教授/日本史学博士)の講義を紹介します。

政治はいかに民衆を守り、いかに国家意識が形成されていったのか。百姓から見た戦国大名の姿は、とても多くのことを教えてくれます。

◆黒田基樹:百姓からみた戦国大名(全8話)
(1)戦国時代の過酷な生存環境
戦国時代、民衆にとっての課題は生き延びること
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2919&referer=push_mm_rcm1

前提として、戦国時代は百姓にとって、どのような時代だったのか。

まず黒田先生は、実は戦国時代には、江戸時代の天保の大飢饉と同じくらいの飢饉状況が慢性的に続いていたことを紹介されます。有力な「家」も次々と断絶していくような状況でした。

そのため、民衆は「生命維持装置」として強力な「村」を形成していきます。当時の村は、徴税権、立法権、警察権、さらには対外的な戦争を行うための軍事力までを持った「国家的村落」でした。

実は、戦国時代の争いの原因として大きかったのが、このような村同士の権益(水資源や山林資源)をめぐる争いだったのです。

このような状況を克服していったのが「戦国大名」でした。戦国大名は、それまで日本列島に存在していた政治権力とは全く性格が異なる、新しい性格の権力でした。

戦国大名は、統治下にある村々から戦争費用を徴発することによって成り立っていました。租税としての年貢はもちろん、城郭などの修繕のための労役である「普請役」や、戦場への物資の輸送や補給などの「陣夫役」などを取り立てていたのです。

しかし、武力まで持った存在であった「村」がなぜ、そのような戦国大名の徴発に応じたのでしょうか。

戦国大名が形成される以前は、村々が争う場合には、それぞれの領主たちがそれに加勢して戦っていました。しかし、戦国大名は、領国内に存在する領主たちを家来として編成していきます。すると当然のことながら、領内の家来(領主)たちの争いは禁止されることになりました。

また、領主たちは自分たちの裁量で徴税をしており、なかには当然、不正を行う者もいました。しかし戦国大名としては領内の徴税を安定させなければいけませんし、一揆や逃散が起きたら、他国につけこまれてしまいます。

そこで、たとえば北条家では、大名が直接、村々に納税通知書を送り、納税額を通知すると共に、万一、それに反する不正があった場合には大名に直訴できるように「目安」の制度が設けられたのです。

さらに地震や大水などの天災が起きた場合には、大名が税金の減免措置をはじめとした復興策を行います。さらに、それまでは城郭補修などのために動員されていた普請役などを河川改修など公共工事のために活用するようになります。

つまり、百姓からすると、戦国大名は領内の平和と安定を守ってくれる存在であると共に、生活の安定を保障し、繁栄の基を築いてくれる存在となったのです。徴税権から軍事力までを持っていた村々は、かくして大名に従うことになるのです。

もちろん戦国大名からすれば、他国との戦争に勝つためという要素はあったわけですが、やがて豊臣政権、徳川政権が確立し、大名同士の戦争も禁止されます。

また徳川幕府は、一揆を頻発させるような大名は失格と見なして、所領の没収や改易を行いましたので、ますます平和と繁栄のための領民政策が行われるようになり、百姓たちは飢饉の連続だった状況から脱していくことになるのです。

黒田先生は、「先に領民への保護があって、それが国家と領民との政治的な一体性をつくり出していった」ことを強調されます。

まず、構成員の平和と安定を高めることで、はじめて組織への忠誠や献身が発揮されるようになる。まさに、この姿こそがあらゆる組織の基本であることを、歴史の経緯が教えてくれます。

ここには「義務と権利」などといった絵空事ではない、組織や政治の本質があるように思われます。

逆に考えれば、危機に臨んで、多くの人びとを失望させ、信頼を失うような手しか打ちえなかったとすれば、その組織や国家は、根底から覆ることになるでしょう。

本当に大切なことは何なのか。その根本原理を痛感させてくれる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆黒田基樹:百姓からみた戦国大名(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2919&referer=push_mm_rcm2


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編集部#tanka
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、先週水曜日にお送りした10月プログラムガイドのお知らせの際にもお伝えしましたが、改めまして以下、書籍プレゼントについてお伝えいたします。

『人生に奇跡を起こす営業のやり方』(田口佳史著・田村潤著、PHP新書)
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※応募方法は、トップページ内に表示されている「今月のプレゼント」からご確認ください(応募前の方のみ表示されます)。

ちなみに、10月プログラムガイドはこちらから確認できます。
https://10mtv.jp/program_guide/?referer=push_mm_new_function

10月も興味深い特集、講義が目白押しです。ご期待ください。