編集長が語る!講義の見どころ
インフレ社会への転換と日本経済の行方/伊藤元重先生【テンミニッツTV】

2023/12/19

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

いま経済に起きている大きな変化――。いうまでもなく「物価上昇」でしょう。日々、物価の上昇を意識せざるをえません。

データでいえば、2022年の後半から3%を超える物価上昇となっており、生鮮食品を除く食品は9%を超える上昇も続きました。

この局面において、いま起きつつあることは何か。そして大切なこととは何か。伊藤元重先生(東京大学名誉教授)にお話しいただいた講義を、本日は紹介いたします。

◆伊藤元重:インフレ社会への転換と日本経済の行方(全2話)
(1)値上げの問題と財政への影響
物価も賃金も2%上昇する社会へ…資産運用に敏感な動きが
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5185&referer=push_mm_rcm1

一般に、インフレには「コストプッシュ・インフレ」と「ディマンドプル・インフレが」あるといわれます。「コストプッシュ・インフレ」は、輸入物価の高騰などによるコストの上昇によって起こるもの。一方、「ディマンドプル・インフレ」は、需要の上昇によって価格が上がっていくものです。

「ディマンドプル・インフレ」が安定して続いた場合は、経済成長にも好ましいといわれますが、「コストプッシュ・インフレ」の場合は、企業の価格転嫁が追いつかなかったり、それによって給与の上昇が抑えられたりすれば、経済には非常にマイナスに働いてしまいます。

では、日本の現状はどうか。伊藤先生は、まず以下のように指摘されます。

《世界的なインフレを考えると、日本はアメリカやヨーロッパに比べてインフレになるスピードが非常に遅く、なかなかインフレにならなかったといっていいと思います》

その一方で、日本には次のような状況もありました。

《よくいわれるのは、原材料である石油や石炭のような燃料、あるいは食料などのコストが上がっても、なかなか価格に添加できないという日本の事情です。そこで自分のところだけが価格を上昇させると、ライバルに持っていかれてしまうのではないかという恐怖感もありました。また、メーカー側が小売業に「値段を上げたい」と提案しても、その場その場ではねつけられるような環境がありました》

このような状況が続けば、物価上昇は大きなダメージになりかねません。しかし、それが変わってきていると伊藤先生は強調されます。この20年~30年続いてきたデフレマインドに、ようやく変化が見えてきたというのです。

《(物価も賃金も上昇しないで安定する)0パーセント社会から、(物価も賃金も合わせて上がっていく)2パーセント社会に移行しようとしているのだろうと思います》

ここは、これまで染みついた「安定的で停滞的な」発想を、大きく変えなければならない局面です。ここで伊藤先生が注目されるのは、いま起きている興味深い動きです。

実は、いま資産運用において、金利や利回りに非常に敏感な動きが出てきているというのです。具体的には「仕組債」や「ドル建ての保険商品」などが、一般の国民にも広がりつつあるとのこと。伊藤先生は、このような動きは、0パーセント社会から2パーセント社会へのシフトの変化の兆しではないかとおっしゃるのです。

それぞれ、どのようなものかについては、講義本編で伊藤先生がとてもわかりやすくご解説くださっていますので、ご参照ください。

さらに伊藤先生は、2パーセント社会へ移行するなかで大きな流れになる財政の話にも言及されます。2022年は、2021年に比べて、税収が約6.2パーセント増えました。一般的に、物価が上昇していく社会では、物価上昇率を超えて税収が増えていく可能性が非常に高いのだといいます。

伊藤先生はこうおっしゃいます。

《そこであらためて思い出すのは、過去20~30年、特に過去20年、デフレの中で財政運営をしてきたことがいかに厳しいことであったのかということです》

《インフレ的な状況になって、財政の状況が少しやりやすい状態になると、それが財政の規律を少し緩める可能性もある。そういう中で、政府の中長期的な財政的な目標をどうしたらいいのかということを、きちんと議論する時期に来ているのだろうと思います》

財政についても、新たな発想が必要だということでしょう。

このようななか、伊藤先生が強調されるのが「賃金上昇」です。

伊藤先生は、アベノミクスが始まってから、経団連をはじめ多くの経営者が「賃上げしなければいけない」といっていたが、横から見ていて「いかにも他人事」だったと指摘されます。実際に、多くの企業では賃金はあまり上がらなかったと。

しかしここにきて、いよいよ「自分ごと」として賃上げを議論する経営者が増えているといいます。

なぜ、多くの企業が賃金上昇を「自分ごと」として考えるようになったのか。それについては、ぜひ第2話をご覧ください。

そうなってくると、賃金を上げられる会社と、そうではない会社とで、「賃金上昇の格差」が生まれます。これは経済の新陳代謝と活性化のためには好ましいといいます。

しかも、いま外国と比べた場合、日本企業の賃金は、あまりに低い状況です。この20年間、賃金がほぼ上がらなかった日本に対し、アメリカでは2パーセント程度上がってきているので、約50パーセントの格差が開いてしまった。そのなかで、「絶対的な水準の中で日本の賃金がこれほど低いと、日本の企業が今後も国際競争力を維持することは非常に厳しいのではないか」という危機感を持っている会社も多くなっているといいます。

伊藤先生は比較として、ニューヨーク市の「最低賃金」の動きを具体的にご教示くださいますが、最低賃金でここまで差がついていたら、それは厳しいに違いないと、しみじみ痛感します。

流れが大きく変わるなか、本当に大切なことをしっかりと把握できる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆伊藤元重:インフレ社会への転換と日本経済の行方(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5185&referer=push_mm_rcm2


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編集部#tanka
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※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体です


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて先週金曜日に発表された以下、「令和5年下半期人気ランキングBest10」。

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=219&referer=push_mm_edt

ご覧になられたでしょうか。
ChatGPT、イスラエルとハマスの対立、急性インフレなど今年の世相を反映した講義がランキング上位となっている一方、心理的安全性、半導体不足など、近年注目のキーワードに関する講義も入っており、いずれも見逃せない講義ばかりです。この機会にぜひご視聴ください。