編集長が語る!講義の見どころ
デジタル化に、なぜ対応できないのか?/西山圭太先生【テンミニッツTV】
2024/05/28
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
いうまでもなく、いまデジタル社会です。しかし一方で、日本はデジタル化への対応が「後手に回っている」とか「苦手だ」などといわれることもあります。
デジタル化が進む社会に対応しきれず劣後してしまっている日本型の組織や企業の問題点はどこにあるのでしょうか。さらに「デジタル人材の不足」などの問題にいかに対処すればいいのでしょうか。
本日は、そのような諸点について、西山圭太先生(東京大学未来ビジョン研究センター客員教授)にお話しいただいた講義をご紹介いたします。西山先生は、東大教授になられる前は経済産業省で商務情報政策局長をお務めであり、「アーキテクチャ論」を軸に据えてデジタル推進を展開しておられました。
テンミニッツTVの講義では、非常にわかりやすく「デジタル社会における組織やビジネスの見方・考え方」を教えてくださっています。
◆西山圭太:日本企業の弱点と人材不足の克服へ(全8話)
(1)膠着する日本経済の深層
日本経済の行き詰まりをもたらした2つの大きな理由とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3825&referer=push_mm_rcm1
まず西山先生は、日本経済の停滞の大きな理由について、「総合電機的な事業部制がグローバルビジネスの間尺に合わなくなったこと」、そして「技術重視でマーケティングを軽視するあり方」の2つを挙げられます。
前者は、グローバル規模の競争の場合はビジネスのスケールが問われるにもかかわらず、日本企業の各事業部の規模は、海外の同業他社と比べて中小で、スケールメリットにおいて負けてしまう。にもかかわらず、日本企業の役員会は各事業部の代表者が陣取っていて、自分たちの事業部のことだけを考えて議論をしているので、統廃合や事業の集中もできぬままに、海外企業に負けていく姿です。
一方、後者は、「技術があればいい」と考え、新商品開発についても「うちの技術を駆使したら、できちゃった」と答えるようなあり方です。
また、「お客さまの声に応える」場合の精神についての西山先生の比喩も秀逸です。「ドイツ企業の場合、仮に1000人のお客さんの意見を聞いた場合に1000種類の商品をつくることはない。お客さんの声をアウフヘーベン(止揚)して、10個とか50個の商品をつくる。しかし日本はお客さんの声に応えて1000個つくりたがる」。
日本企業の場合は、とかく個々を深掘りしたがる。しかしこれではデジタルの時代には対応できない。そう西山先生は指摘されます。必要になるのは「物事を抽象化、普遍化し、横展開していく力」です。
このことを西山先生は、世界で初めて卓上計算機をつくった日本企業と、インテルの違いの実例を挙げつつ教えてくださいます。
日本企業が考え出したものについて、インテルはアーキテクチャー(論理的構造)で考え、抽象化して、横展開するには何が最適化を考えた。縦に深く掘りたがる日本に対して、横展開をして儲けることを考える海外企業。この事例分析は、まさに必見です。
さらに西山先生は、「デジタルやソフトウェアの特徴は、難しいことや複雑なことを実現するだけでなく、それを楽に簡単に実装できること」と喝破されます。
日本のからくり人形も複雑で難しいことをやるけれども、これは「深く極めた技術」で楽に簡単にできるものではない。しかし、デジタルの発想では、横につなげて、よりシンプルな方法の組み合わせで実現することを考える……。この西山先生のお話もとてもわかりやすいものです。
このほかにも、西山先生は次のような話を次々と展開されます。
◆プログラム言語を覚えることと、デジタル化の構造や原理を理解するのは、まったく別の話。
◆前任者や対前年を、数量や複雑を極めることで超えていこうとしたがる日本的な発想の間違い。
◆良い政策をつくるスタートラインは、その部署で誰も口にしない、議論する必要がないぐらい常識になっていることを疑うこと。
◆抽象化するには、個々の細かいファクトを1万個積み上げても何の理解にもならない。3とか5のセンテンスで言えばどうなるのかを考える。
さらに、具体的な改革のあり方について、たとえば西山先生が東京電力ホールディングスの取締役を務めていた折につくった「変人の会」の話や、子どものころに、どうしてもできなかった鉄棒の逆上がりができるようになったきっかけなど、様々な興味深いエピソードとともに教えてくださいます。
まさに、物事の見方をガラリと変えてくれる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆西山圭太:日本企業の弱点と人材不足の克服へ(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3825&referer=push_mm_rcm2
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編集部#tanka
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天才と異能異才は紙一重変人たちが輝く国を
素晴らしい発明を生むのは、やはり異能異才の「少し変わった人」であることが多いもの。そのような人をいかに活かせるか。その点、昨今の日本は随分と器が小さくなっているようです。(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2453&referer=push_mm_tanka
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今週の人気講義
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原因と結果の迷宮―因果関係と哲学
一ノ瀬正樹(東京大学名誉教授)
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2125&referer=push_mm_rank
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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
本日は来月(6月)のおすすめプログラムを紹介いたします。
(プログラムガイド=講義ガイド)
https://10mtv.jp/program_guide/?referer=push_mm_new_function
<6月の特集ピックアップ>
【特集】「運」を強くする発想法
・歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える(山内昌之)
・成功者による「プランド・ハップンスタンス・セオリー」とは(津崎良典/五十嵐沙千子)
・天祐を受ける人」の秘訣とは何か?(田口佳史)
・おみくじは「吉凶」だけでなく「和歌や漢詩」を読むのが本当(平野多恵)
「運」が人生を左右する大きな要素となることを否定する人はいないでしょう。しかし、「幸運の女神には前髪しかない」という言葉もありますが、「運」はまことにつかみどころがないのものでもあります。「運」とはいかなるものなのでしょうか。「運」をよくする方法はあるのでしょうか? 真正面から考えてみましょう。
【特集】日本精神史の巨人たち
・町人の時代へ、石田梅岩に影響を与えた江戸経済の隆盛期(田口佳史)
・聖徳太子の「和」は議論の重視…中華帝国への独立の気概(頼住光子)※
・東大寺大仏建立の理由ー聖武天皇のいう「菩薩の精神」とは(北河原公敬)
・岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信(大久保喬樹)
日本人が長い歴史をかけて思索してきたもののなかには、「人間として大切なもの」な何かについてのヒントがふんだんに含まれています。どのように生きるべきか。いかなる価値観を大事にすべきか。そのようなことを的確に教えてくれる日本思想史の巨人たちを集めました。
この他にも注目の特集が続きます。ぜひご視聴ください。
<6月の講義ピックアップ>
◆6月1日(土)配信予定:
地熱、洋上、潮汐…地理的特性を生かした発電方法の可能性
岡本浩(東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者/スマートレジリエンスネットワーク代表幹事)
◆6月2日(日)配信予定:
なぜカレーにジャガイモ?日本の融通無碍さと得意・不得意
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授〈特別専任〉)
ほかにも学びの多い講義が続きます。ぜひお見逃しなく。
※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体
人気の講義ランキングTOP10
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部
「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道
藤田一照