編集長が語る!講義の見どころ
ベストセラー『タテ社会の人間関係』で日本社会の本質に迫る/與那覇潤先生×呉座勇一先生【テンミニッツTV】
2024/10/08
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
中根千枝さん(1926年~ 2021年/社会人類学者・東大名誉教授)の『タテ社会の人間関係』(講談社現代新書)をご存じの方も多いと思います。1967年に刊行されて以来、ベストセラー・ロングセラーとなり、累計100万部を突破しています。
本日は、この『タテ社会の人間関係』について、與那覇潤先生(評論家)と呉座勇一先生(国際日本文化研究センター助教)が縦横無尽にご対談くださった講義を紹介します。
『タテ社会の人間関係』は、日本社会と世界諸国の社会とを比較しつつ、日本社会の特徴を見事に描き出した書籍として知られ、「日本人論」の代表的著作の1冊として挙げられることも多い本です。しかし、與那覇先生は、この『タテ社会の人間関係』は、大いに誤解されているといいます。はたして、どのようなことなのでしょうか。
◆與那覇潤×呉座勇一:『タテ社会の人間関係』と文明論(全8話)
(1)誤解を招いた「タテ社会」の定義
誤解された『タテ社会の人間関係』…日本社会の本質に迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5452&referer=push_mm_rcm1
さて、『タテ社会の人間関係』が招いた誤解とはどのようなものなのでしょうか。
與那覇先生は、講義冒頭第1話で、次のように喝破します。
《どうしても「タテ社会」と言ってしまうと、ついつい上下関係に厳しい社会のような、目上の者には逆らってはいけない社会、不平等な社会というようなものを想像しがちなのですね。ところが、それは違って、おそらく、これは私の考え方では、「縦割り社会の人間関係」みたいに書いたら、おそらくより誤解が少なかったであろうと。つまり、縦割り行政的に人のアイデンティティが、あなたはここの場所にいる限り、こういう身分なんですとか、こういう仕事なんですというふうに、縦割りのように仕切られた1カ所にしか人が所属させてもらえない社会、それが日本だという意味を、中根さんはお書きになっているのです》
ただ、誤解を招いてしまっていることについて與那覇先生は、「そこは非常に難しくややこしいところなのですが、フェアに言いますと、中根さん自身にもちょっと責任はあるのかなと私は思うのです」ともおっしゃいます。というのも、「この後、中根さんが論を展開させていくと、1カ所しか居場所がないからこそ、要は年次が上の人、その場所に長くいる人、つまり先輩とか、第何期生というものを尊重する、顔を立てることを求められる」などといったことも書かれていくからです。
また、呉座先生が指摘するように、「でも一方で、実は日本のリーダーというのは弱い」ということも書かれていたりする。このあたり、やはり、まずは誤解に引きずられずに読み進めるべきだということでしょう。
では、どう理解すべきか。
與那覇先生は「ヨコ社会の典型はインドであると、日本とインドを対極に置いたのが中根さんの独創性」だと指摘します。中根さんは社会人類学者として、1950年代にインドを実地調査していました。その知見をいかして書かれたのが本書なのです。
中根さんが説いたのは、《日本人はアイデンティティを「場」に置き、インドは「資格」に求める》という違いでした。
その例として挙げたのが嫁姑の関係です。日本では家という「場」が重んじられるので、よそから来たお嫁さんは孤立しがちだが、インドでは「資格」で動くので、周りの嫁さん同士が「同じ嫁という立場だから応援してあげないといけない」となって、嫁軍団VS姑軍団の戦いになるのだと。
ヨコ社会での「資格」によるアイデンティティは、言葉を変えるなら「身分」「ステータス」ということになるだろうと、與那覇・呉座両先生は議論を進めていきます。身分やステータスはどこへ行っても変わらず、身分に基づく仲間意識も変わらない。一方、日本のように「場」にアイデンティティを求める日本では、いったん離れると「よそ者」扱いになってしまう……。
このような分析を前提としての、小津安二郎監督の「東京物語」論、日本の会社におけるワン・セット主義と分業の苦手さなどが展開されていきます(第2話、第3話)
そして、第4話では、実は江戸時代以前の日本では、「ヨコ型」の要素も多く存在していたことが紹介されます。たとえば、呉座先生が「兼参」というあり方をご紹介くださいます。これは複数の主君に使えること。有名な例は、足利義昭と織田信長の両者に仕えていた明智光秀ですが、光秀にかぎらず、そのような事例は戦国時代まではかなり見られたといいます。また、「半手」というものもありました。これは大名Aと大名Bの境界領域の地域の人々が、年貢を半分ずつAB両者に払っていた事例です。さらに、同業組合である「座」も、ヨコ社会的なものといえましょう。
では、タテ型の社会とヨコ型の社会は、どのように違うのか。その点も、第4話で解説されます。
そしてさらに両先生の議論は「平成の政治改革は、なぜ失敗したのか」「平成の競争主義は、なぜ失敗したのか」へ発展していきます。タテ社会でガチガチの社会を変えようとして、いろいろ試みたけれど、結局うまくいかなかったというのです。
ここで非常に興味深いのが、「日本人は競争をしないとかいわれがちだが、実はタテ社会だからこそ、海外よりもより究極の競争をしてきたのではないか」という問題提起です。はたしてどういうことかは、ぜひ第5話でご覧ください。
そして、さらに議論は進んでいきます。日本社会において、タテ社会で競争に負けた人は、いかに救済されたのか。日本型組織や日本型リーダーシップの弱点とは何か。また、中根さんが『タテ社会の人間関係』を書いてから50年以上を経て、これから日本はどのような社会になっていくのか……。そのような諸点が、歴史などをひもときながら、まさに縦横無尽に論じられます。
名著は、いつまで経っても大きなヒントを与えてくれる。そのことを実感できる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆與那覇潤×呉座勇一:『タテ社会の人間関係』と文明論(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5452&referer=push_mm_rcm2
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編集部#tanka
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己が幹を蟲に喰わせる愚者ありて老木倒るか秋の嵐に
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