編集長が語る!講義の見どころ
なぜ「性」があるのかを考える…ヒトの性差とジェンダー論/長谷川眞理子先生【テンミニッツTV】

2024/10/15

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

なぜ「性」があるのか。とかく「LGBTQ」などの言葉が大きく浮上し、社会的にもインパクトを与えていくなかで、その根本である「性」について、ともすれば理解が後手に回ってしまう面もあるように思われます。

「性」について考えることは、生命の根幹に触れることでもあり、また、生物の本義について深く思いをめぐらせることでもあります。性がある意味とは。性差はどのように生まれるのか。

本日はそのことについて、長谷川眞理子先生にわかりやすくご解説いただいた講義を紹介いたします。概念論のみならず、様々な生物の実際の姿も多岐にわたって紹介される、とても興味深い講義です。

ちなみに、ボーヴォワールの「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」という有名な言葉がありますが、長谷川眞理子先生は「それは、まったく正反対」だとおっしゃいます。はたして、どのようなことなのでしょうか。

◆長谷川眞理子:ヒトの性差とジェンダー論(全8話)
(1)「性」とは何か
MLBのスーパースターも一代限り…生物学から迫る性の実態
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5476&referer=push_mm_rcm1

さて、そもそも、なぜ「性」があるのでしょうか。長谷川先生はこうおっしゃいます。

《性の起源をたどると、性というのは別の個体と遺伝子を混ぜ返して、自分の子孫に違う遺伝子構成を持たせるのが有利だったということです》

なぜか。

《1000個の子どもを作ったとしても、全部同じだとすると、うまくない環境に行ってしまうと一網打尽で全滅です。それよりは、ちょっと違うものを持たせたほうが、どれかが生き残るチャンスがあった。そういうことで、ときどきは遺伝的に違うものをつくったほうがよかったということらしいです》

この言葉だけで、なぜ自分を「コピー」するのではなく、違う遺伝子を混ぜ合わせることを営々と続けていくのかの意味が明白になってきます。そして長谷川先生は、「進化」についても、次のようにおっしゃいます。

《「進化」ということばを今は「ゲーム機の進化」や「炊飯器の進化」などと用いているため、「何か良くなることが進化だ」と混同されていると思います。でも、そんなことはない。価値観とは別に、進化というのは次の世代、また次の世代で、うまく生き延びて子どもをたくさん残した遺伝子が広がるということです》

まさに、性の意義や、多様性の意義が、これらの言葉に集約されているといってもよいでしょう。《生殖は結局、「自分とは違うものをつくっていく」ということ》だということです。ですから、大谷翔平選手のように優秀なメジャーリーガーの子供でも、分裂して二世になることは絶対になく、半分の遺伝子を受け継ぐだけで、その半分もどの半分が取られるかはまったくランダムなのです。

あらかじめ良し悪しを「設計」するのではなく、あくまでランダムのもののなかから、うまくいったかどうかが結果として表われる。もちろん、個々の個体にとっては厳しい側面はありますが、「どのように環境が変化するかわからない」ことへの対応だと考えれば、これがいちばん良い方策なのでしょう。これは、自由な市場競争の「見えざる手」にも通じる真理といえるようにも思えてきます。

第2話、まず紹介されるのは、なぜ卵子と精子なのかということです。生命の誕生に向けてたくさんの栄養を持っていなければいけない卵と、よいよい受精のためにとにかくよく動かなくてはいけない軽くて数多い精子。この特性の違いが、当然、性差にも現われることになります。

そしてさらに、さまざまな生物の事例が紹介されていきます。たとえば、雌雄同体の形をとるミミズのあり方。また、チョウチンアンコウのオスは小さくて、メスを見つけると、メスの身体のどこかに噛みついて、やがてメスに融合してしてイボのようになってしまう。しかし精巣は残っていて精子をつくりつづけ、精子は血液に乗ってメスの身体を循環し、卵子に受精する……。

生物の世界では、気の毒なのはたいていオスだという指摘もありますが、長谷川先生がそこでも「『気の毒だ』というのも、やはり価値観だから」とおっしゃるのは、まことに滋味深い言葉といえましょう。

また、オスの競争でメスを囲い込むアシカ。メスが選り好みをするグッピーや七面鳥。夫婦で育児で協力するタヌキ。さらに同じ類人猿でも、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンとでは性行動が全然違う……。このあたりも、まことに興味深いお話です。

第4話では、性決定のプロセスをご解説いただきます。実は、哺乳類のデフォルトは「メス」です。何もしなければ「メス」になるものを、あえて胎内で「オス」にしていくのです。このメールの冒頭部でも書いた「ボーヴォワールは、全然反対だ」というのは、まさにこのことを指します。その仕組みも、ぜひとも知っておきたいところです。

第5話では、「文化的ジェンダー」について、第6話では「生物学的に見た普遍的な身体の性差」についてご紹介いただきます。そして第7話では文化的ジェンダーと生物学的性差をにらみつつ、現代社会を「人間が生きやすい社会」にするためにどう考えるべきかが論じられます。まさに現代だからこそ、必見の内容といえましょう。

最終第8話は質疑応答編です(本講義は、公開講座収録のため)。ここで印象深いのは、長谷川先生が《生物は全てバリエーション》であり、《生物学で重要なのは「生きていること」である》ことを強調されることです。まさに全編を通じて、「頭で考えた話」ではなく、生きる勇気と覚悟がわいてくる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆長谷川眞理子:ヒトの性差とジェンダー論(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5476&referer=push_mm_rcm2


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