編集長が語る!講義の見どころ
「魏志倭人伝」は異例づくめ?…卑弥呼と邪馬台国の真実/渡邉義浩先生【テンミニッツTV】
2024/11/12
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
邪馬台国は、日本の古代史ロマンの象徴的なものといって過言ではないでしょう。「邪馬台国はどこにあったのか?」「女王・卑弥呼とは何者なのか?」など、日本史最大の謎について、これまで多くの論者が「邪馬台国論争」を繰り広げてきました。
しかし、中国の「史書」を比較した場合、あるいは歴史書『三国志』の記述を比較した場合に見えてくるのは、いったいどのようなことなのでしょうか。
本日は、『三国志』研究の第一人者でいらっしゃる渡邉義浩先生(早稲田大学文学学術院教授)の邪馬台国に関する講義をご紹介します。渡邉先生は、実は「魏志倭人伝」で「倭=日本」は、他の周辺国と比べて異例なほどに詳しく書かれ、しかも高く評価されているのだといいます。はたして、どのようなことなのでしょうか。
◆渡邉義浩:『三国志』から見た卑弥呼(全3話)
(1)『魏志倭人伝』の邪馬台国
異民族の記述としては異例な『魏志倭人伝』と邪馬台国
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ご案内のとおり、邪馬台国や卑弥呼は、『魏志倭人伝』の中にその記載がありますが、そもそもこの『魏志倭人伝』とは、『三国志』の中の「魏書」第30巻の「東夷伝」の「倭人条」の略称です。
『魏志倭人伝』では、邪馬台国は魏の東南から1万2千里、中心都市である洛陽から約1万7千里のはるか南方の海上にあり、人口75万人の「大国」とされています。この大国というイメージは、どのようにして作られていったのでしょうか。
渡邉先生がまず注目するのは、『三国志』全体で37万字ある中で、『魏志倭人伝』に2千字を割いていることです。全体からすればわずかですが、どの異民族よりも倭人について一番多くの字数を割いている特異さであり、『史記』や『漢書』など「二十四史」と呼ばれる中国の正史(公的な歴史書)の中でも、日本がそのような描かれ方をしているのは、この『三国志』だけだそうです。
つまり「二十四史」のなかで、『三国志』だけが倭について詳述している。しかも、鮮卑や烏桓(うがん)など強力な周辺民族や、隣の朝鮮半島なぜすべての民族を抑えて、倭国のことについてたくさん書かれている「極めて異常な本」だと。
では、『三国志』を著した陳寿は、なぜそれほど倭国を重視した書き方をしたのでしょうか。これについて、渡邉先生は、卑弥呼に与えらえた「親魏倭王」という称号を手掛かりに、仮説を立てていきます。
実は「親魏○○王」という王号を与えられているのは、『三国志』の中で2つしかありません。一つが「親魏倭王」であり、もう一つが「親魏大月氏王(しんぎたいげつしおう)」です。ここで親魏大月氏王と呼ばれるのは、クシャーナ朝のヴァースデーヴァ王。クシャーナ朝の全盛期を築き上げたカニシカ王の孫に当たります。
そのような国と、倭国がなぜ並びたち、しかも『三国志』には大月氏国よりも詳しく書かれたのか。その背景には、魏国内での勢力争いがあるというのですが、詳細については、ぜひ講義第1話をご覧ください。
また、倭国から魏へは景初3年(239年)からの9年間で4回使者が派遣されており、魏から倭国へも2回使者が送られています。後年の遣唐使と比べた場合、遣唐使は平均すると約18年に1回しか唐に行っておらず、しかも唐から使者が日本に来ることもそれほどありませんでした。つまり、遣唐使の頃より、はるかに緊密性が高いのです。
実は日本では、三国志で「魏」と対抗する国であった「呉」の鏡が出土するといいます。つまり、倭国が魏と呉のいずれにつくかが、魏の戦略上、地政学的にとても重要だと考えられていたのです。
加えて、「魏志倭人伝」では、実は「中国と同じようなものがある」とか、「中国の礼が伝承されている」といった書き方を倭国に対してしているといいます。場合によっては『論語』の記述なども下敷きにしながら、いかに文明レベルの高い国かと記述されている。また風俗の描写も、儒教経典の社会観を下敷きにしている部分がある。このあたりは、文献学者でいらっしゃる渡邉義浩先生のご分析が冴えわたるところです。
このような倭国の記述には、事実も、そして著者の陳寿の頭の中の理念・虚構も入り混じっているといいます。はたして、そこから見えてくるのはどのようなことなのでしょうか。
邪馬台国については日本でも本当に諸説ありますが、『三国志』の中の『魏志倭人伝』から見てみると、また違った物語が浮かび上がってきます。また、ある国についてどのように評価を下すか、国の評価がどのように形づくられていくのかという点では、現代にもきわめて通じる部分もあるといえましょう。古代ロマンについて想いを馳せながら、さまざまなことに考えを巡らせることができる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆渡邉義浩:『三国志』から見た卑弥呼(1)
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編集部#tanka
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