編集長が語る!講義の見どころ
混迷の時代の生き方を『太平記』に学ぶ/兵藤裕己先生【テンミニッツTV】

2025/06/10

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
6月10日は、足利尊氏が後醍醐天皇に呼応して挙兵した日です(1333年)。その時代の歴史を書いた古典的名著が『太平記』。いうまでもなく、後醍醐天皇や足利尊氏、楠木正成、新田義貞などの波乱にとんだ運命を描いた名作です。

『太平記』というと、「ああ、そんな古典もありましたね」ということで終わってしまうかもしれませんが、さにあらず。

実は、国際政治学の泰斗でいらっしゃった高坂正堯先生(京都大学教授)は、「乱世の困難な状況における人間の生き方」を考えるために読むべきものとして、『太平記』を挙げたといいます。

その理由は、「『太平記』にはいろいろな人が出てくるが、成功した人だけでもなく、失敗した人だけでもない。みんないろいろな生き方をしているので、学ぶところが多い」から。これは、とても印象深い話です。

いうまでもなく、現在、まさに乱世の混迷のなかにあります。直近でも、アメリカではトランプ大統領とイーロン・マスク氏の罵りあいが報じられています(予想されたことではありますが……)。日本でも、来たる選挙に向け、米問題から年金問題、ひいては皇室問題までを持ち出して、想像を絶する混乱した発言が乱発されています。

このような時代に、ぜひ『太平記』について学んでみてはいかがでしょうか?

『太平記』は江戸時代に大人気でしたし、明治から昭和初期にかけても「国民の常識」でしたが、現在では、その内容を知らない人も増えています。はたして『太平記』とはいかなる書物で、どのような意義があるのか。

それについて、岩波文庫版の『太平記』(全6巻)の校閲も務められた第一人者・兵藤裕己先生(学習院大学文学部教授)に教えていただいた講義を、本日は紹介いたします。

◆兵藤裕己:『太平記』に学ぶ激動期の生き方(全6話)
(1)なぜ今『太平記』を読むべきなのか
『太平記』は乱世における人間の処し方が学べる古典文学
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3732&referer=push_mm_rcm1

世の中が乱れたときに『太平記』を読むことの意味を、兵藤先生は次のように語っておられます。

《『平家物語』は、わりと人間が一面的に描かれていて、「いい奴か悪い奴か」に分かれます。ですが『太平記』は、成立過程にも由来するのですが、いろいろな要素を抱え込んでいる人間が出てきます。その意味では、乱世という時代において、いろいろなタイプの人間の処し方を見るうえでは参考になる本ではないかと思います》

『平家物語』は、新しい武士階級が王朝的世界を打倒していくという、わりと明快な歴史の図式で書かれていますが、『太平記』は、どこまでいっても戦争は終わりません。しかも、『太平記』は複雑な成立過程を経たため、後醍醐天皇にせよ、足利尊氏にせよ、さまざまな人物たちについてのさまざまな評価が入り交じることになりました。

危機の時代に人びとが織りなす興亡劇。そのなかでのいろいろなタイプの人間の処し方が描かれているからこそ、多くの教訓を読者に与えてくれるのです。

では、どのような人間像が描かれるのか。それはぜひ講義をご覧ください。

たとえば兵藤先生は、日本において能力主義が根づかない要因についても語ってくださいます。後醍醐天皇の政治がいかにひどかったかの証拠として歴史の教科書にも載っている「二条河原の落書」についても、「あれは嘘でしょう」と一刀両断されます。

一方で、後醍醐天皇が「民と直結した政治」をめざし、それに「在野草莽」の楠木正成らが応える、という『太平記』の構図は、歴史的にも深い意味をもったと兵藤先生は指摘されます。「偉いのは天皇であり、あとは軍人であろうと公務員であろうと、みんな『民』だ」という「一君万民」的な姿が描かれたことが、日本が国民国家になるにあたって、とても大きな役割を果たしたというのです。

ある意味では、多面的な見方が、いかに生まれるのかも理解できます。

さらに『太平記』の物語が、どのように江戸期の文化、さらに明治維新にも大きな影響を与えたかという分析は、とても興味深いものです。

『太平記』が日本の歴史を大きく動かした「国民的物語」であることが、よく理解できます。『太平記』の意義や内容を知っておくことは、歴史観や人間観を磨くためにも、また、これからの日本の行方を考えるためにも、まことに重要なことといえましょう。

『太平記』の成立背景や枠組みについて知ることのできる本講義は、まさに入門編として、うってつけです。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆兵藤裕己:『太平記』に学ぶ激動期の生き方(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3732&referer=push_mm_rcm2


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