編集長が語る!講義の見どころ
クーデターの条件~台湾を事例に考える/上杉勇司先生【テンミニッツ・アカデミー】

2025/10/21

いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。

クーデター。この言葉には、独特の響きがあります。日本史を振り返っても、「本能寺の変」や「二・二六事件」をはじめ、歴史を動かしたクーデターが幾度も起きています。

現代の日本では縁遠いように思えるクーデター。しかし、たとえば1945年から2024年までに、世界で何件のクーデターが起きているかご存じでしょうか?

イリノイ大学『クーデター・データベース』によれば、正解は「1094件」。そしてその半数近い「458件」が成功しているといいます。

しかもクーデターは、いったん1975年をピークに減少傾向だったものが、2019年から再び増加傾向にあるといいます。その背景には、中国やロシアなど「権威主義」の国々とアメリカとの対立、さらに「ワグネル」など民間軍事会社の暗躍などがあります。

このようなクーデターは、まさにある意味での「究極の事態」だけに、そのことを詳細に分析していくと、国際政治の様々な様相や、国内政治のバランスなど「政治の要点」が、まざまざと浮き彫りになります。

本日は、そのことについてお話しいただいた、上杉勇司先生(早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授)の講義を紹介します。上杉先生は中公新書から『クーデター――政権転覆のメカニズム 』(2025)を発刊しています。この講義も、この発刊を記念して、テンミニッツ・アカデミーと中央公論社さんとの連携で行なわれた紀伊國屋書店新宿本店での講演会を収録したものです。

ただし、書籍発刊講演会といっても、たんに書籍の内容を紹介しただけではありません。今回の講演会は、書籍には書かれていない内容を軸に進んでいきます。

それが、「台湾でクーデターが起きたらどうなるか」というもの。そこからクーデターの本質を描き出そうという試みですが、はたして見えてくるものとは、どのようなものでしょうか?

◆上杉勇司:クーデターの条件~台湾を事例に考える(全6話)
(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5969&referer=push_mm_rcm1

ところで、クーデターとはどのようなことなのでしょうか。上杉先生は、「政権の権力者を一撃で交代させる行為」「担うのは支配階級に属する一派」という点を強調されます。

そのようなクーデターを、より肌身に迫って理解するために、今回の講義では「台湾でクーデターが起きたらどうなるか」に迫っていきます。

これはある種の頭の体操で、必ずしも蓋然性が高いということではありません。しかし、実際に考えてみることで、いろいろなポイントを深く考えることができるのです。

台湾クーデターのシミュレーションは、「まず、中国共産党率いる中国との平和的統一に賛同する政党が選挙で勝利する」ところから始まります。

中国共産党が認知戦、あるいは情報戦を駆使して、「軍事的侵攻が起こる」「経済封鎖をされて台湾が生き残れなくなる」「アメリカは助けてくれない」というような認知が台湾の中で広がっていく。そのなかで、たとえば51対49というような僅差で「平和統一派」が勝利を収める……。

こうしたなかで「台湾の自治」を重んじる勢力に呼応しつつ、国軍の一部が決起するというシナリオです。

では、台湾で「政権の権力者を一撃で交代させる行為」はいかに可能なのでしょうか。今回の講義では、台湾軍の配置図なども検討しながらその条件を読み解いていきます。

実は、クーデターを防ぐための仕掛けは、とりわけ独裁政権下ではさまざまに構築されています。よくあるのが、軍隊などの実力組織においてある種の「二重権力」を設けることです。ナチスの「親衛隊」やイランの「革命防衛隊」のように国軍とは別に実力組織を設ける場合もあれば、中国共産党の「政治委員」のように、軍隊のなかに軍事将校とは別に、政治将校を設ける例もあります。

日本の「二・二六事件」の折も、決起した陸軍とは別に、天皇直属の近衛師団や海軍の存在がありました。とりわけ、昭和天皇が「自分が近衛師団を率いて鎮定する」と強い怒りを示したことが、クーデター失敗に直結しました。

台湾の場合、そのような別立ての実力組織はありませんが、蒋介石の国民党による独裁以来、クーデターを避ける構えはいくつもつくられていました。では、どうすればクーデターは成功させるか?

ここで取りあげられるのが、フィリピンのピープル革命や、アラブの春の折のエジプトなどの事例です。クーデター部隊が台湾総統府を占拠した場合、その周囲に「中華人民共和国との平和統一に反対する人々」が数万、数十万と集まって、いわば人間の盾のように取り囲んだらどうなるか。そしてそのときに、中国共産党やアメリカはどう動くか?

さらに考えるべきは、クーデター後の「民政移管」です。速やかに民政移管をして民主主義を取り戻さないと正統性が構築できないので、それは必要不可欠です。その点、台湾はいちど民主化した経験があるので、そのような経験がない国々より有利ではあります。

ここで興味深いのが、実際に台湾民主化を実現した李登輝さんの事例です。台湾では蒋介石の没後、その子息の蒋経国が総統を務めていましたが、1988年に急逝します。そのときに副総統だったのが李登輝さんでした。

李登輝さんは総統に就任して民主化を進めていきますが、そのときの手法が興味深いのです。まず、当時の軍の最大の実力者であった参謀総長を国防部長にします。これは格上げでしたが、同時に、現場への影響力を削ぐ一手でもありました。さらにその後、彼を今度は国防部長から行政府のトップ(首相)に据えて、軍の統率権から完全に外すのです。

台湾でも、中国共産党における人民解放軍と同様に、もともと「党の軍隊」でしたが、その「国軍化」を進めます。急激な改革は軍が反発するので、10年ほどかけて様々な法整備をしていきます。法整備が完了するときには、李登輝さんは台湾民主化の揺るぎない基盤を確立していたのです。

このような李登輝さんの手腕は、「一撃で倒す」クーデターとは対極的ですが、両者を並べたとき、どのようなことが見えてくるのか。ここもとても興味深いテーマといえるでしょう。

さらに上杉先生は、「世直しクーデター」の可能性にも言及していきます。はたして「世直しクーデター」とはどのようなことでしょうか。

シミュレーションで様々なことを考えていくことで、国際政治や国内政治の様々な要件を深く考えていくことができる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆上杉勇司:クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5969&referer=push_mm_rcm2


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