編集長が語る!講義の見どころ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論/一ノ瀬正樹先生【テンミニッツ・アカデミー】
2025/10/28
いつもありがとうございます。テンミニッツ・アカデミー編集長の川上達史です。
皆さまのなかで、ペットを飼っていらっしゃる方も多いことでしょう。まさにペットは家族の一員。その存在が心の支えにもなってくれるものです。
ペットと接していると、なぜか「生き方」についても考えさせられることがあります。ペットの息遣い、ふとした表情、信頼を寄せてくる姿……。それが鏡のように、人間の生き方も映し出してくれるのです。それはおそらく「生きる」姿が、ダイレクトに心に響いてくるからでしょう。
本日は、一ノ瀬正樹先生(東京大学名誉教授/武蔵野大学グローバル学部教授)が「人と犬」の関係について、倫理哲学的に語ってくださった講義を紹介します。「ここまで深い話になるのか!」と感銘することうけあいの、とても興味深い講義です。
◆一ノ瀬正樹:東大ハチ公物語―人と犬の関係(全5話)
(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1758&referer=push_mm_rcm1
渋谷のハチ公像をご存じない方はいらっしゃらないことでしょう。日本でも『ハチ公物語』という映画になっていますし、リチャード・ギア主演のハリウッド映画『HACHI』にもなっています。一ノ瀬先生は『ハチ公物語』をご覧になり、あまりの感動に胸が詰まって、非常に苦しみを感じたほどだったといいます。なぜ、犬と人の話に、これほどまでに感動するのか? それが一ノ瀬先生の大きな問題意識となりました。
この感動を後世に伝えるために、ハチの没後80年にあたる2015年に、東京大学の農学部キャンパスに、ハチの銅像がつくられました。ハチ公といえば「渋谷」ですが、なぜ東大に銅像ができたのでしょうか?
それはもちろん、ハチの飼い主である上野英三郎博士が、東大農学部の教授だったからです。上野博士は農業土木専攻でしたが、当時、東大農学部は今の駒場キャンパスにあり、上野博士は渋谷の松濤に自宅を構えていました。
普段は歩きで駒場キャンパスまで通っていましたが、政府の用事などで出張したりしたときは、必ず電車で渋谷で降りて帰ってきます。上野博士はとてもハチをかわいがりましたので、ハチは心から上野博士を慕っていました。それで、いつしか「上野博士の姿が数日見えないときは、渋谷駅にいれば主人が帰ってくる」ということを学びます。
ところがある日、上野博士は大学で悲劇的な急死をしてしまいます。数日、博士が帰ってこないので、ハチは「渋谷駅にいけば、いつものように主人が帰ってくるんじゃないか」と思って渋谷駅に通うようになる……。それがハチの物語のあらましです。
驚くべきことに、上野博士が亡くなったのは、ハチが1歳数カ月のときの話だといいます。その後、ハチは10年ほども渋谷に通い続けたのでした。
人は、なぜこの話に、深く心を動かされるのでしょうか。一ノ瀬先生は、次の3つのモデルで議論を進めてくださいます。
●頽廃モデル
●補償モデル
●返礼モデル
頽廃モデルは、ディープ・エコロジストとして著名なポール・シェパードに代表される見方で、「愛玩動物として犬などのペットと暮らすことは、道徳には推奨されない、マイナスの価値しかないものだ」という考え方です。ペットの存在は、巡り巡って「人間とは、自分たちは何であるか」という理解を妨げてしまうことになるのではないか、というのがシェパードらの言い分だそうですが、それはどういうことでしょうか?
補償モデルは、ペットを飼い慣らすことに「頽廃モデル」が示すような倫理的問題性が潜在していることを考慮しつつも、その条件の中で最善を目指す考え方です。つまり、人間が都合の良いように改造し、人間が閉じ込めて飼っている以上、その補償・代償、償いをして、彼らの福祉を十分に考慮してあげることが求められるという物語り方になります。
これらに対して、返礼モデルは、「犬は私たちよりはるかに強靱な生き物(存在者)であり、私たちに恵みや思いがけぬ幸運を与えてくれるのだから、私たちは当然のマナーとして返礼をしなければならない」とする考え方です。
一ノ瀬先生は、「犬は環境破壊も戦争もせず、過去に固執せず、人間よりもはるかに道徳的に高潔ではないか」とおっしゃいます。その高潔な犬の恩恵を、われわれは受けているのではないか、と。
このように書いて説明すると、小難しく思えてしまいますが、一ノ瀬先生は、ペットの殺処分、動物虐待、動物実験、アニマルセラピー、宮澤賢治の「注文の多い料理店」などといった話も織り交ぜつつ、とても面白く議論を運んでくださいます。
身近なテーマからはじまって、考える力を大いに刺激し、感受性も高めてくれる講義です。ぜひご受講ください。
(※アドレス再掲)
◆一ノ瀬正樹:東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1758&referer=push_mm_rcm2
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