編集長が語る!講義の見どころ
自由と民主主義をモンテスキューとルソーに学ぶ(テンミニッツTV)
2020/12/25
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
今年の「課題」をどう振り返るか。本当に大変な1年でしたので、様々なことが浮かび上がってきますが、1つのポイントは「民主主義の危機」ではないでしょうか。
コロナ禍のなか、欧米西側諸国では必ずしも防疫政策がうまくいかず、多数の犠牲者が出ています。日本の政策決定も、ややもすれば混乱が目立ちました。さらに、アメリカの大統領選挙では、「自由」と「民主主義」を突き崩しかねない多くの問題が噴出しました。
一方、中国などはAIなども駆使して、強権的な監視政策と隔離政策を行って感染拡大を食い止めたと主張し、「自分たちの体制こそが国民を守れる」と宣伝しています。しかし、本当にそのような社会で良いのか、やはり疑問は尽きません。
そもそも「自由」「民主主義」とはいかに生み出されるものなのか。また、「自由」「民主主義」の本質とは何なのか。本日はその点について、モンテスキューとルソーの対比から明らかにしていただいた川出良枝先生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)の講義を紹介いたします。
◆川出良枝:政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ(全11話)
(1)二人の思想家
モンテスキューとルソーには共通の敵がいた
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3620&referer=push_mm_rcm1
【質疑篇】(1)モンテスキューとルソーの人物像
エピソードが語るモンテスキューとルソーの両極端な人物像
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3627&referer=push_mm_rcm3
川出先生いわく、モンテスキューは自由主義思想を確立した重要な人物。ジャン・ジャック・ルソーは、人民主権や市民の政治参加を主張した民主主義思想のチャンピオンです。このシリーズは、講義形式でモンテスキューとルソーについて論じていただいた「講義篇」と、質問にお答えいただく形で疑問点を深掘りした「質疑篇」からなっています。
講義形式のなかで疑問に感じた点が、質疑篇で見えてくることもあると思います。ぜひ、両方をご覧いただき、理解を深めていただければ幸いです。
これは「質疑篇」でも詳しく語られる話ですが、モンテスキューはフランスのボルドー出身の貴族です。ボルドーという地名から連想されるようにワインの醸造と輸出などの経営も手がけつつ、法律家や文筆家としてマルチな才能を発揮し、家庭にも恵まれた人物でした。
一方のルソーは、フランスで活躍したものの、好んで「ジュネーブ市民」と名乗っていました。相手から好かれるタイプなのですが(ご婦人方にも人気があったそうです)、なぜかその人とケンカ別れしてしまうようなことが非常に多かった破格な人物だといいます。
モンテスキューは、あくまで現実的に物事を見て、常識的なものの見方や中庸の美徳を重んじるタイプ。ルソーは曖昧なものが許せず、極端から極端に振れるタイプであるようです。思想家の人間像を知ることは、とても興味深いことで、その人となりを前提に思想に迫ると、見えてくるものも変わってきます。
この2人は、さまざまな面で異なっていたけれども、「共通の敵」がいたと川出先生は指摘されます。共通の敵は「専制(デスポティズム)」でした。彼らにとっての専制とは、いわゆる絶対王政、そして非常に不寛容で強権的な政策を取る教会(カトリック・プロテスタントともに)です。彼らは、「専制」を痛烈に批判し、人間と市民の自由を拡大するために闘ったのです。
しかし、その闘い方が異なりました。モンテスキューは絶対王政を厳しく批判しましたが、一方で人民が完全に主権を掌握する純粋な民主政も、絶対王政と同様に危険という発想でした。
ルソーは、「問題を解決するためには、新しく契約を結び直して新しい国家をつくりあげる必要がある」という「社会契約論」を展開し、さらに真の人民主権を確立するために「一般意志・特殊意志・全体意志」の議論を展開します。ところが、このルソーの議論は、後にジャコバン派の恐怖政治や、ボルシェビキ、あるいはナチスの独裁の(ある種の)理論的背景にもなりかねないものだったのです。
それぞれの議論がどのようなものか、また、その現代的意義がどこにあるかは、ぜひ講義本編をご覧ください。とてもわかりやすく、自由主義や民主主義の基礎的理論が腑に落ちる、まさに今こそ学ぶべき講義です。
(※アドレス再掲)
◆川出良枝:政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3620&referer=push_mm_rcm2
【質疑篇】(1)モンテスキューとルソーの人物像
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3627&referer=push_mm_rcm4
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今週の「エピソードで読む○○」Vol.17
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今回の○○は、幕末維新の英雄といわれる、ご存じ「西郷隆盛」です。
佐藤一斎には、40代から80代まで書きつづった、およそ1133の文章からなる『言志四録』という書物があります。これは、西郷南洲(西郷隆盛)が沖永良部島へ流された時に持っていった書物で、沖永良部から帰って来た罪人はいない、死にに行け、という状況の中で、1133ある文章の中からこれは外せない、これこそが自分をしっかりした人物にするだろうというものを101ピックアップしてまとめたものが、『南洲手抄百一言志緑』です。
『言志四録』は西郷隆盛が流罪の時に持参した書物
田口佳史(東洋思想研究者)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=854&referer=push_mm_episode
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レッツトライ! 10秒クイズ
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「哲学・思想(キリスト教)」ジャンルのクイズです。
新約聖書には、3種類の「愛」が出てきます。満たされないものを求めようとする「〇〇〇」、仲間を思う「フィリア」、自らが他者に何かを与える「アガペー」の3つです。
さて〇〇〇には何が入るでしょうか?
答えは以下にてご確認ください
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1661&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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編集部の加藤です。今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて、2020年もあと1週間となりました。今年もいろいろな講義が配信となりましたが、皆さんはどの講義が特に学びになった、あるいは面白かったでしょうか。お時間があれば、もう一度ご視聴いただければと思います。
では勝手ながら、ここで私が個人的に興味深かった講義を以下、ご紹介いたします。
「ありがとう」と言うしかない人が教えてくれたこと
津崎良典(筑波大学人文社会系准教授)
五十嵐沙千子(筑波大学人文社会科学研究科准教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3512&referer=push_mm_edt
なかでも特に心に響いたのは以下、五十嵐先生の話です。
“わたしの存在で喜ぶ人がいて、それはわたしが与えているんじゃなくて、実はわたしがもらっているということなんだろうなって思った”
この話、<「幸福とは何か」を考えてみよう>シリーズの2話目に出てくるのですが、幸福と存在、そして「与える(与えられる)」ということについて、改めて考えさせられる貴重な講義だと感じた次第です。
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